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落ちる音

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ツマミをつまみ、酒やジュースを飲み、雑談に花を咲かせ、夜は更けていく。

「サンちゃん前髪長いけど物食う取る時とか一緒に食うてもぉたりせんのん?」

「するよ、和式トイレめちゃくちゃ苦戦するし」

サンはスケッチブックの上に鉛筆を走らせながらリュウと話している。

「いや絶対食うならハナハナっすよ、日常生活めちゃくちゃ便利っすもんアレ」

「お前スタンドならハーヴェスト選ぶタイプだろ」

「なんで分かるんすか!? そういう先輩は……」

「ゴロゴロ一択。アレ最強だろ」

「……何に使うんすか? 現代日本では戦闘なんてまずないんすから強さとか要らなくないっすか?」

「まぁ……それは、そうだけど……素早いから、遅刻とかしないし、ほら、電気代とか払わなくてよくなるし」

「…………スタンドならレッチリなんすか?」

「いや、アレ充電要るからヘブンズドアがいい」

「何に使うんすか?」

「……よく考えると俺には使いどころないな、アレ……人の記憶覗いても別に、あんまり……あっ教授とかに何か書き込めば単位もらえるんじゃないか!? っていうか俺の口座に振り込めとか無差別に書き込めば……!」

「ド犯罪者じゃないすか、俺はイラストレーターの仕事の効率化のための能力欲しがってるだけなのに」

レイと歌見も漫画の話で盛り上がっているなぁとジャガイモを食べながらボーッと見つめる。

「あ、先輩は何の実食べたいっすか?」

「虹の実かなぁ」

「実際あんな濃いの食べたら舌壊れると思うっす」

「お前はメロメロだろ、その顔なら存分に使えるはずだ」

「人を石化させる理由ないですよ、しかも俺に見とれてくれた人を! 俺は……スケスケか、ギロギロか……悩みますね」

「活用法もう分かったから言わなくていいぞ」

「スタンドならアクトンベイビーで」

「……せんぱい、男なんすから更衣室とか銭湯に忍び込む必要ないっすよね? 透明人間になりたがらなくても」

「あっ……!?」

漫画やアニメの特殊能力で欲しいものはと妄想する時は、俺は必ず透明になれるような能力を想像していた。そうか、必要なかったのか……今は彼氏達が居るし、裸なんて頼めばいくらでも見せてもらえるしな。

「…………作品変えていいか?」

「え? まぁいいけど、あんまりマイナー作品は知らないぞ。せめてアニメ化してるヤツにしろよ」

「強制的に猥談を喋らせる催眠」

「うわぁ……」

「俺達多分せんぱいの話しかしないっすよ?」

「俺以外の話したら泣き喚くぞ? レイは割と素直に俺の好きなとこ言ってくれるけど、シュカとかはなかなか言ってくれないしなぁ……そこでY談波!」

「物理攻撃には無力だから普通に殴られると思うが?」

「それはそれで! 照れたシュカに殴られるのも俺好きだから」

「昭和ラブコメのドスケベ主人公を制裁する暴力系ヒロインと殴られるの実はやぶさかではない主人公のアレ」

「大正解!」

なんて楽しい話に花を咲かせていると、ガタガタガタタターンッ! と大きな音が聞こえてきた。扉の向こう、廊下の方からだ。

「なっ、何の音だ?」

「お化け!? お化けっすか!? 僕が撮っちゃったお化けぇ!」

「落ち着きぃ、怖がっとったら余計来んで」

「来るってなんすかぁ! やだぁあ! お化け怖いっすぅ!」

喚き散らすレイを放置し、歌見と共に恐る恐る扉を開ける。レイのようにお化けだなんて思ってはいないけれど、強盗が周りに民家もない別荘を狙うとも思えないけれど、色んな想像をしてしまって手が震えた。

「……ぁ」

廊下にセイカが倒れている。彼の足は中途半端に段差に乗っている。まさか、まさか──

「セイカ! セイカっ!?」

──階段から落ちたのか? 何で? 事故? 頭を打った? 意識は? わざと? まさかまた自殺を図ったんじゃ……

「ぅ……痛、痛たっ」

「セイカっ! セイカ、起きるな、頭揺らしちゃダメだ!」

「え……? ぁ、いや……大丈夫、頭打ってないから」

どこに怪我をしたのかも分からない彼を強く押さえる訳にもいかず、ゆっくりと身体を起こす彼を見守った。

「本当か? 本当に頭打ってないのか? 嘘だったら二度と義足つけさせないからな?」

「う、打ってない……あの、俺……受け身? っての結構取れるようになってて。その……秋風が俺の手足でも出来るように考えてくれたんだ。打っちゃダメなとことかも教えてもらって、転んだ時の怪我を軽くする方法習ったんだ。ベットの上で色んな方向に転ばされてさ……俺よく転ぶから、その時に自分や兄貴が支えてやれるとは限らないからってさ」

「……そっか」

俺はそんなこと想像もしなかった。むしろ義足に慣れさせたくないと、俺に依存して欲しいなんて考えてしまっていた。

「頭、打ってないんだな。よかった……アキのおかげだな、アキ……アキは、本当に……お前のために、色々して……俺は自分勝手にセイカのこと支配しようとしてばっかなのにな」

小豆色の髪をかき分けて頭皮を撫でる。頭の側面の刈られた部分の感触は特に気持ちいい。

「…………痛いところあるだろ? 正直に言ってみろ」

「あ、えっと……腕と、足と……腰と、脇腹、肘……」

「多いな、そりゃそうか。湿布とか貼った方がいいかもな、とりあえず部屋に運ぶぞ」

「うん……」

セイカを抱えてリビングへ。ソファに座らせ、まだ跡にはなっていないもののセイカが打ったと痛みを訴えた箇所に湿布を貼っていく。

「しっかしなんで階段から落ちたんだ? 滑ったのか?」

「俺もそれ気になってた。なんでだ? セイカ」

「セイくんだったんだね、大丈夫?」

「すっごい音だったっすよ、病院とか行かなくて大丈夫っすか?」

「ここ擦っとるわ。水月ぃ、絆創膏もいんで」

レイもサンもリュウも寄ってきた。手当てをするのは俺一人で足りているので、セイカを取り囲んでオロオロしているだけだ。

「ぇ、と……まず、俺は、階段ろくに降りられない。病院は大丈夫……そんなに酷くない」

「階段ろくに降りられないって何だ?」

「……足、痺れて自分の意思で動かなくなった時に、階段を降りるのを想像してもらえたら、近いかもしんない」

「落ちそうだな……」

「で、俺は片手しかない上に、身体を支えるほどの握力も腕力もないことを考えてもらえたら」

「……手すりを握ってても無駄、と」

そうそう、と頷くセイカに思わずため息をつく。

「どうして一人で降りたんだよ。アキのスマホ勝手に使えるようにしてもらってるんだろ? メッセくれりゃ迎えに行ったのに」

「…………イケるかと思って」

「そういう慢心はよくない!」

「うん……」

とにかく、大怪我がないようでよかった。湿布も絆創膏も貼り終えたので一息ついて、セイカをダイニングに移動させてジュースを与えた。

「おつまみ食べてみてくれ、俺が作ったんだ」

「でも、歯磨きした後なのに……」

「めちゃくちゃ美味しいっすよ、食べなきゃ損っす」

「後でまた磨いたらええやん」

彼氏達にも勧められ、セイカは不器用な笑みを浮かべて頷き、すっかり冷めたジャガイモをつまんだ。
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