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後輩を置いて従兄を探してみた
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冷凍焼けしたうどんを茹で、すする。かなり硬い、茹で時間が足りなかったようだ。茹で直すのは面倒なのでそのまま食べた。
「ごちそうさまでした」
一人で手を合わせ、一人で食器を洗う。寂しい。
「センパイ……まだかな」
送り出したのは俺だし、従兄を探しに行ってくれてよかったと思う。俺とセンパイの行動は正しいことだとも思っている。けれど、それでも、行って欲しくなかった。
「センパイ…………遅い、なー……」
しつこく送り出そうとする俺を「お前しかいらないんだ」と怒鳴りつけて乱暴に抱いて黙らせて欲しかった。そう思ってしまう自分が嫌で、ポケットに入れていた指輪を左手の薬指にはめた。
「センセ……」
担任は俺以外の心の拠り所を持たない。俺を最優先してくれる──実際には自分の欲望を満たすのに俺を利用しているだけだとしても──彼には俺しか居ない。
センパイには従兄が居る。レンには父親が居る。ミチは分からないけれど、少なくともあの二人には愛情を注いでくれる血の繋がった家族が居る。俺には居なかったのに。
「何日帰ってないんだっけ、えっと……七夕から? 今が七月の……十三日か、土曜日で…………日にちなんか関係ない、母さんが俺のこと心配したりとか、ありえねぇ………………寂しい、寂しいよままぁ……」
レンはいつ帰ってくるのだろう、従兄に聞けるかな、怪異を祓うなんて今の彼にできるのか?
ごちゃごちゃと考えながら皿を洗っていると背後で物音がした。センパイが帰ってきたのかと慌てて手を拭き、振り返る。
「あっ……お、お邪魔……してます」
センパイの父親だ、前に彼に犯されたことがある。気まずくて俯き、横をすり抜けてセンパイの部屋へ帰ろうとすると腕を掴まれた。
「なっ、なんですか?」
「國行はどこ行きやがった」
「えっと……夕飯の、買い出しに」
「あぁ? 飯ねぇのか……クソが」
父親は踵を返して自室に戻った。手入れしていなさそうな黄ばんだ爪が掠った皮膚は赤く腫れている。
「うわ、みみず腫れ……最悪」
変な菌が入っていそうに思えて念のため腕を洗う。やることがないので指輪を眺めていると玄関の方から物音がした。
「センパイ……!?」
指輪を外し、玄関へと走る。
「センパイ! おかえりなさい……!」
「……ノゾム。ただいま」
疲れた微笑みを浮かべたセンパイは重たそう従兄を抱えていた。
「……悪い、ノゾム。兄ちゃんの靴脱がしてやってくれ」
「ぁ、はい……できましたよ。お兄さん寝てるんですか?」
自室に運ぶつもりのようなので先回りをし、扉を開ける。センパイは従兄を床に下ろすと電灯のリモコンを持ち、明るさを最大まで上げた。
「…………兄ちゃん、兄ちゃん大丈夫か? 俺が分かるか?」
従兄は目を開けてはいるが、センパイが顔の前で手を振っても瞬きすらしない。
「あの……何があったんですか?」
「……兄ちゃんは車と暗い場所が苦手だ。車道から離れた明るい場所にいると踏んで探して……公園の自動販売機の前で見つけた。だから連れて帰ってきただけだ、何もない」
「すぐ見つけちゃうなんて流石従兄弟ですね」
センパイの口元が緩む。俺の言葉が嬉しかったのか? 本当に仲がいいんだな。
「それで、お兄さんどうされたんですか? なんか、ぼーっとしてますけど」
「…………反応が薄くなってる、昔と同じだ。ある程度の指示は聞くからこっちの言葉は聞こえているはずだが……一応謝ってはみたが、もう俺の謝罪なんて関係ない。兄ちゃんは拗ねてるわけじゃない」
センパイは深いため息をついて立ち上がり、タンスを漁り始めた。従兄の着替えを探しているようだ。
