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第9章 出会い、波乱、そして……
第211話 涼司、怒る
しおりを挟むその後、春風はモニター画面越しの涼司達に、セイクリア王国の勇者召喚があったあの日から今日までの事について説明した。勿論、その際に、
「どうかこれから話す事を誰にも言わないでほしい。大混乱が起きちゃうから」
と注意を付け加えて、だ。
そして、涼司達が静かに話を聞く中、全ての説明が終わると、
「成る程な。畜生、そういうわけかよ……」
と、涼司は右手で顔を覆ってそう言った。それに続くように、
「て、何じゃそりゃあ! そんなんありかよ!?」
「酷すぎるわ!」
「これは、確かに世間に広まったら、大混乱は間違いないでしょうねぇ……」
と、涼司の周りに集まった近所の人達も口々にそう言った。
暫く涼司の周りがざわついていると、
「なぁ、春風」
「何? オヤジ」
「今お前の側に、そのセイクリア王国のお姫様がいるんだよな?」
そう尋ねた涼司に、春風はコクリと頷くと、
「ちょっとその人にかわってくんねぇか?」
と言ってきたので、春風は「わかった」と言ってイブリーヌを側まで呼び寄せた。
「あー、はじめまして、でしょうか? 春風の父の、幸村涼司といいます」
と、涼司がイブリーヌを見てそう自己紹介すると、
「はじめまして、セイクリア王国第2王女、イブリーヌ・ニア・セイクリアと申します」
と、イブリーヌは涼司に向かって丁寧にお辞儀しながらそう返した。ただよく見ると、その体は微かに震えていたのだが、春風はスルーする事にした。
挨拶を返したイブリーヌを見て、涼司が気まずそうに口を開く。
「あのー、ちょっと質問したいのですが……」
「何でしょうか?」
「先程春風が説明した『異世界召喚のルール』ですが、あなた方セイクリア王国の方達は、この『ルール』を知らなかったと見て間違い無いでしょうか?」
その質問を聞いて、イブリーヌは答えるのを一瞬躊躇ったのか顔を下に向けたが、すぐにゆっくりと顔を上げて、
「……お恥ずかしながら、その通りです」
「それは、あなたの父君である国王様や、実際に召喚を行ったあなたのお姉さんも同じですか?」
「……はい。わたくし達が崇拝する神々からは、そのような事は聞かされませんでした。ただ、『この秘術を使って勇者を召喚せよ』と、神々より授かった勇者召喚を用いて、水音様達をこの世界に召喚したのです」
「……そうですか」
涼司がそう呟いた後、暫くの間、周りが沈黙していると、
「イブリーヌ姫……様」
と、涼司がゆっくりと再び口を開いた。
「あなた方の事情はよくわかりました。しかし、わかったうえで、どうしても言いたい事があります」
「は、はい、何でしょうか?」
イブリーヌが恐る恐るそう尋ねると、涼司は目をクワっと見開いて目の前にあるテーブルをバンッと叩き、
「ふざけんな! 冗談じゃねぇぞ! 何でそんな厄介な事に、春風が巻き込まれなきゃなんねぇんだよ!? 何で春風が、俺の大事な息子が、こんなデケェもん背負わなきゃなんねぇんだよ!? 春風はまだ、17なんだぞ!? そっちじゃ15で大人の仲間入りだけどな、地球じゃまだ『子供』なんだぞ!? わかってんのか、ああ!?」
と、イブリーヌに向かって怒りをあらわにして怒鳴った。
それを聞いて、イブリーヌは体を震わせながら何か言おうとしたが、その前に涼司が更に言い続けてきた。
「俺は……俺は絶対に許さねぇぞ! アンタらセイクリア王国も、アンタらの崇拝する神様ってやつにもな!」
そう怒鳴る両耳の目から、一筋の涙が流れた。
(オヤジ……)
春風はそれを見て何か言おうと口を開いた、まさにその時、
「落ち着いてください、涼司さん」
『え?』
背後で聞こえたその声に、モニター画面の涼司達が一斉に声がした方を向くと、そこには1人の初老の男性がいた。
「……あ」
『あーっ! あなたはっ!』
その男性を見て、涼司達だけでなく春風達(正確には春風とクラスメイト達)が驚くと、
「え、誰? あの、ハル様のお知り合いですか?」
と、それまで体を震わせていたイブリーヌが、春風に向かってそう尋ねた時、
「はじめまして、異世界のお姫様」
と、春風の代わりに男性が、静かに名乗る。
「私は、内閣総理大臣を務める、神代総一と申します」
それを聞いた瞬間、その場にいるエルード勢全員が、
『……え?』
と、一斉に「?」を浮かべた。
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