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第1章 異世界武者修行編
第67話 カウントダウン(2)
しおりを挟む魔力を《神の遊戯》の世界に注入しつつも油断なくピカピカ女を観察する。
僕の読みではこれでようやく真打が登場するはずなのだ。即ちピカピカ女の同化者の人格。
ビンゴだ!
仰向けになるピカピカ女の体から漆黒のオーラが立ち上りその体を覆う。ピカピカ女は漆黒のオーラを全身から漂わせながらも空中に浮かび上がる。背中には4枚の闇夜の翼がはためいていた。
4枚の漆黒の翼を生やしたピカピカ女は片側の口角を吊り上げつつ右手の掌を僕に向ける。
「《破滅の天秤》」
僕の遥か上空に黒色の天秤が浮かび上がり、僕は即座に解析を開始する。
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【破滅の天秤】
★説明:MPを消費し、数千度の高熱と即死、猛毒、麻痺の状態異常の効果を持つ黒泥を放つ。黒泥は対象者が滅ぶまで追尾し続ける。
★魔術種:黒天魔術
★魔術クラス:《混沌》第7階梯
★魔術レベル:LV6
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(ちっ! 《混沌》第7階梯。しかもいきなりレベル6の禁術かよ!)
防ぐのは容易いが防御系の魔術やスキルを使えば今までの苦労が水の泡となる。保有アイテムで何とか切り抜けるしかない。
アイテムボックスから真っ青の宝石を取り出す。この宝石は思金神から試作品として渡された逸品だ。
「《封術の石》」
パキィィ!
僕の掌にある青色の宝石が砕け散ると同時に真上に浮かぶ漆黒の天秤がサラサラと粒子状にまで分解する。
この《封術の石》は《混沌》第7階梯以下の特定の魔術を封印する《伝説級》レベル6の魔術道具。一度封じるとその魔術は数日間使用不可能になる。ただし一度使うと破壊される欠陥品。
僕が持つ《封術の石》は残り2つ。禁術クラスを3つ以上持つとは考えにくいが仮に後2つ以上禁術を使われれば不完全な状態で《神の遊戯》の奥義を発動させるしかあるまい。
4枚の漆黒の翼を生やしたピカピカ女は自身の禁術が解除されたことに目を細める。
再度右手の掌を僕に向けてくる。
「《死の断頭刃》」
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【死の断頭刃》】
★説明:MPを消費し敵の頭上に特殊効果を有する無数の巨大な刃を降らす。全ての刃が7伝説級の奇跡を体現する。
★魔術種:黒天魔術
★魔術クラス:《混沌》第7階梯
★魔術レベル:LV6
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僕の頭上に無数の黒色の巨大な刃が浮かび上がり、それが高速で落下してきた。また、レベル6の禁術。嫌な予感が的中しそうだ。
「《封術の石》」
パキィィ!
掌の青色の宝石が砕けると巨大な黒色の刃も煙のように消失する。
「《地獄の黒邪炎》」
4枚の漆黒の翼を生やしたピカピカ女だった者の言葉が発せられると足元に魔法陣が出現する。僕は直ぐに魔法陣の解析を終了する。やはりレベル6の黒天魔術。間髪入れず《封術の石》を使用し封術する。
《地獄の黒邪炎》の魔法陣が消失すると、奴は再度右手の掌を僕に向けるが……今度は何も起こらない。
「《死の断頭刃》が……発動しない? 封術系の魔術道具か? 禁術クラスの封術……久々に起きてみてみればフィリポめ。厄介な輩と揉めおって……」
4枚の漆黒の翼を生やしたピカピカ女は肩をすくめて首を数回振る。
「君は?」
此奴はピカピカ女――フィリポとは存在そのものが違う。要は格が違うという奴だ。
「これはお初にお目にかかる。フィリポの同化者――シェムハザだ。
バケモノ君。汝は?」
「人をバケモノ扱いする奴に名乗る名はないよ」
ニィーと顔を凶悪に歪めるシュムハザ。
「汝が先に聞いてきたのにつれないなぁ。まあいいがね。
どうだろう? 取引しないか?」
「取引?」
「そうだ。我がこの場を離脱するのを黙って見ているだけでいい。我も二度と吸血種共を襲うまい。無駄な戦闘が避けられる。実によい取引ではないか?」
冗談ではない。フィリポという外道はここで確実に始末する。それは既に決定事項。故に取引等する気など皆無だ。だが少し聞いてみたいこともある。
僕の創り出す《神の遊戯》の世界では僕の問いに偽りを述べることは許されない。
無駄話に付き合ってもらおう。どうせ時間は僕の味方だ。
「取引ね。考えてやってもいい。ただその前にいくつか答えて欲しい」
「構わんよ。なんだ?」
僕が今聞きたいのは一つだけ。それは――。
「フィリポが行った殺しはフィリポの趣味かい? それとも君の趣味かい?」
「フィリポの趣味だ。我は仮にも天族。そのような――」
《フィリポと我は一心同体。奴の渇望は我の渇望でもある》
「……理解した……それでフィリポの今の人格は彼女元来のものかい?」
それは僕が一番知りたかったこと。フィリポの姿はあのときの彼女にそっくりだったから。
「君が言いたいことがわからんな」
《ほう。感づいたか。
そうだ。我はフィリポと同化してから少しずつ悪意を植え付けていた。フィリポの両親を手にかけられるかが実験の最終段階だったのだが見事クリアしてなぁ。
自ら手にかけた者のために涙を流す。実に爽快な光景であったぞ》
もういい。これ以上聞く意味もない。他者の意思を狂わせ自身の思うように操作する。シュムハザは僕のトラウマに触れた。此奴は僕が最も憎むべき外道だ。
マグマのようなものが痛いほど僕の全身を駆け巡る。自然と笑いがこみあげくる。
「くくはは……いいよ! いいよ! 君の外道っぷり。最高だ。これで心起きなく君を粉砕できる」
シュムハザが言葉を発する前に僕はルインの銃口を奴に向け緋色の弾丸をありったけぶちかます。
殺意をたっぷりと纏った緋色の弾丸は高速回転しながらもシュムハザに迫り狂う。
シュムハザは一歩も動かず漆黒の翼の一振りでその弾丸を弾き返す。
僕はその隙に奴の懐にいた。上段からルインを袈裟懸けに振り下ろす。シュムハザは右手に持つ巨大な鎌でルインを受け止め、左手の掌を僕に向ける。
「《光閃雨》」
シュムハザの左手の掌から幾つもの閃光が雨霰となって僕に降り注ぐ。閃光は僕の左腕に着弾し真っ赤な鮮血を散らす。
《光閃雨》――レベル5の黒天魔術。どうやら禁術は先ほど3つ打ち止めのようだ。とは言え、《光閃雨》も中々どうして厄介だ。
だがこれでいい。正直フィリポでは僕の憎悪と憤怒をぶつけるにはやや役不足だったのだ。シュムハザは強大にして邪悪。此奴なら僕のうっ憤の全てをぶつけられる。
間髪入れずシュムハザが《光閃雨》を発動し閃光が僕に降り注ぐ。その光の空爆を高速で駆けることによりやり過ごす。
自身を覆うように鏡を造り《光閃雨》を一時的に反射する。
ルインを上段に構え身を屈める。成功する確率は半々だ。だがだからこそ面白い!
「《黒天雷》」
シュムハザが別の魔術を発動する。突如、黒い雷が天から辺り一面に降り注ぐ。黒い雷は僕の頭上にある鏡を瞬時に蒸発し僕を襲う。
鏡の蒸発を契機に僕はシュムハザに向けて地面スレスレを疾駆する。途中、僕の脳天に黒雷が降り注いだがルインで受けて振り払う。幾つもの火傷が僕の体に刻まれる。
雷を避け、弾き返しながら高速で接近する僕に初めてシュムハザの顔が驚愕に歪む。
「うぬっ!? 《光閃雨》!!」
怒声に近い声を上げながら、お得意の魔術を発動するシュムハザ。
(無駄だよ。その術はもう何度も見た)
僕は前方に小さな鏡を造り数多の閃光をシュムハザに向けて反射する。閃光はシュムハザの体に着弾し爆音と爆風を巻き起こす。
視界が粉々に破砕した床の欠片によりふさがれる。僕はシュムハザの眼前で右横に直角に飛ぶ。
シュムハザの左手側に出た僕はルインの剣先を奴の左横腹に固定しつつも、右脚で床を渾身の力で蹴る。
ドンッ!
踏み込んだ床が爆砕し一筋の弾丸と化した僕はシュムハザの横っ腹にルインの剣先を突きさす。
ズシュッ!
「ぐおお!!?」
同時にありったけの魔力を込めてルインの銃口から緋色の弾丸を放つ。
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!
鍔の銃口から出た緋色の弾丸は次々にシュムハザにめり込み爆砕しその体を粉々に砕いていく。
「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
ドゴオッ!
突如、凄まじい衝撃が走り僕の体は数十メートル後方にボールのように弾き飛ばされる。よろめく足に鞭打ち立ち上がり状況を確認する。
シュムハザの体にはルインが深々と突き刺さりその体の半身は粉々に粉砕され周囲に真っ赤なバラを咲かしている。
その漆黒の4枚の翼の2枚は根本から消失し、僕を薙ぎ払ったのであろう一枚だけがシュムハザを守るように包んでいた。
僕は床に右手の掌をあて、《神の遊戯》の世界に魔力を注入する。
(13回……残り最後の1回)
ゴウンッ! ゴウンッ!
《神の遊戯》の世界が脈動を始める。いよいよ目覚めるのだ。真の悪夢と絶望が――。
シュムハザの顔には今までの余裕は微塵もなく、代わりに表情に獣のような怒りがギラギラ光っていた。
「たかが人間ごときがぁ!! 天族でも上位に位置するこの我にこの所業! ただでは殺さぬぞ! 数百年間ありとあらゆる苦痛と絶望を味あわせてやる!」
哀れだ。これから僕が発動する魔術は《虚無》14階梯の魔術の中でも禁忌とされるレベル6の大禁術。数百年間の苦痛と絶望? そんなのが天国と思えるほどの悪夢が待っている。
そしてその発動は僕がこの右手の掌であと一度魔力を込めれば完了するのだ。
シュムハザの傷が高速に修復していく。千切れた腕がトカゲのように再生し、臓物が見えていた横腹には傷一つない綺麗な肌が露出する。翼も根元から巻き戻しのように元の状態へと戻る。
ルインがカランと床に落ち、シュムハザが踏みつける。
(悪いな。相棒。これで終わるよ)
「憎たらしい剣よ。我を傷つけるとは! この場で砕いてくれる!」
右足を上げシュムハザがルインの刀身を破壊せんと振り下ろす。
僕は《神の遊戯》の世界に最後の魔力を注ぎ込む。
「《永久の魂の牢獄》」
僕の言霊で世界は変貌しシュムハザを呑み込んだ。
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お読みいただきありがとうございます。
次がイカレタ大禁術のお話です。
応援ありがとうございます!
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