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幼馴染との結婚後を妄想してみた

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閉じたノートパソコンを持った従兄がテントに戻っていく、センパイがそれを追った。社長は深いため息をつき、折り紙を再開した。

「お子さんいらっしゃったんですね」

慣れた手つきで折り鶴を作る社長にそっと話しかける。

「だったら何」

赤紫色の瞳は心底鬱陶しそうに俺を睨んだ。嫌われているようだけれど、怪異との戦いに備えて少しでも仲良くしておきたかった。好き嫌い関係なくプロとして俺を守ってくれるとは聞いたけれど、やはり全く私情を挟まないことなんて人間には不可能だと俺は思う。

「あ、いえ……お若く見えるので、意外だなって」

「僕は二十一だぞ、子供の一人や二人くらい居る」

「双子さんですか?」

「だったら何?」

話せば話すほど嫌われていく気がしてきた。子供を褒めれば機嫌を良くしてくれるだろうか。

「とっても可愛らしかったので……」

「ので?」

「い、色々、聞きたいなって」

あれ? そういえば……社長は従兄と付き合っているんじゃなかったのか? まさか従兄との関係は不倫なのか? 従兄も二股をかけているらしいし、社長と社長秘書なんて不倫の定番みたいなものだ。身近な大人のそんな事情、気付きたくなかったな。

「色々? 何を?」

「あ、えっと、おいくつなんですか?」

「一歳、もう一ヶ月もすれば二歳」

「わぁ……! 一番可愛い時期ですね」

「君が首塚の破壊なんてしなければ僕はその一番可愛い時期の息子達の傍に居られたんだね」

「その節は本当に申し訳ありません……」

墓穴を掘った。社長からの好感度を上げるなんて俺には不可能なのだろうか。

「あー……お、お名前は?」

「なんで君に教えなきゃならないの?」

「すいません……」

「悪いと思ってる訳でもないのになんか機嫌損ねた気がするなーで謝るのやめた方がいいよ」

俺と話すの嫌なんだろうな、この人。

「しぃーしょお~、しつもんしつもーん、いいですか?」

落ち込んでいるとレンが俺の肩を抱いて社長の視線を奪った。無邪気にはしゃいでいるように見えるが、多分社長とろくに話せない俺を見兼ねての行為だろう。ありがたい。

「君も? 何?」

「師匠、秘書さんとデキてるんじゃなかったんですか? 不倫?」

「子供が女性との愛の結晶だというのは思い込みだね、我が家にとって世継ぎは必ず用意しなきゃいけないものだ」

「好きでもない人と子供作った感じですか? 大変ですね」

「僕が駄犬とオナホ以外に突っ込むのは、君達にとっての獣姦以上の忌避感があると思って欲しい」

オナホ使うんだ……獣姦がどうとかよりも、何故かそっちの方に驚いてしまう。

「んー……? 精液採取して、って感じですか?」

「そんなとこ。詳しくは企業秘密」

「へぇ……それなら俺ともちの子供作れたりします?」

「僕の息子にあの駄犬の血は入ってないよ、同性カップルの子供作るサービスを開発中とかそういう話じゃないから」

「そうですか……」

顔から笑みを消したレンは俯いて自身の腹を撫でた、女性だったならば子宮があるだろう位置だ。

「やっぱり俺女の子に生まれたかったな……」

「君、子供にまで嫉妬しそうだから男でよかったんじゃない?」

「子供に嫉妬なんてしませんよ」

「想像してみなよ、自分にそっくりに産まれた子供が彼に甘えているところ」

社長は中指で俺を指し、レンは黙って俺の顔を見つめた。無言のまま見つめ合うのは気まずくて、不自然だろうが微笑んでみる。数秒後、レンの手首にはめられている数珠が一気に三つ半黒ずんだ。

