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ハンスは手で自分の膝をさすりながら焦っている。
「ゲラルトが席を外すタイミングをずっと待ってたんだ。今しか話すチャンスはない」

そんなハンスを見て「落ち着きなさいよ」と言ったけど、私も胸の内がゾワゾワした。なぜゲラルトとカタリーナが街で一緒に歩いていたのだろう。ゲラルトはいつも仕事に行っているはずだし、カタリーナとそれほど親しいはずもなかった。二人はきっと結婚式くらいでしか会っていないはずで、つながりも見出だせなかった。

もしかして……浮気? いやいや、信じられない。
「たぶん、ハンスの勘違いよ。ゲラルトがカタリーナと浮気するはずないわ。だって、ゲラルトはいつも私を部屋に閉じ込めておくほど、私のことが大好きなのよ?」

ハンスはビクッとして固まった。
「閉じ込められてるの!? どういうこと?」

ハンスが引いた表情を見せたので、私は言わなきゃよかったなと思った。
「私たち夫婦の愛情あってのことなんだから、冷静に聞いてね? 私はほとんど毎日朝から夕方まで、とある部屋にいるの。その部屋は内側からは開けられなくて、外から鍵を使わないといけないの」

私は精一杯静かに言ったはずだけど、ハンスは半分パニックになった。
「ど、どういうこと!? 一日閉じ込められているの? そんなの異常だよ! 早くゲラルトのもとから逃げたほうがいい」

「だ! か! ら! 冷静に聞いてって言ったでしょ? ゲラルトは、私が街を歩いて男の人に口説かれるのが嫌なのよ。私を独占したいの。かわいいところがあるでしょ?」

「いや……やっぱり妻を部屋から出さないなんておかしいよ……。その鍵っていうのはいつもゲラルトが持ち歩いているの?」

「いつもではないわ。帰宅したゲラルトは私のいる部屋を開けると、引き出しにしまうから」

「てことは仕事に行くときも、鍵は引き出しに入れているのかな?」

「そうかもしれないけど……わからないわ。頼むから、人聞きの悪いようには言わないでね。自分で納得して部屋に入っているのよ」

もしゲラルトが浮気しているなら、今まで私は何のために一日中あんな部屋にいたっていうのよ。ゲラルトの愛情に応えるために、外に出たい気持ちもなんとか押し殺してきた。ゲラルトが裏切るなんて……ありえない。

「ちょっと私も……失礼するね」

何かを考えているハンスを置いて、私も用を足しに行った。ハンスは「あっ」と言って手を伸ばし私を引き止めようとしたけど、無視した。ゲラルトが帰ってきていないのも気になったし、万が一体調でも崩していたら大変よ。




途中、私は裏庭にいるゲラルトを見つけた。




そして私は自分の目を疑った……。




ゲラルトがカタリーナと抱き合っている。




カタリーナは今日、家にいないんじゃなかったの……?
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