俺が話しても無駄だろうなと思いつつも従兄への話題を探していると、開けたままの扉からセンパイの父親が入ってきた。
「おい國行、飯買ってきたか?」
「……今取り込み中だ、出ていけ」
「ケッ、クソガキが……ぁん? こいつまだ居やがったのか」
父親もセンパイに力では適わないと分かっているからかあまり絡んではこない。しかし、無反応になってしまった従兄へは違う。
「ん……? おい、どうしたんだこりゃ、はははっ、またこんなマネキンみたいになりやがったか!」
「……っ、やめろクソ親父!」
従兄の頭をつついた父親にセンパイが怒鳴る。
「あぁ? ったく、育ててやった恩も忘れて偉そうに……」
悪態をつきながらも父親の手は従兄から離れたが、従兄の黒目はその手を追った。センパイは気付いていない。俺の声も間に合わない。従兄は父親の手に噛み付いた。
「っ、ぎゃああぁっ!? また噛みやがったこのっ、ふざけんなっ! 離せクソっ!」
父親はもう片方の手で従兄を殴ろうとするも、その手はセンパイに止められる。
「……兄ちゃんっ、そんなもの噛むな! 病気になるぞ!」
「は……!? んだとこのクソガキっ!」
センパイは従兄が口を離したのを見計らって父親を蹴り飛ばし、扉を閉めた。
「…………はぁ……悪い、ノゾム……騒いで」
「い、いえ……」
「…………兄ちゃん、兄ちゃんほら、ゴミ箱にでいいからペッするんだ、変な菌でも飲んだらどうする」
確かに父親の手はなんだか汚く見えたけれど、その言い方は酷いような……まぁいいか。
「……兄ちゃん、飯持ってくる。ちょっと待ってろ。ノゾム、兄ちゃんの顔と頭は触るなよ、噛まれるぞ」
「お兄さんは猛犬か何かですか……?」
「…………そう思って構わない。昔からそうなんだ、すぐ人に噛み付く」
センパイが部屋を出ると父親と争っているのか激しい物音が聞こえたが、すぐに静かになった。すると従兄が床に寝転がる。
「あ、あの……お兄さん、ベッドに寝ては……?」
返事はない。
「えっと……スマホ、返しておきますね」
従兄のスマホを手元に置くとすぐに操作し始めた。彼にタオルケットをかけてベッドに乗り、画面を後ろからこっそりと覗く。
コスプレ写真だろうか、可愛らしい白髪赤目のメイドの写真を何枚か見て、スリープモードにして、立ち上がった。
「お、お兄さん? 大丈夫なんですか?」
三白眼がこちらを向く。相変わらず焦点が微妙にズレている気はするが、従兄は俺を見ている。口元だけの笑顔が戻る。
「大丈夫でーす、すいませんねなんか。じゃ」
変わり様に唖然としてしまった。一瞬遅れて後を追うと従兄はコンビニ弁当を温めているセンパイと話していた。
「大丈夫だって、泣くな泣くな。お兄ちゃん大丈夫、お前のせいでトラウマ再発とかしてないから! だーいじょーぶ、な?」
ニコニコ笑っている従兄とは対照的にセンパイは泣きながら謝るばかりだ。
「可愛いお前を捨てたりなんてしねーよ。恋人大切にできないようなのは人間として嫌いってだけで、従弟のお前は嫌ってない」
「あ、あの……お兄さんっ、センパイ俺のこと大切にしてくれてます……怪我してるの、痛まないようにって優しく触ってくれます……」
「…………ノゾム」
「センパイ、ほらちゃんと説明してください。お兄さんきっと分かってくれますから」
センパイは口下手ながらも必死で俺を殴った理由を従兄に説明した。苛立っただけなんて短絡的なものじゃなく、精神的に追い詰められていたのだと──
「そっか。でも殴っちゃダメだぞ」
「…………うん」
「ごちゃごちゃ考える割に感情的なのは一番ダメだ。思考はもっとシンプルに、月乃宮様大好き! だけでいい。行動をもっと複雑化するんだ、月乃宮様は大好きだから大切に、月乃宮様と自分の仲を邪魔する全てを秘密裏に排除、OK?」
「おーけーじゃないです!」
従兄のアドバイスを鵜呑みにしたらセンパイにレンやミチを狙われてしまう。あの二人は俺より小柄なのだ、ひとたまりもない。
