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第2章 地球活動編
第64話 殲滅潜入(3) 藤原千鶴
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これといった犠牲もなく極めて順調に本作戦は進んでいる。
その理由は無論、興奮状態に突入した《狂王》が前線に出たからだ。
千鶴もこの時ばかりは彼になぜ《狂王》などいう不吉な二つ名が付くのかを実感せざるを得なかった。
吸血種達の攻撃は全て無効化され、逆に《狂王》の無造作に振るった拳により、吸血種共の身体が木端微塵に破裂、爆砕し真っ赤な意思なき屍へと変わる。
その有無を言わさぬ理不尽な力はまさに《狂王》の名にふさわしい。
《狂王》がほぼ敵の8割を一撃のもとに沈黙させた結果、殲滅が開始されてからたった30分ほどで42階までの攻略が完了する。
攻略が42階までなのは一方的な蹂躙劇に飽きた《狂王》が再度後退してしまい、一時的に作戦の練り直しを余儀なくされたからだ。
もっとも《狂王》の代わりはすぐに見つかった。《狂王》と入れ替わるようにある化け物が吸血種達の殲滅を開始したのだ。
世界序列402位。通称――《化蛇》。
世界最大のテロ組織バルバトス掃討作戦では重要拠点をまとめて水没させ、その名を世界に知らしめた水の王。
その品性は兎も角、流石は世界序列の最上位者だ。
《化蛇》の造り出す水の弾丸により、不死に近いはずの吸血種の身体に無数の風穴が開く。
彼の造り出す水の檻にとらわれた者は決して出ることは叶わずジワジワと溶解されていく。
あっという間に48階までの攻略が完了する。
千鶴達A班は48階から49階へと続く階段前で待機中だ。
他者の侵入を拒む厚い青色の扉は制御センターにあるメインコンピューターでなければ開くことはない。
「48階到達。今から48階の制圧を開始する」
48階制御室制圧を担当するB班の班長の声が頭内に反響する。
班長は《第一級魔道特殊急襲部隊――MSAT》の中から選ばれる。
《殲滅戦域》の面子はよく言えば個人主義、悪く言えば究極の自己中心主義者。とてもではないが他者を指揮するのにふさわしいとはいいがたいし彼ら自身それを望んじゃいない。
いわば適材適所とうい奴だ。
じわりじわりと首を絞められるかのような緊張という名の強烈な息苦しさに耐えつつもひたすらB班の班長の連絡を待つ。
約15分後、頭の中に抑揚のない声が響き渡る。
声の主は48階制御室制圧センターの制圧に向かったB班の班長。
「制御センター、完全制圧終了。現在、技術スタッフがメインコンピューターを掌握中」
この念話を受け取ったA班の《MSAT》のエージェントの瞳には強い安堵の色が滲んでいた。
それもそうだろう。制御センターのメインコンピューターさえ押さえてしまえば仮に不測の事態が生じても地上へのエレベーターが使用できるし、48階の扉を閉じてしまえば敵をこの冷たい海底都市の奥底に監禁することが可能だからだ。
48階層以上はビップルームであると同時に海底都市の住民のための緊急時の避難場所としての機能もある。近年過激化するテロに対応するためその扉は特殊の魔道金属で造られている。そしてこの扉は日本政府に求められ審議会もその開発に関わっている。
審議会にあるデータによれば世界序列68位の最大の攻撃でも傷一つつかなかったとあるくらいだ。一度、扉を閉じられれば奴らの力では内部から決して開くことはできない。
後は地上に戻り審議会の応援が来るのを待てばよい。審議会には三柱の13覇王がいる。彼らは世界最強ともいえる力の塊。一度発動されれば塵も残さず消滅する。
だからこそ敵がよほどの阿呆でなければ制御センターには敵の主力が配置されているはずだ。ならば制御センターを制圧した今、この戦争は千鶴達の勝利。
そのはずなのになぜか奇妙な胸騒ぎがなくならない。
◆
◆
◆
2082年9月8日(火曜日)午前2時45分
海底都市48階正面扉前。
機械音を上げながらゆっくりと青色の絢爛な48階層の扉は開いていく。
真っ赤な絨毯が敷かれた49階へと続く階段はまるで腹を空かせた巨大な怪物の口腔内のようで千鶴は思わず身震いをする。
泉のごとく湧き上がる不安。それを頭を左右に振って振り払い、千鶴は49階へと続く血のように赤い階段を下っていく。
