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間章2
間話10 「あの日」
しおりを挟むそれは、とある国にある小さな村で起きた出来事だった。
否、「外の世界」から隔絶されていたそこは、正確に言えば「村」というより「隠れ里」と呼んだ方が正しいだろう。
とにかく、その「隠れ里」に住んでいる人達は、全員というわけではないが、皆、特殊な「力」を持っていた。それは、一部の人間から見れば、「魔法」と呼ぶに相応しい「力」だった。
春風と師匠である間凜依冴は、既に何度かその隠れ里を訪れており、住人達と友好的な関係を結んでいた。そして、彼らと過ごしていくうちに、春風も彼らと同じ「力」を扱えるようになっていた。
『えっ!? スゲェな幸村(君)!』
「しっ! みんな静かに!」
クラスメイト達を静める小夜子を前に、水音は話を続ける。
「ま、まぁ、とにかく、師匠と春風からその話を聞いて、僕はその隠れ里に行くのをとても楽しみにしていたんです。ですが……」
「……何があったというのだ?」
そう尋ねるウィルフレッドに、水音は表情を暗くして答えた。
「その里を訪れたあの日、そこは悲劇の真っ最中だったんです」
『!?』
水音が語った「悲劇」。それは、里が武装した集団に襲撃された事だった。
家を燃やされ、逃げ惑う里の住人達に、集団は手にした兵器で容赦なく襲い掛かった。
当然、「力」を持った住人達は必死に抵抗したが、相手が持つ強力な兵器を前に、1人、また1人と倒れていった。
「なんという事を……」
「ああ、まさに悪魔の所業だな……」
話を聞いて絶句する王妃マーガレットとウィルフレッド。水音はさらに話を続けた。
「ええ、とても酷い状況でした。しかも、あの日行われていたのはそれだけじゃなかったんです」
「まだ何かあるのか!?」
「はい、奴らは住人達を傷つけただけじゃなく、そこに住む子供達をさらっていたのです」
「な、何だと!? 子供達を!?」
「はい、後で聞いた事なのですが、さらわれたのは全員、10代前半の幼い子供達だったそうです」
「ゆ、許せん!」
水音の言葉を聞いて、ウィルフレッドは椅子から立ち上がって怒りをあらわにした。そんなウィルフレッドを落ち着かようと、マーガレットは必死になって宥めた。その途中で、マーガレットは水音に尋ねる。
「そ、それで、水音さん達は、その悲劇の最中、何をしていたのですか?」
「はい、僕は師匠と一緒に救助活動をしていたのですが……春風だけは、状況を見て何かがキレたのか、その集団を相手に暴れ回っていました」
「な、なんという無茶を!」
「ええ、そう思った僕は彼を止めようとしたんですが、そんな僕を庇って、師匠も負傷してしまいました」
「そんな……」
マーガレットを含む全員が、その台詞を聞いて絶句した。
「その後、春風の活躍もあって、その集団は里から撤退したのですが、それでも多くの子供達が連れ去られ、住人の中にも多数の死者が出ていました」
「……師匠殿は、どうなったのだ?」
「負傷したと言いましたが、幸いにも命に別状はありませんでした。ですが……」
「な、何だ? まだ何かあるのか!?」
狼狽えながら尋ねるウィルフレッドに、水音はさらに表情を暗くして答えた。
「里に残された集団の持ち物を調べて、連中のアジトを知った春風が、『子供達を助けに行く』と言い出したんです。しかも、たった1人で」
「な、何だって!?」
「嘘だろオイ!?」
「何考えてんの!?」
水音の話を聞いて口々にそう言うクラスメイト達。そんな中、顔を真っ青にしていた小夜子は、
「だ、誰も止めなかったのか?」
「はい、殆どの住人は負傷していた為、誰一人春風を止められませんでした。そして、僕も……」
「ど、どうしてだ!? どうして止めなかったんだ!?」
「止めようとしました! 『どうして君がそんな事をするんだ』とも聞きました! でも、春風は言いました」
ーーあいつらは、住人達に酷いことをした。
ーー子供達も、連れ去った。
ーー師匠と、水音を、傷つけた。
ーー俺の「大切なもの」を、傷つけやがったんだ! 行く理由なんて、それだけで充分だ!
「そう言った春風の顔は、まさに召喚された初日に、騎士を相手に暴れる前に見せた、あの顔と同じだったんです」
震えた声でそう言った水音に、小夜子も、クラスメイト達も、そして王族達も、何も言えなくなった。
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