「…………暴力はもう二度と誰にも振るわない」
「そんなに反省するなよ、金と暴力とセックスが愛の主要成分だぞ?」
「お兄さん……愛にはもうちょっと綺麗なもの入れてください」
「金で買って、セックスで堕として、暴力で囲う」
従兄はやっぱり暴力団的な何かと関わっているのかもしれない。
「……思考をシンプルにするというのはいい、使わせてもらう」
「あ、それはいいかもですよセンパイ。センパイごちゃごちゃ考えすぎですもん」
センパイは穏やかに微笑んで俺に手招きをする。傍に寄ると頭を撫でられ、額にキスをされた。
「…………愛してる。だから大切にする。俺にも、他の誰にも、お前を傷付けさせたりしない」
「センパイ……えへへ、ありがとうございます」
傷のない方の頬を撫でたセンパイは次に従兄の方を向く。センパイよりは小さいが十分大柄な彼を抱き上げ、腹に顔を押し付けた。
「………………大好きだ。甘えさせてくれ」
「國行……えらしいなぁ國行は。はーっ、しんけんえらしい、えらしい子やぁ」
従兄はセンパイの頭をわしゃわしゃと撫で回す。その瞳は虚ろなままで、楽しげな笑顔も相変わらず嘘っぽい。やっぱりああいう顔なだけなんだ、損な人だ。
夕飯を終え、寝支度を整えてセンパイの部屋で三人で眠る。
「俺リビングで寝ようと思ってたんだけど、いいのか? 逆に気ぃ使うんだけど」
「…………同じ部屋にいないと心配だ。ノゾム、灯りをつけたままで構わないか?」
「俺は別に明るくても寝れますよ」
「すいませんね」
「大丈夫ですって、気にしないでください」
従兄は布団を使わずに床に寝転がる。センパイはそれをやめさせたがったが、床で寝た方が安心するという謎理論に負けてタオルケットだけを渡した。
「……ノゾム、あまり俺に触れないようにしろよ、痛いだろ」
「大丈夫ですよ。でもありがとうございます」
壁際に寝かされ、俺から拳一つ分空けて寝転がったセンパイに寂しさと愛しさを覚える。部屋の明るさから逃れるように目を閉じようとしたその時、従兄が起き上がった。顔色が悪い。
「……兄ちゃん? どうした?」
「國行……新発見だ、目を閉じたら暗くなる。國行、なんかこう……当て身とかでパッと気絶させられないか?」
「…………寝落ちするまでゲームでもするか。明日は日曜だし、俺達も昼間寝たからな」
「あ、いいですねそれ。ゲームとかあるんですか?」
「……かなり古い機種だが」
センパイが別の部屋から持ってきたゲーム機はホコリを被っていたが、三人で騒ぎながらのゲーム大会はとても楽しかった。男友達や男兄弟がいたらこんな感じに遊べたんだろうなとしみじみ思ったりしながら、朝日が昇るまで遊び続けた。
「ごちそうさまでした」
一人で手を合わせ、一人で食器を洗う。寂しい。
「センパイ……まだかな」
送り出したのは俺だし、従兄を探しに行ってくれてよかったと思う。俺とセンパイの行動は正しいことだとも思っている。けれど、それでも、行って欲しくなかった。
「センパイ…………遅い、なー……」
しつこく送り出そうとする俺を「お前しかいらないんだ」と怒鳴りつけて乱暴に抱いて黙らせて欲しかった。そう思ってしまう自分が嫌で、ポケットに入れていた指輪を左手の薬指にはめた。
「センセ……」
担任は俺以外の心の拠り所を持たない。俺を最優先してくれる──実際には自分の欲望を満たすのに俺を利用しているだけだとしても──彼には俺しか居ない。
センパイには従兄が居る。レンには父親が居る。ミチは分からないけれど、少なくともあの二人には愛情を注いでくれる血の繋がった家族が居る。俺には居なかったのに。
「何日帰ってないんだっけ、えっと……七夕から? 今が七月の……十三日か、土曜日で…………日にちなんか関係ない、母さんが俺のこと心配したりとか、ありえねぇ………………寂しい、寂しいよままぁ……」
レンはいつ帰ってくるのだろう、従兄に聞けるかな、怪異を祓うなんて今の彼にできるのか?