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お読みいただきありがとうございます。
その理由は無論、興奮状態に突入した《狂王》が前線に出たからだ。
千鶴もこの時ばかりは彼になぜ《狂王》などいう不吉な二つ名が付くのかを実感せざるを得なかった。
吸血種達の攻撃は全て無効化され、逆に《狂王》の無造作に振るった拳により、吸血種共の身体が木端微塵に破裂、爆砕し真っ赤な意思なき屍へと変わる。
その有無を言わさぬ理不尽な力はまさに《狂王》の名にふさわしい。
《狂王》がほぼ敵の8割を一撃のもとに沈黙させた結果、殲滅が開始されてからたった30分ほどで42階までの攻略が完了する。
攻略が42階までなのは一方的な蹂躙劇に飽きた《狂王》が再度後退してしまい、一時的に作戦の練り直しを余儀なくされたからだ。
もっとも《狂王》の代わりはすぐに見つかった。《狂王》と入れ替わるようにある化け物が吸血種達の殲滅を開始したのだ。
世界序列402位。通称――《化蛇》。
世界最大のテロ組織バルバトス掃討作戦では重要拠点をまとめて水没させ、その名を世界に知らしめた水の王。
その品性は兎も角、流石は世界序列の最上位者だ。
《化蛇》の造り出す水の弾丸により、不死に近いはずの吸血種の身体に無数の風穴が開く。
彼の造り出す水の檻にとらわれた者は決して出ることは叶わずジワジワと溶解されていく。
あっという間に48階までの攻略が完了する。
千鶴達A班は48階から49階へと続く階段前で待機中だ。
他者の侵入を拒む厚い青色の扉は制御センターにあるメインコンピューターでなければ開くことはない。
「48階到達。今から48階の制圧を開始する」
48階制御室制圧を担当するB班の班長の声が頭内に反響する。
班長は《第一級魔道特殊急襲部隊――MSAT》の中から選ばれる。
《殲滅戦域》の面子はよく言えば個人主義、悪く言えば究極の自己中心主義者。とてもではないが他者を指揮するのにふさわしいとはいいがたいし彼ら自身それを望んじゃいない。
いわば適材適所とうい奴だ。
じわりじわりと首を絞められるかのような緊張という名の強烈な息苦しさに耐えつつもひたすらB班の班長の連絡を待つ。
約15分後、頭の中に抑揚のない声が響き渡る。
声の主は48階制御室制圧センターの制圧に向かったB班の班長。
「制御センター、完全制圧終了。現在、技術スタッフがメインコンピューターを掌握中」
この念話を受け取ったA班の《MSAT》のエージェントの瞳には強い安堵の色が滲んでいた。
それもそうだろう。制御センターのメインコンピューターさえ押さえてしまえば仮に不測の事態が生じても地上へのエレベーターが使用できるし、48階の扉を閉じてしまえば敵をこの冷たい海底都市の奥底に監禁することが可能だからだ。
48階層以上はビップルームであると同時に海底都市の住民のための緊急時の避難場所としての機能もある。近年過激化するテロに対応するためその扉は特殊の魔道金属で造られている。そしてこの扉は日本政府に求められ審議会もその開発に関わっている。
審議会にあるデータによれば世界序列68位の最大の攻撃でも傷一つつかなかったとあるくらいだ。一度、扉を閉じられれば奴らの力では内部から決して開くことはできない。
後は地上に戻り審議会の応援が来るのを待てばよい。審議会には三柱の13覇王がいる。彼らは世界最強ともいえる力の塊。一度発動されれば塵も残さず消滅する。
だからこそ敵がよほどの阿呆でなければ制御センターには敵の主力が配置されているはずだ。ならば制御センターを制圧した今、この戦争は千鶴達の勝利。
そのはずなのになぜか奇妙な胸騒ぎがなくならない。
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2082年9月8日(火曜日)午前2時45分
海底都市48階正面扉前。
機械音を上げながらゆっくりと青色の絢爛な48階層の扉は開いていく。
真っ赤な絨毯が敷かれた49階へと続く階段はまるで腹を空かせた巨大な怪物の口腔内のようで千鶴は思わず身震いをする。
泉のごとく湧き上がる不安。それを頭を左右に振って振り払い、千鶴は49階へと続く血のように赤い階段を下っていく。
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