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ゲラルトが、いるはずのないカタリーナを裏庭で抱きしめている。

私は木の陰に隠れて二人の様子を覗き見した。

ゲラルトはカタリーナの頭を優しくなでる。
「カタリーナ。会いたかったよ。オリヴィアがいるあの席は苦痛でしかない」

ゲラルトの言葉を聞いてカタリーナは「ふふふ」と微笑み、ゲラルトの手に触れた。
「奥さんに対してそんな言い方をするなんて、悪い人ね。わたし、悪い人大好きよ」

「ずっと部屋にぶち込んでやっているんだが、今日だけは連れて来ないといけなくてね……」

「あんなにぱっとしないおばさんは、家でずっと編み物でもしていたらいいのよ」

「いやいや、編み物なんていう立派なことをする脳みそはないよ。あいつは俺の言うことを聞いて、黙って部屋でいることしかできないんだから」

「そっかそっか、あはははは!」

ゲラルトとカタリーナは寄ってたかって私をコケにしている。二人はニタニタと気持ち悪く笑っている。

正直、夢の中にいるのかと思った。現実でこんなにひどいことが起こるものなのだろうか。しかも、私の目の前で。

私は足に力が入らなくなって、よろけてしまった。そのとき、木陰の長い草を踏んでしまったので、カサカサと音が鳴った。



「誰かいるのか?」



こちらへゲラルトがいぶかしげな表情をして歩いてくる……。

まずい、二人の会話を聞いていたことがバレてしまう。

どうしよう……。



「みゃ~~~~」



私はとっさに、猫の鳴き真似をした。
猫の真似には自信があった。

するとゲラルトは「なんだ、猫がいたのか」とつぶやき、またカタリーナのもとへ戻った。間一髪だった。

カタリーナはまたゲラルトに抱きついた。
「ゲラルト様。これを見て! 綺麗でしょ!」
キラキラ光る宝石のついた指輪を日光に当てて見せていた。さまざまに角度を変えながらうっとりし、満足げな顔をしている。

「お! 前に買ったやつだな。早速つけてくれていて嬉しいよ」
ゲラルトもまた、嬉しそうに指輪とカタリーナを交互に見た。

私はこの場にいるのが耐えられなくなった。カタリーナに……指輪を買ってあげたの? どうして? 私が何か悪いことした? ゲラルトの言うことをきちんと聞いて、部屋にもいてあげている。あなたに愛情があると思っているからこそ、そうしているのよ?

ゲラルトとカタリーナがその場を解散した。
カタリーナはすぐそばにある倉庫の中へ入っていった。

(どうしてあんなところへ……?)

一方で、ゲラルトは昼食会のテーブルへ戻るようだった。私も裏庭の端で手早く用を足し、ちょうど大きいものが出てきたので、それを葉っぱで取った。


(カタリーナの部屋は、確か二階の角よね……)


結婚する前はたまにこの家の中にもお邪魔していたから、覚えていた。

私は思いっきり振りかぶり……(行ってこい!!!)

カタリーナの部屋の外壁に、排泄物を投げつけてやった。我ながらナイスコントロール!
いろんな意味ですっきりしたけど、すぐにまたゲラルトを許せない感情が湧き上がってきた。

(裏切られていたのね……私を部屋に閉じ込めていたのは、おそらく思う存分に浮気するため……)

そうか……わかった! カタリーナが入った倉庫は、隠れ場所として使っているんだ。二人はあの倉庫でイチャイチャした。そして、カタリーナはお見送りをするために外に出ていたのね。なんて詰めが甘いんだろう。

(もう一回くらい、この昼食会でゲラルトはあの倉庫に行くかしら……)

きっといくはず。そうでなければカタリーナがまた倉庫へ戻る必要ないもの。

でも……私だけが責め立てたところで、ゲラルトを追い詰めることはできない。ハンスも一緒に来てもらう? いや、それでも足りない。もっと決定的にゲラルトを破滅させる方法はないのだろうか。

ひとまず私も昼食会に戻り、作戦を考えようと思った。

テーブルにつくと、ゲラルトが眉間にシワを寄せていた。

「どこにいたんだ! 心配したぞ!」
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