ごちゃごちゃと考えながら皿を洗っていると背後で物音がした。センパイが帰ってきたのかと慌てて手を拭き、振り返る。
「あっ……お、お邪魔……してます」
センパイの父親だ、前に彼に犯されたことがある。気まずくて俯き、横をすり抜けてセンパイの部屋へ帰ろうとすると腕を掴まれた。
「なっ、なんですか?」
「國行はどこ行きやがった」
「えっと……夕飯の、買い出しに」
「あぁ? 飯ねぇのか……クソが」
父親は踵を返して自室に戻った。手入れしていなさそうな黄ばんだ爪が掠った皮膚は赤く腫れている。
「うわ、みみず腫れ……最悪」
変な菌が入っていそうに思えて念のため腕を洗う。やることがないので指輪を眺めていると玄関の方から物音がした。
「センパイ……!?」
指輪を外し、玄関へと走る。
「センパイ! おかえりなさい……!」
「……ノゾム。ただいま」
疲れた微笑みを浮かべたセンパイは重たそう従兄を抱えていた。
「……悪い、ノゾム。兄ちゃんの靴脱がしてやってくれ」
「ぁ、はい……できましたよ。お兄さん寝てるんですか?」
自室に運ぶつもりのようなので先回りをし、扉を開ける。センパイは従兄を床に下ろすと電灯のリモコンを持ち、明るさを最大まで上げた。
「…………兄ちゃん、兄ちゃん大丈夫か? 俺が分かるか?」
従兄は目を開けてはいるが、センパイが顔の前で手を振っても瞬きすらしない。
「あの……何があったんですか?」
「……兄ちゃんは車と暗い場所が苦手だ。車道から離れた明るい場所にいると踏んで探して……公園の自動販売機の前で見つけた。だから連れて帰ってきただけだ、何もない」
「すぐ見つけちゃうなんて流石従兄弟ですね」
センパイの口元が緩む。俺の言葉が嬉しかったのか? 本当に仲がいいんだな。
「それで、お兄さんどうされたんですか? なんか、ぼーっとしてますけど」
「…………反応が薄くなってる、昔と同じだ。ある程度の指示は聞くからこっちの言葉は聞こえているはずだが……一応謝ってはみたが、もう俺の謝罪なんて関係ない。兄ちゃんは拗ねてるわけじゃない」
センパイは深いため息をついて立ち上がり、タンスを漁り始めた。従兄の着替えを探しているようだ。
俺が話しても無駄だろうなと思いつつも従兄への話題を探していると、開けたままの扉からセンパイの父親が入ってきた。
「おい國行、飯買ってきたか?」
「……今取り込み中だ、出ていけ」
「ケッ、クソガキが……ぁん? こいつまだ居やがったのか」
父親もセンパイに力では適わないと分かっているからかあまり絡んではこない。しかし、無反応になってしまった従兄へは違う。
「ん……? おい、どうしたんだこりゃ、はははっ、またこんなマネキンみたいになりやがったか!」
「……っ、やめろクソ親父!」
従兄の頭をつついた父親にセンパイが怒鳴る。
「あぁ? ったく、育ててやった恩も忘れて偉そうに……」
悪態をつきながらも父親の手は従兄から離れたが、従兄の黒目はその手を追った。センパイは気付いていない。俺の声も間に合わない。従兄は父親の手に噛み付いた。
「っ、ぎゃああぁっ!? また噛みやがったこのっ、ふざけんなっ! 離せクソっ!」
父親はもう片方の手で従兄を殴ろうとするも、その手はセンパイに止められる。
「……兄ちゃんっ、そんなもの噛むな! 病気になるぞ!」
「は……!? んだとこのクソガキっ!」
センパイは従兄が口を離したのを見計らって父親を蹴り飛ばし、扉を閉めた。
「…………はぁ……悪い、ノゾム……騒いで」
「い、いえ……」
「…………兄ちゃん、兄ちゃんほら、ゴミ箱にでいいからペッするんだ、変な菌でも飲んだらどうする」
確かに父親の手はなんだか汚く見えたけれど、その言い方は酷いような……まぁいいか。
「……兄ちゃん、飯持ってくる。ちょっと待ってろ。ノゾム、兄ちゃんの顔と頭は触るなよ、噛まれるぞ」
「お兄さんは猛犬か何かですか……?」
「…………そう思って構わない。昔からそうなんだ、すぐ人に噛み付く」
センパイが部屋を出ると父親と争っているのか激しい物音が聞こえたが、すぐに静かになった。すると従兄が床に寝転がる。
「あ、あの……お兄さん、ベッドに寝ては……?」
返事はない。
「えっと……スマホ、返しておきますね」
従兄のスマホを手元に置くとすぐに操作し始めた。彼にタオルケットをかけてベッドに乗り、画面を後ろからこっそりと覗く。
コスプレ写真だろうか、可愛らしい白髪赤目のメイドの写真を何枚か見て、スリープモードにして、立ち上がった。
「お、お兄さん? 大丈夫なんですか?」
三白眼がこちらを向く。相変わらず焦点が微妙にズレている気はするが、従兄は俺を見ている。口元だけの笑顔が戻る。
「大丈夫でーす、すいませんねなんか。じゃ」
変わり様に唖然としてしまった。一瞬遅れて後を追うと従兄はコンビニ弁当を温めているセンパイと話していた。
「大丈夫だって、泣くな泣くな。お兄ちゃん大丈夫、お前のせいでトラウマ再発とかしてないから! だーいじょーぶ、な?」
ニコニコ笑っている従兄とは対照的にセンパイは泣きながら謝るばかりだ。
「可愛いお前を捨てたりなんてしねーよ。恋人大切にできないようなのは人間として嫌いってだけで、従弟のお前は嫌ってない」
「あ、あの……お兄さんっ、センパイ俺のこと大切にしてくれてます……怪我してるの、痛まないようにって優しく触ってくれます……」
「…………ノゾム」
「センパイ、ほらちゃんと説明してください。お兄さんきっと分かってくれますから」
センパイは口下手ながらも必死で俺を殴った理由を従兄に説明した。苛立っただけなんて短絡的なものじゃなく、精神的に追い詰められていたのだと──
「そっか。でも殴っちゃダメだぞ」
「…………うん」
「ごちゃごちゃ考える割に感情的なのは一番ダメだ。思考はもっとシンプルに、月乃宮様大好き! だけでいい。行動をもっと複雑化するんだ、月乃宮様は大好きだから大切に、月乃宮様と自分の仲を邪魔する全てを秘密裏に排除、OK?」
「おーけーじゃないです!」
従兄のアドバイスを鵜呑みにしたらセンパイにレンやミチを狙われてしまう。あの二人は俺より小柄なのだ、ひとたまりもない。
「…………暴力はもう二度と誰にも振るわない」
「そんなに反省するなよ、金と暴力とセックスが愛の主要成分だぞ?」
「お兄さん……愛にはもうちょっと綺麗なもの入れてください」
「金で買って、セックスで堕として、暴力で囲う」
従兄はやっぱり暴力団的な何かと関わっているのかもしれない。
「……思考をシンプルにするというのはいい、使わせてもらう」
「あ、それはいいかもですよセンパイ。センパイごちゃごちゃ考えすぎですもん」
センパイは穏やかに微笑んで俺に手招きをする。傍に寄ると頭を撫でられ、額にキスをされた。
「…………愛してる。だから大切にする。俺にも、他の誰にも、お前を傷付けさせたりしない」
「センパイ……えへへ、ありがとうございます」
傷のない方の頬を撫でたセンパイは次に従兄の方を向く。センパイよりは小さいが十分大柄な彼を抱き上げ、腹に顔を押し付けた。
「………………大好きだ。甘えさせてくれ」
「國行……えらしいなぁ國行は。はーっ、しんけんえらしい、えらしい子やぁ」
従兄はセンパイの頭をわしゃわしゃと撫で回す。その瞳は虚ろなままで、楽しげな笑顔も相変わらず嘘っぽい。やっぱりああいう顔なだけなんだ、損な人だ。
夕飯を終え、寝支度を整えてセンパイの部屋で三人で眠る。
「俺リビングで寝ようと思ってたんだけど、いいのか? 逆に気ぃ使うんだけど」
「…………同じ部屋にいないと心配だ。ノゾム、灯りをつけたままで構わないか?」
「俺は別に明るくても寝れますよ」
「すいませんね」
「大丈夫ですって、気にしないでください」
従兄は布団を使わずに床に寝転がる。センパイはそれをやめさせたがったが、床で寝た方が安心するという謎理論に負けてタオルケットだけを渡した。
「……ノゾム、あまり俺に触れないようにしろよ、痛いだろ」
「大丈夫ですよ。でもありがとうございます」
壁際に寝かされ、俺から拳一つ分空けて寝転がったセンパイに寂しさと愛しさを覚える。部屋の明るさから逃れるように目を閉じようとしたその時、従兄が起き上がった。顔色が悪い。
「……兄ちゃん? どうした?」
「國行……新発見だ、目を閉じたら暗くなる。國行、なんかこう……当て身とかでパッと気絶させられないか?」
「…………寝落ちするまでゲームでもするか。明日は日曜だし、俺達も昼間寝たからな」
「あ、いいですねそれ。ゲームとかあるんですか?」
「……かなり古い機種だが」
センパイが別の部屋から持ってきたゲーム機はホコリを被っていたが、三人で騒ぎながらのゲーム大会はとても楽しかった。男友達や男兄弟がいたらこんな感じに遊べたんだろうなとしみじみ思ったりしながら、朝日が昇るまで遊び続けた。
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