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幼馴染は幽霊にまで狙われる

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レンとセンパイは肉を焼き、俺とミチは野菜串を作り、合間合間にそれらを食べて楽しい時間を過ごした。



バーベキューの後始末を終え、テントの隣に立てたパラソルの下で休む。センパイとのセックスのために立て、敷いたパラソルとレジャーシートだからか、あの行為を思い出してしまって太腿を擦り合わせてしまう。

「はー食った食った、美味かったなー」

「う、うん……この後どうする? まだ海で遊ぶのか?」

「んー……俺はもう十分遊んだけど、お前全然だろ。ヤってばっかだもんな、海に来た意味ねぇよ」

「あはは……じゃあ、もう少しだけ付き合ってくれる?」

サメ型フロートを抱えて海へ。ミチとセンパイも着いてきてくれて、四人で楽しく遊んだ。レンのブレスレットの水晶の濁り具合を気にしていたけれど、遊んでいる間の濁るスピードはとても遅く、彼が嫉妬そっちのけて四人の時間を楽しんでくれているのだとホッとした。

「……空が赤くなってきたな」

「秘書さんパラソル畳んでるぜ。そろそろ戻るか」

夕方頃まで遊び、そろそろ海から上がろうと四人全員の意見が一致する。

「……掴まってろ」

「はーい」

「あっ、ぁ、あ、ありがとうっ、形州」

俺とミチはサメ型フロートの胸ヒレに掴まり、センパイは尾ビレを掴んで先を行く。レンはセンパイの隣を歩いている。

「晩飯何かな~」

「…………ホテルの一階の店に花火が売ってた」

「ん? なんだよ、やりたいのか? いいぜ、買ってみるか」

レンのブレスレットの水晶はじわじわと黒くなり、透明なのは残り一つとなってしまった。
ブレスレットは二つ一組で二組ある。レンの嫉妬を源とした霊力を吸って全ての水晶がドス黒く穢れたら、俺が着けているもう一組と交換するのだ。俺は霊から狙われやすい体質のため、水晶に溜まった霊力で身を守ることでドス黒くなった水晶を透明に戻していくのだ。
だから、レンが嫉妬し過ぎてあっという間に水晶が濁るのは困る。俺の防御に使う消費が間に合わなくなって水晶がキャパオーバーを起こす──あれ?

「……水晶、綺麗」

水晶は俺に寄る霊を退ける度に透明に戻っていく、ブレスレットの水晶が全て元の透明さに戻るには何日もかかるはずだ。なのに、もうひとつ残らず透明になっている。もうレンの霊力が消費された。
つまり、海に入っている間、俺は霊に狙われ続け、身を守るためにブレスレットに溜まったレンの霊力を消費し続け、もう消費し切ってしまっているということだ。
つまり、つまり……ここはめちゃくちゃ危険な場所で、今の俺は無防備ということだ。

「ひっ……!?」

水晶のブレスレットをレンの嫉妬のバロメーター代わりにして、そちらの濁り具合ばかり気にして、自分のブレスレットがどれだけ濁っているか全く気にしていなかった。
自分の馬鹿さ加減にまた気付かされて自己嫌悪を始めたその時、足に何かが絡み付いて痛んだ。

「あっ、あの! 待ってくださいセンパイっ! 足に何か絡まって、動けなくてっ」

「……如月、頼む」

センパイはレンにサメ型フロートの尾ビレを渡し、ざぶざぶと波をかき分けて俺の元まで来てくれた。

「海藻か何かか?」

「わ、分かりませんけど……地面から生えてるみたいですから、多分海藻ですよ」

透き通るように綺麗な海とはいえ、夕暮れ時では足に絡まった何かなんて見えやしない。センパイは自身の首に俺を抱きつかせ、海の中で俺の足を両手で掴んだ。

「いっ、痛い痛い痛いっ! 引っ張らないでちぎれちゃう!」

「……海藻の方がちぎれないかと」

「俺の足のが先にちぎれますよぉ!」

「そ、そそ、そんな訳ないじゃん……」

「んー……?」

ミチは呆れた目で俺を見つめ、レンはキョロキョロと辺りを見回して首を傾げている。

「き、きき、如月くんっ? どうしたの?」

「いや……逢魔時ってのは霊の気配濃くなるもんだけど……なんか、普段と違う……霊そのものがどこに居るのかとか全然分かんないのに、空気が湿って澱んで気持ち悪い……」

「こここっ、怖いこと言わないでよぉっ! 空気爽やかだよっ、気持ちいいもん!」

「…………取れたぞ」

足に自由が戻った。絡まっていた海藻がほどけたようだ。センパイに礼を言い、軽く泳いでミチの隣に並ぶ。

「……何だ、これ」

その場に棒立ちになって動こうとしないセンパイに声をかけ、俺は絶句した。センパイは自身の両手に絡まった大量の黒い髪の毛を見つめていたのだ。

「レ、レンっ! 除霊! 除霊してよ!」

「霊なんかどこにも居ねぇよ! 居ねぇのに気配だけべっとりして……クソ、形州! こっち来い!」

俺と違って足に絡み付かれてはいなかったようで、センパイは問題なくレンの元まで歩いた。しかし手に絡まった髪の毛はほどけないようで、不快そうに眉をひそめていた。

「…………取れない」

「これで何とか……」

レンは右手首のブレスレットをセンパイに両手で握らせる。ジュウゥ……と何かが焼けるような音と煙が上がり、髪の毛が溶けて黒い液体が海に落ちる。

「水晶……五個くらい一気に透明になったな。早く上がろうぜ」

楽しい時間は終わるものだ、だが、余韻を汚されるなんて酷い。俺達は無言で海を上がり、畳まれている最中のテントの元へ向かった。

「師匠! 報告があります!」

「その前に手当をした方がいい」

レンの師匠である社長の赤い瞳は俺の足を見つめている。

「うわっ!? も、もちっ……秘書さん、秘書さぁん! 救急箱的なのあるだろ、くれ!」

髪の毛が絡み付いていた俺の足首からダラダラと血が流れていた。レジャーシートの上に座って近くでよく見たところ、髪の毛のような細い傷が無数に付いているのだと分かった。

「あーぁー……等間隔の傷は治りにくいんですよ。あなた手足首に数珠はめてましたよね?」

消毒液を染み込ませたガーゼを傷口に押し当てられ、あまりの痛みに涙が溢れる目をぎゅっと閉じながら叫びそうになる口を押さえる。

「あの数珠を割ってこんな傷を……アレが突破された……? そんな、見立てより……」

従兄はぶつぶつと不穏なことを呟きながらも俺の手当てを済ませた。包帯をぎゅっと巻かれた足首にはまだジンと痛みが残っている。

「食いついたね、想定より早く釣れるかもしれない」

「ふざけんな! アンタもちを何だと思ってんだよ、怪我してんだぞ! もちが一番狙われるって分かってんだからもっと良い札とか数珠とか渡しとけよケチりやがって!」

「ベストを尽くせって話? 守るどころか気付けもしない君は尽くせているのかな」

「それは……尽くせてない、けど……俺がまだ至らないヤツだって知ってるくせに俺に押し付けてっ、アンタ自身は全然もちを守ろうとしないのはっ、アンタが俺らに嫌がらせしてるだけだろ!?」

「レン! なんてこと言うんだよ、御札も数珠もくれてたじゃないか。御札は破れてるし……数珠もなくなっちゃったけど、それに気付かない俺も悪かったんだよ」

「君の恋人はよく分かってるみたいだね」

「アンタなぁっ!」

引き下がりかけたレンも社長の嫌味ったらしい言い方に苛立ったようで、また食ってかかる。

「はぁ……面倒臭い。僕は確かに君が、いや、君達が嫌いだよ。大嫌いだ。大切な部下の怪我の原因、怪我をさせた張本人、正当性のある嫌悪と憎悪だと思うけれど?」

大切な部下……従兄のことか? 首塚の怪異討伐の際の負傷と、レンが暴走してしまった際の負傷を思い出す。確かに、俺とレンは従兄自身や社長に疎まれても仕方ないのかも──

「仕事に感情を持ち込まれては困りますよ社長。俺は零感です、あなたの見立てや指示を信じるしかありません。なのに嫌いだからと月乃宮様を粗雑に扱っては俺や如月様の対応まで遅れますし、今回のように負傷させてしまう」

──と思っていたが、当の従兄は仕事だと割り切っているようだ。

「そもそも俺の負傷は仕事中のことで、その原因は俺の実力不足やあなたの見立てや指示のミス。彼らを嫌い恨むだなんてお門違いも甚だしい、子供っぽすぎます、いい加減にしていただきたい」

「何、君……それ誰に言ってるか分かってる?」

「ええ」

「あ、あのっ、喧嘩……しないでください。俺が呑気に遊んでたのが悪いんです、首塚の件からそうです、俺が全部悪いんですから」

「その通りだよ」

「社長! 月乃宮様、黙っていてください。あなたに責任はない。いいですか社長、これ以上仕事に感情を持ち込むようなら俺本当に怒りますからね」

従兄はそれで話を切り上げてテントの片付けに戻った。社長はしばらく俯いた後、ビーチの砂を掴んで従兄に投げ付けた。

「ポチのっ……ばかぁ!」

子供っぽすぎる捨て台詞を吐いてホテルの方へ走り去っていった。

「嘘だろ……何歳だよあの人」

「もち、これで分かっただろ、俺がイライラする理由」

「すいません……本当にすいません、夕食までにはなだめて謝らせますから。あ、國行、パラソルとレジャーシート頼むわ。では!」

従兄は畳んだテントやクーラーボックス、その他鞄を大量に抱えてホテルに向かって走った。
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