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番外

干魃

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「東の地?」
「えぇ、ここから東方の地でひどい旱魃が起こっております。聖女様のお力を是非とも借りたいと」
「分かった。準備するね」
教会の偉い人に言われて準備する。私と、シスターさんと、護衛の人と御者さんの四人旅。
ここからその場所は結構遠いらしく、馬車で片道2日ぐらいらしい。教会所有の馬車は結構良いやつらしいんだけど。
「…やっぱ、田舎道ってガタガタだよねー。アスファルトじゃないもんね」
「王都から外は大体こんな感じですね」
酔う。道がガタガタできつい。窓に向けて突っ伏した私にシスターさんが苦笑い。うぅ、せめて道が少しでも平らになってくれれば。
「…うおっ!」
御者さんの驚く声と共に急に馬車が滑らかに動くようになった。
「どうしたの?」
「いや、聖女様。突然前の道の穴ぼこがなくなったり石がなくなったりしましてね。随分動きやすくなったもので驚いちまって」
御者さんに聞くとそんな答えが返ってきた。急に道が良くなるなんて。まさかこれも聖女の力?…まさかね。私祈ったりしてないし。考えただけだし。
それから先は快適に馬車は進んでいった。

「…ひどい」
私は思わず呟いていた。どんどん空気が乾燥してきたなぁとは思ったけど、王都とは比べ物にならないぐらい荒れ果てている。地面は乾燥で裂けて雑草一本も生えてない。畑も田んぼもかさかさで収穫の跡は一つもない。
昔テレビの中で見たような光景が目の前にある。
「ここ1年ほど雨が降らんのです。先代様に祈ってもらったのですが効果が薄く…。聖女様、どうか我々をお助けください…」
「聖女様…」
「…どうか、どうか…」
跪き私を拝むようにする人達。ぶんぶん頭を振って気合いを入れる。
「…はい、必ず助けます!」

聖女としての力の示し方。アイリス様は跪いて祈りの文句をひたすら口にする、って言ってたけど、私は多分そうしなくても出来る。
立ったまま目を閉じて、心の中で唱える。
『どうか、この地が潤いますように。この人達が幸せになりますように』

「…おぉ、おぉ!」
村人たちの喜びの声。私は静かに目を開ける。空いっぱいの雨雲から降り出す恵みの雨。地面がみるみる潤っていく。周囲の人の顔も明るくなっていく。さらに畑からみるみる植物が伸びていく。
「…作物だぁ!」
「雨が降ったぞぉ!」
「聖女様ばんざーい!」
雨に打たれながら笑い騒ぐ村人たち。私は笑いながら彼らに手を振った。

「この辺り一体が旱魃の被害を受けましたから…。あと数カ所回りましょうか」
書類を見つめるシスターさんに頷く。
村人たちに歓待されて精一杯のおもてなしを受けた夜、私は人々の喜びの顔を思いながら満足して眠りについた。

私はその時、思いもしなかった。
聖女の力を素直に喜んでくれる人だけではないことを。
私の中に、敵意があることを。
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