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間章6
間話42 「間凛依冴」という女
しおりを挟む女性冒険家、間凛依冴。
その正体は、様々な異世界を渡り歩く旅人、「異界渡り」。
彼女と春風との出会いと関係を語る為に、まずは彼女自身について説明するとしよう。
間凛依冴、16歳。
幼い時に事故で家族を亡くして以来、何処か空虚な毎日を送っていた彼女は、その日、「異世界」に召喚された。勿論、きちんとした「ルール」に基づいた異世界召喚だ。
その世界を救う「勇者」として召喚された凛依冴は、そこで出来た仲間達と共に勇者に相応しい活躍をしてきた。どのような活躍かについては、語り出すと長くなってしまうので、ここでは語らないでおくとしよう。
そして、見事その世界を救った凛依冴は、その後、故郷へと帰った……のだが、彼女には1つだけ「後悔」があった。
一番救いたかった人物を救えなかったのだ。
それは、旅の最中に知り合った幼い少年で、とても体が弱く病気になりがちで、いつも窓から部屋の外を眺めてばかりだった。
亡くなった凛依冴の家族には、まだ幼稚園に上がったばかりの弟が1人いて、凛依冴はその少年を亡くなった弟のようにいつも気にかけていた。そして凛依冴はそんな風に過ごしていくうちに、
(ああ。もしこの世界を救うことが出来たら、ここに残るってのもありかな)
と、考えるようになった。
しかし、その想いが叶うことはなかった。
世界を救う前に、少年が死んでしまったからだ。
それも、病気ではなく、悪い人間によって殺されてしまったのだ。
当然、それ知った凛依冴は、怒りに任せてその人間を殺したが、弟のように気にかけていた少年を失った悲しみは、決して消えることはなかった。
やがて世界を救って「勇者」としての使命を終えると、凛依冴は多くの人達に見送られながらも、逃げるようにその世界を去った。少年がいない世界に、自身がいる意味などないと考えたからだ。
そして故郷に戻ってからも、彼女は再び空虚な日々を送ることになった。
だがそれから1年後、彼女は「運命の出会い」をすることになった。
きっかけは、通っていた病院が爆弾テロのターゲットにされたことだった。
爆破によって燃え盛る炎に、崩れゆく病院、そして、それに逃げ惑う人々。
混乱の最中、凛依冴の頭の中にあったのは、
(ああ、そうだ。ここで人生を終えるのも、悪くないかも)
それは、最早生きる意味を無くした凛依冴の答えだった。
そう考えた凛依冴は、出入り口へと向かう人々とは反対に、1人病院の中へと進んでいった。
ところが、
「何してるんですか!?」
「?」
1人の子供が、凛依冴の腕を掴んだのだ。
外見的には小学校低学年くらいで、服装こそ男の子のものだが、顔立ちは可愛い女の子のようなその子供は、病院の中へと向かう凛依冴に向かって、
「ここにいたら危ないです! 一緒に逃げましょう!」
と、必死になって説得したが、
「ごめんね、私、もうこの世界で生きていたくないの」
と、凛依冴は子供から離れようとした。
その後も、子供はなんとか凛依冴を説得したが、凛依冴は頑なに拒否した。
そんな彼女を見て、子供はカチンと頭にきたのか、
「ああ、もう。ごちゃごちゃうるさい……」
と、凛依冴から手を離すと、ジャンプして彼女の胸ぐらを掴み、グイッと自分の顔を近づけて、
「黙って僕に救われろ! これは、『命令』だ!」
と、思いっきり凛依冴を怒鳴った。
その言葉を聞いた瞬間、凛依冴の中で「何か」が目覚めたのか、
「……あ、はい」
と、凛依冴は最終的には子供に従って共に病院を脱出した。
やがて2人は無事に病院を脱出すると、
「「た、助かった」」
と、へなへなとその場にへたり込んだ。
そして、
「あ、お姉さん、大丈夫ですか?」
と、子供が尋ねると、
「……ごめんなさい」
と、凛依冴は大粒の涙を流しながら子供に向かって謝罪した。
その後、落ち着いた2人が家に帰ろうとした時、凛依冴が口を開いた。
「……あ、あのさ」
「? 何ですか?」
「私、間凛依冴っていうんだけど、あなたは?」
「僕?」
そして、子供は名乗った。
「僕は、春風です。光国春風。こんな顔ですが、男です」
「光国……春風」
その名前を聞いて、凛依冴は言う。
「よかったらなんだけど……電話番号、教えてくれないかな?」
その時の凛依冴の顔は、後にこう語られる。
「あれは、恋する乙女の顔だった」
そう、それまで誰にも恋することなどなかった凛依冴は、今日、今まさに目の前にいる、自分よりも年下の幼い少女のような顔を持つ少年、春風に、恋をしていたのだ。
そして、今日のこの出来事をきっかけに、凛依冴は生きる気力を取り戻し、その後何度も春風と会い、次第に彼を愛するようになっていた。
やがて凛依冴は様々な出来事を経て、後に「異界渡り」への道を歩むことになったのだが、それはまた、別の話。
そう、全ては、愛する春風と共に生きる為に。
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