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第12章 集結、3人の「悪魔」
第344話 そして、「抜刀」へ
しおりを挟む彼岸花を鍛え、それを振るった鍛治師の女性。最後に目的だった大きな魔物との戦いに勝利した彼女は、その後、命を失い、肉体は彼岸花に吸収された。
そのあまりにも残酷で、あまりにも悲しすぎる結末に、それを見た春風も、戦慄すると同時に悲しい気持ちになった。
それからも春風は、彼岸花を振るった者達の最期を見続けた。
何人もの剣士や戦士が、その彼岸花を振るい続け、最後は皆命を失い、肉体は彼岸花へと吸収されていった。
やがて、多くの使い手達を喰らった彼岸花は、いつしか「妖刀」と呼ばれ、恐れられるようになり、その後、凛依冴によって地球へと持ち込まれ、そして今から2年前のあの日、凛依冴から春風の手に渡り、一度だけ振るった後、また凛依冴に返され、以降は彼女のもとに保管されていたが、春風が異世界エルードに旅立ったこと知った凛依冴によって、再び春風の手に渡った。
「……」
気がつくと、春風はまた闇の中にいた。
ただ違ったのは、目の前に人影がいることだった。最初はぼんやりと見えるだけだったが、その後少しずつはっきりと見えるようになった。
そして現れたのは、真っ赤な着物に身を包んだ、長い赤髪の少女だった。
春風は真っ直ぐ少女を見て尋ねる。
「……あなたは、彼岸花ですか?」
その問いに対し、少女は無表情で、
「(コクリ)」
と、静かに頷いた。
春風は小さく「そうですか」と呟くと、
「2年前、あなたを手放して、すみませんでした」
と、その少女ーー彼岸花に向かって、深々と頭を下げて謝罪した。
すると、彼岸花は黙って春風に近づいて、両手で春風の顔に触れると、ゆっくりと持ち上げた。
その仕草に、春風は「あ、あの……」と戸惑っていると、彼岸花はゆっくりと口を開いて、
「私の方こそ、ごめんなさい」
と、悲しそうな表情で春風に向かって謝罪した。
それを聞いて、春風は戸惑ったまま、
「……え? あの、どうして?」
と、尋ねると、
「2年前、あなたが私を凛依冴さんのもとに返したあの日、私は『これで良い』と思っていた。もう、何かを斬るのも、誰かを斬るのも、使い手を喰らうのも嫌だったから。だけど、その想いとは別に、『もっとあなたといたい』とも思ってしまったの。そしてその想いに、あなたの腕に宿ってしまった私の『力』が強く反応してしまって、それがあなたをずっと苦しめてきた。だから、本当にごめんなさい」
と、彼岸花は悲しそうな表情を崩さずに答えながら、再び謝罪した。そしてその答えを聞いた瞬間、春風はそれが「彼岸花の呪い」の正体なのだと理解した。
その後、春風は顔に触れていた彼岸花の手を優しく剥がすと、彼女を真っ直ぐ見て、
「あの、彼岸花……さん。手放した俺が、こんなこと言う資格がないことはわかっているのですが……」
と言うと、また深々と頭を下げて、
「もう1度、俺にあなたの力を貸してください」
と、お願いした。
その言葉に、彼岸花は最初ドキッとなったが、すぐにまた悲しそうな表情になって、
「……わ、私で、良いの? 使い手の命を奪い、肉体までも喰らい尽くす、こんな醜い私で?」
と、春風に向かってそう尋ねた。
すると、春風はゆっくりと頭を上げて、また真っ直ぐ彼岸花を見て、
「……確かに、あなたがどれほど危険な力を持っているのかは理解出来てます。だけど……」
「?」
「だけど俺には、どうしても守りたい、『大切なもの』があるんです。それを守る為にも、俺は、あなたが必要なんです!」
と、はっきりと答えた。
その言葉を聞いて、彼岸花は再びドキッとなった後、すぐに表情を変えた。
だが、それは先程まで見せた悲しそうな表情ではなく、「困っちゃうな」と言わんばかりの笑顔だった。
そして、彼岸花は両手で春風の右手にそっと触れると、
「……後で後悔しても、遅いんだからね」
と、その笑顔のままそう言ったので、
「ありがとうございます」
と、春風はニコリと笑ってお礼を言った。
そして舞台は変わって、ループスと戦った闘技場内。
彼岸花を抜こうとする春風の右目が、真紅の炎に包まれて、肝心の彼岸花はというと、ゆっくりと鞘から引き抜かれた。
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