「ほら」

「あれぇ?」

レン、自分そっくりな子供が居たとして、その子供が俺に甘えてきたら嫉妬するんだ……想像して嫉妬して霊力って発生するんだ……

「い、いやいやでも、もちそっくりな子供だったら俺めちゃくちゃ可愛がる! やっぱり女の子がいい!」

「そんな半々かどうかも分からない確率に賭けて子作りしかねないのが男に生まれた同性愛者で本当によかったと僕は思うよ」

「うー……」

反論したかったが、レンの嫉妬メーターでもある数珠の黒ずみ方を目の当たりにした俺は社長の言い分に少し共感してしまって何も言えなかった。

「レン……俺は今のレンが一番好きだから、なっ?」

「もちぃ……そうだな、もちさえ居れば俺は幸せだ! 大好きだぞ~もちぃ、結婚しような~」

励まそうと声をかけると抱き締められ、頬に何度もキスをされた。ライフジャケット同士が擦れ合うぎゅむぎゅむという音を不愉快に思いつつも喜んでいると、弱々しく小指を引っ張られた。

「ぼっぼぼっ、僕もっ、僕も……ののっ、の、のぞっ、ノゾムくんとっ、結婚するっ……!」

数時間後に訪れる怪異との戦いの時に怯えて震えていたミチが、しっかりと砂浜を踏み締めて立っている。

「ミチ……」

「可愛いなぁお前は……もちだけでいいっつったが、ミチも欲しい。俺ともち夫婦の養子になれよ」

「ぼっ、ぼ、僕ノゾムくんと結婚するのぉ!」

「重婚は法律で許されてねぇんだ……諦めな」

「同性婚も許されてないぞー、っていうか……レン、俺はレンと結婚式挙げたじゃん」

「もち……! そうだったな、俺達はもう結婚してた。でもなぁもち……俺はお前に如月姓を名乗って欲しいっ……! 正式に、書類の上で!」

如月ノゾムか、案外と語呂は悪くない。

「ぼ、ぼ、ぼぼっ、ぼく、僕はっ、つつつつっ、月乃宮ミチになりたいなっ……月乃宮って名前綺麗で好きっ」

「ミチぃ、お前は俺らの養子なんだから如月ミチだぞ?」

「ききっ、如月くんの名前も好きだけど……」

形州ノゾムとかどうだろう、そういえばセンパイの姿が見えない。どうせなら三人揃って俺を取り合って欲しい。

「センパーイ……?」

テントの中を覗いてみると、胡座をかいて従兄を足に座らせているセンパイが居た。従兄はパソコンを弄っていて俺に気付きつつも視線は寄越さなかったが、センパイは俺を見て「やばい」という顔をした。

「……ノゾム、どうした?」

「どうって訳でもないんですけど、何してるのかなーって」

「…………兄ちゃんが部下に指示を出すらしいから、ちょっと……見てた。仕事に興味があって」

「そうだったのか? 座って欲しいとしか言わなかったじゃん、言えばちょっとくらい説明してやったのに」

センパイの顔色が悪くなっていく。俺がまた拗ねると思っているのかな? 多少の焼きもちはあるが今回は落ち着いている。焦り困っているセンパイを見て可愛いと思えるくらいに余裕がある。

「仕事って怪異退治に関係あるやつですか?」

「ええ、集合霊じゃない方の都市伝説らしき方……本当に前社長が言う通り魚をタゲってるヤツなのか、ちゃんと調べさせようと思って。本格的な討伐には狩り出せず暇してる部下が居たので、ちょうどいいなーと」

「あー……どうでした?」

「今指示したばっかりなので、まだ何とも」

パソコンを閉じる従兄の表情は仕事をする大人のもので、憧れを抱いてしまう。相変わらずオロオロしているセンパイとは大違いだ、俺よりは歳上だけれどやっぱりまだ子供なんだな。

「証拠がないのに霊視に引っかかるようなヤツ、魚しか食ってなくて人間に被害出てないってのは……なんか、おかしいんですよね。そんな野生動物紛いの妖怪が霊視に引っかかるほど存在感あるとは思えなくて」

「長年の勘ってヤツですね! カッコいいです」

「無駄足させるだけかもしれませんけどね。さて……罠の設置も進めましょうか。國行、手伝ってくれるか?」

「…………あっ、あぁ……ノゾム、一緒に来てくれ。力仕事はさせない、傍に居てくれるとやる気が出る」

「俺も手伝いますよ」

一応高身長寄りの男なのに、か弱い少女のように扱われるのはこそばゆい。俺はセンパイの手を取り、従兄の後を追った。
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