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第2章 地球活動編
第71話 救助と脱出 御堂茜
しおりを挟む短いです。一気読み派の方はあと10日分程溜めてからお読みすることをお勧めします。
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魔術審議会に攻め入られ、エムプサとモルモーが部屋を出て行く。
次いでサラリーマン風の男――ムツグも奥の部屋に逃げ込むように姿を消したことから、鏡と子供達が連れて行かれるという危機的状況は一次的に脱した。
ヤスは意識をいつ失ってもおかしくないほどの重症を負っているにもかかわらず、指先一つ動かせない茜の傍にずっといてくれた。
勿論、茜はそんなヤスに心の底から感謝していた。同時に何の力のない自身の無力がどうしょうもなく悔しかった。
どのくらい時間が流れたのだろう。相変わらず茜の身体はピクリとも動かず、床に無様に横たわるだけ。
茜達拉致された人々だけではなく、このパーティー会場にいる将軍を始めとする吸血種達さえも一言も発しない。あの普段、無言をこの上なく嫌悪する鏡さえも口を真一文字に結ぶのみ。
バンッと扉が勢いよく開き、黒色の戦闘用のヘルメットにボディアーマーに身を包んだ者達が銃を構えつつも部屋へ次々に侵入してきた。このドラマ等でよく目にする特殊部隊の恰好、話しの流れから魔術審議会の魔術師達だろう。
魔術師に助けられるのに抵抗があるのは確かだ。だが、今は茜の家族の命がかかっている。茜の気持ちなど心底どうでもよい。
「ライト!?」
今まで母の胸の中ですすり泣いていた男の子が立ち上がり、頬の涙を袖で拭き、顔一面に喜色を浮かべつつも侵入者達へ熱い視線を向ける。
魔術審議会とは世界最強の力の塊。その彼らがこの会場に到達したのだ。あのいけ好かないエムプサやモルモーと呼ばれる吸血種も既に敗北している可能性は高い。ならばこの会場にいる吸血種ももうじき、跡形もなくこの世から消滅することだろう。
同時にそれはこのパーティー会場が血みどろの戦場化することを意味する。そんな光景は幼い子供達には絶対に見せてはいけないものだ。
(おい、ガキに見せるな!)
ヤスの微かな囁きに立ち上がった男の子の母親は我が子の顔をその胸に埋める。男の子は逃れようともがくが、所詮子供の力だ。必死になった母の力に贖うことはできず、次第に大人しくなった。
将軍と黒い上下のスーツと黒色のハットを被った黒髪の男が二言三言、言葉を交わすと戦闘は開始される。
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唯一動かせる首を傾けて二柱の化け物共の戦闘を眺めていたわけであるが、正直、別次元過ぎて茜にはすごい程度しか判断しようがなかった。
何せ茜の視力ではその戦いを認識することすらできないのだ。ただ耳を弄するような衝撃音と床がクレーター状に陥没することだけが常軌を逸した戦闘が行われていることを示している。
皆が会場の中央の見えざる戦闘に目を奪われているときそれは起きた。
幾つもの銃声が響き、糸の切れた人形のようにバタバタと倒れる吸血種達。
数回瞬きをする間に茜の視界は吸血種達の血で真っ赤に染まっていた。そして指揮官らしき女性に抱きかかえられる。
「君、大丈夫?」
冗談じゃない。これ以上、足手まといになるのだけは御免だ。大体、茜はまったくの無傷。保護されるべきは重傷を負ったヤス達大人や子供達だ。
「私は大丈夫。重傷者と子供達を」
茜が喉の奥から声を絞り出すと、女性は優しく微笑み大きく頷く。
女性は茜を背負うと会場の扉まで疾駆する。審議会のエージェント達も女性に従い、吸血種達に銃撃しながらも会場内の拉致された人達を担いで扉まで移動する。
極度の緊張状態に置かれているからだろう。女性はかなりの速度で床を走っているはずなのに、永遠とも思えるほど時間が妙にゆっくりと流れていく。
数百トンの重りを背負っているかのように、ずしっと肩に食い込むような心理的な圧迫感。
あと数歩、そのとき目的の扉はゆっくりと開かれる。それはまるで怪物が大きな口を開けたかのようで鋭利な刃物で背をなでられるような戦慄が走る。
扉から悪意が茜の前に姿を現した。
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