33 / 53
番外
無意識
しおりを挟む
そこから数日のことはあまり覚えていない。
目の回るような忙しさ。
たくさんの祈り。
村人たちの喜びの声。
そしてそれをかき消すような、
「何でもっと早く来てくれなかったんだ!お前がもっと早く来てりゃ俺の妻も娘も!この×××!×××!お前なんかー!」
男の怒号。
それよりももっと大きな、
雷の音と光。
私がふっと馬車の中で目を覚ましたのは数日後のことだった。
旱魃にあった最後の小さな村で祈った後、馬車に戻ろうとした私にある男が掴みかかったらしい。旱魃のせいで家族を亡くして自暴自棄になっていたと、後からその村の人に聞いた。
私につかみかかって罵声を浴びせ、呆然とした私に男が拳を振り上げた瞬間、途方もない大きさの音と光がして男はその場に倒れて、後にはぼんやりとした私が立っていたらしい。
男は雷に打たれた、と言われても私には分かってしまった。
男を倒したのは私の、聖女の力だ。
さらに私の力は折角復活させた村をさらにひどい状態に変えていた。
もともと枯れていた川や井戸が完全に干上がり、植物は完全に枯れ果て姿すらない。獣が凶暴化し村を襲うようになってしまった。
村は人が住めない場所になってしまった。
男は死んではいない、らしい。会っていないからわからない。
村人たちは私に対して何度も何度も謝罪をした。申し訳ない、聖女様の怒りはもっともだ、男のことはそちらで裁いてもらっていい。だからどうか村を元に戻してほしい、と。
目を覚ましてから私は何度も何度も祈った。
村の復活を。男の治癒を。
どれだけ祈っても村は元に戻らなかった。
意識して使う力よりも無意識の力の方が強いのだ。と急いで村に来たアイリスさんは言った。
私は何度祈っても変わらない村の姿に呆然としていて、村中を見て回るアイリスさんの姿を見ているしかなかった。
私はあの時、自分に害意を向ける男に無意識に敵意を向けた。そして私の敵意は男の住む村にまで及んでしまった。
「あなたの力は強大です。だからこそ有益であり、それゆえにあまりにも危険すぎる」
アイリスさんはこわばった顔でそう言った。
馬車で王都に戻る途中、突然後輪がガタンと鳴った。
窓から顔を出して後ろを振り返る。私が進む先はなめらかな道が、私が通り過ぎるたびにガタガタの道になっていく。来る時に通った時より酷いぐらいだ。
私は祈る。目を閉じて手を固く結んで。どうか、これ以上はひどくならないでと。
何にもならないとしても、私にはそれしか出来なかった。
私の力は私には制御できない。
力を封印することも、力を弱めることも出来る。とアイリスさんは言った。封印には時間がかかるから、とりあえず半減くらいに抑えるらしい。そのための設備が王宮にあるらしく、私は王族に挨拶することになった。本当はもう少しマナーとか学んでからじゃないといけないらしいんだけど、今回は非常事態だからしょうがないらしい。
アイリスさんの後に続いて謁見の場所の扉をくぐる。緊張しながら頭を下げて、顔を上げた時。
私は運命の出会いをした。
目の回るような忙しさ。
たくさんの祈り。
村人たちの喜びの声。
そしてそれをかき消すような、
「何でもっと早く来てくれなかったんだ!お前がもっと早く来てりゃ俺の妻も娘も!この×××!×××!お前なんかー!」
男の怒号。
それよりももっと大きな、
雷の音と光。
私がふっと馬車の中で目を覚ましたのは数日後のことだった。
旱魃にあった最後の小さな村で祈った後、馬車に戻ろうとした私にある男が掴みかかったらしい。旱魃のせいで家族を亡くして自暴自棄になっていたと、後からその村の人に聞いた。
私につかみかかって罵声を浴びせ、呆然とした私に男が拳を振り上げた瞬間、途方もない大きさの音と光がして男はその場に倒れて、後にはぼんやりとした私が立っていたらしい。
男は雷に打たれた、と言われても私には分かってしまった。
男を倒したのは私の、聖女の力だ。
さらに私の力は折角復活させた村をさらにひどい状態に変えていた。
もともと枯れていた川や井戸が完全に干上がり、植物は完全に枯れ果て姿すらない。獣が凶暴化し村を襲うようになってしまった。
村は人が住めない場所になってしまった。
男は死んではいない、らしい。会っていないからわからない。
村人たちは私に対して何度も何度も謝罪をした。申し訳ない、聖女様の怒りはもっともだ、男のことはそちらで裁いてもらっていい。だからどうか村を元に戻してほしい、と。
