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3章:学校生活
16:雨の日の廊下
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四時間目のチャイムが鳴った瞬間、クラスが開放感に包まれる。同時にクラスメイトが思い思いに動き始めた。凄まじいスピードで教室を出て行く運動部のクラスメイト。机をがたがたと音を立てて動かして仲よさそうに集まっている女子のクラスメイト。お弁当包みを持って仲よさげに他のクラスからやってきた女子生徒……。いろんな動きを見せていた。
「それじゃあ行こうか」
「あ、ああ……」
鞄から財布を取り出し、俺とガレットは並んで歩きながら購買へと向かう。昨日も一人で教室を出ていったから、こうして二人で並んで昼休みに廊下を歩くのは初めてだ。
昼休みだから廊下は随分と賑やかだ。いつも一人であまり目線を合わせないように歩いていたから、周りを見ることはあまりなかったけれど、それぞれの過ごし方をしているんだと感じた。廊下でおしゃべりする生徒もいれば、ガレットの方を見つめている生徒もいる。同時に、俺への視線も感じる。ただ、どちらかといえばそれは、俺を怖がっている、というより「どうして俺とガレットが一緒にいるのか」と疑問に思っているような視線だった。
俺も、ガレットがいるからか、それとも昼休みの、各自の気を取られているのか、いつもの視線もあまり気にはならなかった。それは、他の事に気を取られているからかもしれない。そして、二人で歩いていることがなんだか楽しい。いつも、昼休みは一人で廊下を歩いていたから。
「美味しいものがたくさん食べられるといいね」
「そう、だな……」
ついついこの時間を楽しんでしまっていたけれど、ガレットの言葉で、浮かれていた気持ちが現実に引き戻される。今日の目的は、購買で食事を手に入れること。
廊下の窓をちら、と見る。外は雨。先ほどまでの土砂降りではないけれど、小雨や霧雨といった表現は使えないほどしっかり降っている。この中ではコンビニに買いに行くことは難しいだろう。
廊下を進み、階段を降りて、購買部のある階の廊下へ向かう。料理の匂いが漂ってくる。そして、何人もの生徒とすれちがった。みんな怒られない程度に駆け足。
“廊下は走るな”とは言われているものの、一分でも一秒でも長く楽しい時間を過ごしたいのか、それとも購買に行くといったように目的があるのか、やはり走る生徒はちらちらいる。
ただ、さっきクラスを飛び出していった生徒もいるし、購買部で確実に昼食を手に入れるには、もう少し早足で歩いた方がいいのかもしれない。
「……もしかしたら、ちょっと急いだ方がいいかもしれない」
「そうなのかい? でも、ここで走ったら危ないよ?」
「ああ。昼時だから混みそうで……」
「……まあ、確かにそうだね。でも、廊下が随分滑りやすくなっているから気をつけるんだよ」
「ああ」
俺達は小走りで廊下を進んでいく。 雨の日特有の湿気、そして授業や部活の時間外の集まりなどで外に出た生徒がいるんだろう。水浸し、とまではいかないけれど廊下は随分と滑りやすくなっていた。
「わっ……!」
「章太郎!」
急に、俺の身体が勢いよく後ろに傾いた。滑って転びかけたのだ。滑って転びかけている、を認識するよりも、ままならない身体の動きの方が先だった。俺がなんとか出来る前に、後頭部が床に激突するだろう、と思った。恐怖感から思わず目を閉じる。
けれど、思っていた痛みも衝撃も襲ってこなかった。恐る恐る目を開ける。目の前にいたのは、少し怒っているような、それでいて、安心したような表情のガレットだった。
「……大丈夫かい?」
「あ、ああ……」
ゆっくりと何が起こったのかを確認する。転びそうになった俺を、ガレットが支えてくれたのだ。俺の身体が、ガレットに抱き留められている。まるで二人で踊るダンスのような体勢。緊張感からのドキドキと、そうではない別のドキドキが身体に流れている。
「気をつけるんだよ、って言ったじゃないか」
「……ご、ごめん」
「まあ、でも、章太郎に何もなくてよかったよ」
こくり、と頷いた。そして、小声でありがとう、を呟くと、ガレットは柔らかく微笑んでくれて、それが、俺の体温をひどく上昇させた。
そして、なんとか俺達は購買部へと到着した。
けれど、本番はここからだ。
「それじゃあ行こうか」
「あ、ああ……」
鞄から財布を取り出し、俺とガレットは並んで歩きながら購買へと向かう。昨日も一人で教室を出ていったから、こうして二人で並んで昼休みに廊下を歩くのは初めてだ。
昼休みだから廊下は随分と賑やかだ。いつも一人であまり目線を合わせないように歩いていたから、周りを見ることはあまりなかったけれど、それぞれの過ごし方をしているんだと感じた。廊下でおしゃべりする生徒もいれば、ガレットの方を見つめている生徒もいる。同時に、俺への視線も感じる。ただ、どちらかといえばそれは、俺を怖がっている、というより「どうして俺とガレットが一緒にいるのか」と疑問に思っているような視線だった。
俺も、ガレットがいるからか、それとも昼休みの、各自の気を取られているのか、いつもの視線もあまり気にはならなかった。それは、他の事に気を取られているからかもしれない。そして、二人で歩いていることがなんだか楽しい。いつも、昼休みは一人で廊下を歩いていたから。
「美味しいものがたくさん食べられるといいね」
「そう、だな……」
ついついこの時間を楽しんでしまっていたけれど、ガレットの言葉で、浮かれていた気持ちが現実に引き戻される。今日の目的は、購買で食事を手に入れること。
廊下の窓をちら、と見る。外は雨。先ほどまでの土砂降りではないけれど、小雨や霧雨といった表現は使えないほどしっかり降っている。この中ではコンビニに買いに行くことは難しいだろう。
廊下を進み、階段を降りて、購買部のある階の廊下へ向かう。料理の匂いが漂ってくる。そして、何人もの生徒とすれちがった。みんな怒られない程度に駆け足。
“廊下は走るな”とは言われているものの、一分でも一秒でも長く楽しい時間を過ごしたいのか、それとも購買に行くといったように目的があるのか、やはり走る生徒はちらちらいる。
ただ、さっきクラスを飛び出していった生徒もいるし、購買部で確実に昼食を手に入れるには、もう少し早足で歩いた方がいいのかもしれない。
「……もしかしたら、ちょっと急いだ方がいいかもしれない」
「そうなのかい? でも、ここで走ったら危ないよ?」
「ああ。昼時だから混みそうで……」
「……まあ、確かにそうだね。でも、廊下が随分滑りやすくなっているから気をつけるんだよ」
「ああ」
俺達は小走りで廊下を進んでいく。 雨の日特有の湿気、そして授業や部活の時間外の集まりなどで外に出た生徒がいるんだろう。水浸し、とまではいかないけれど廊下は随分と滑りやすくなっていた。
「わっ……!」
「章太郎!」
急に、俺の身体が勢いよく後ろに傾いた。滑って転びかけたのだ。滑って転びかけている、を認識するよりも、ままならない身体の動きの方が先だった。俺がなんとか出来る前に、後頭部が床に激突するだろう、と思った。恐怖感から思わず目を閉じる。
けれど、思っていた痛みも衝撃も襲ってこなかった。恐る恐る目を開ける。目の前にいたのは、少し怒っているような、それでいて、安心したような表情のガレットだった。
「……大丈夫かい?」
「あ、ああ……」
ゆっくりと何が起こったのかを確認する。転びそうになった俺を、ガレットが支えてくれたのだ。俺の身体が、ガレットに抱き留められている。まるで二人で踊るダンスのような体勢。緊張感からのドキドキと、そうではない別のドキドキが身体に流れている。
「気をつけるんだよ、って言ったじゃないか」
「……ご、ごめん」
「まあ、でも、章太郎に何もなくてよかったよ」
こくり、と頷いた。そして、小声でありがとう、を呟くと、ガレットは柔らかく微笑んでくれて、それが、俺の体温をひどく上昇させた。
そして、なんとか俺達は購買部へと到着した。
けれど、本番はここからだ。
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