目を覚ましてから私は何度も何度も祈った。
村の復活を。男の治癒を。
どれだけ祈っても村は元に戻らなかった。
意識して使う力よりも無意識の力の方が強いのだ。と急いで村に来たアイリスさんは言った。
私は何度祈っても変わらない村の姿に呆然としていて、村中を見て回るアイリスさんの姿を見ているしかなかった。
私はあの時、自分に害意を向ける男に無意識に敵意を向けた。そして私の敵意は男の住む村にまで及んでしまった。
「あなたの力は強大です。だからこそ有益であり、それゆえにあまりにも危険すぎる」
アイリスさんはこわばった顔でそう言った。
馬車で王都に戻る途中、突然後輪がガタンと鳴った。
窓から顔を出して後ろを振り返る。私が進む先はなめらかな道が、私が通り過ぎるたびにガタガタの道になっていく。来る時に通った時より酷いぐらいだ。
私は祈る。目を閉じて手を固く結んで。どうか、これ以上はひどくならないでと。
何にもならないとしても、私にはそれしか出来なかった。
私の力は私には制御できない。
力を封印することも、力を弱めることも出来る。とアイリスさんは言った。封印には時間がかかるから、とりあえず半減くらいに抑えるらしい。そのための設備が王宮にあるらしく、私は王族に挨拶することになった。本当はもう少しマナーとか学んでからじゃないといけないらしいんだけど、今回は非常事態だからしょうがないらしい。
アイリスさんの後に続いて謁見の場所の扉をくぐる。緊張しながら頭を下げて、顔を上げた時。
私は運命の出会いをした。
96
お気に入りに追加
515
あなたにおすすめの小説
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

侯爵令嬢セリーナ・マクギリウスは冷徹な鬼公爵に溺愛される。 わたくしが古の大聖女の生まれ変わり? そんなの聞いてません!!
友坂 悠
恋愛
「セリーナ・マクギリウス。貴女の魔法省への入省を許可します」
婚約破棄され修道院に入れられかけたあたしがなんとか採用されたのは国家の魔法を一手に司る魔法省。
そこであたしの前に現れたのは冷徹公爵と噂のオルファリド・グラキエスト様でした。
「君はバカか?」
あたしの話を聞いてくれた彼は開口一番そうのたまって。
ってちょっと待って。
いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないですか!!?
⭐︎⭐︎⭐︎
「セリーナ嬢、君のこれまでの悪行、これ以上は見過ごすことはできない!」
貴族院の卒業記念パーティの会場で、茶番は起きました。
あたしの婚約者であったコーネリアス殿下。会場の真ん中をスタスタと進みあたしの前に立つと、彼はそう言い放ったのです。
「レミリア・マーベル男爵令嬢に対する数々の陰湿ないじめ。とても君は国母となるに相応しいとは思えない!」
「私、コーネリアス・ライネックの名においてここに宣言する! セリーナ・マクギリウス侯爵令嬢との婚約を破棄することを!!」
と、声を張り上げたのです。
「殿下! 待ってください! わたくしには何がなんだか。身に覚えがありません!」
周囲を見渡してみると、今まで仲良くしてくれていたはずのお友達たちも、良くしてくれていたコーネリアス殿下のお付きの人たちも、仲が良かった従兄弟のマクリアンまでもが殿下の横に立ち、あたしに非難めいた視線を送ってきているのに気がついて。
「言い逃れなど見苦しい! 証拠があるのだ。そして、ここにいる皆がそう証言をしているのだぞ!」
え?
どういうこと?
二人っきりの時に嫌味を言っただの、お茶会の場で彼女のドレスに飲み物をわざとかけただの。
彼女の私物を隠しただの、人を使って階段の踊り場から彼女を突き落とそうとしただの。
とそんな濡れ衣を着せられたあたし。
漂う黒い陰湿な気配。
そんな黒いもやが見え。
ふんわり歩いてきて殿下の横に縋り付くようにくっついて、そしてこちらを見て笑うレミリア。
「私は真実の愛を見つけた。これからはこのレミリア嬢と添い遂げてゆこうと思う」
あたしのことなんかもう忘れたかのようにレミリアに微笑むコーネリアス殿下。
背中にじっとりとつめたいものが走り、尋常でない様子に気分が悪くなったあたし。
ほんと、この先どうなっちゃうの?
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる