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間章2
間話9 弟子としての日々と、疑念
しおりを挟むその後、水音は小夜子達に、春風と師匠の間凜依冴との出会いから、彼女の弟子として自身が体験したことを全て話した。それは、小夜子達の想像を遥かに超えたものだった。
水音曰く、ある国では古代文明の遺産を巡って怖い軍隊に追い回されたり、ある国では危険思想に染まった宗教組織に生贄にされそうになったり、またある国では貴重な文化的財産を取り戻す為に裏組織と危ないギャンブルで勝負したりと、まさに「命懸け」な日々だったという。
その他にも色々あるのだが、詳しい話についてはここでは省くとしよう。
そんな風に話す水音の話を、小夜子達は真面目な表情で聞いていた。特にウィルフレッドはその話を、まるで少年の様に目をキラキラと輝かせながら聞いていた。ただ、中には「流石に嘘だろ?」と疑っている者もいたが。
「お、おお。其方の師匠殿もそうだが、幸村春風……いや兄弟子殿もなんとも凄い人物だな」
ハッと我に返ったウィルフレッドが、水音に向かってそう言った。それを聞いて水音は、
「凄いなんてものじゃありませんよ、僕にとってあの日々は間違いなく『命懸けの冒険』なんですが、春風にとっては全く別のものなんですよ。彼、なんて言ったと思います?」
「な、なんて言ったのだ?」
「『旅行』ですよ!? 彼はあの危険に満ちた冒険を、『楽しい旅行』なんて言葉で括ったんですよ!? 信じられますか!?」
怒気を込めてそう話す水音。それを聞いた小夜子ら勇者達は、一斉に上を見上げて、
『そんな旅行があるかぁあっ!』
と、突っ込みの声をあげた。その時、遠くの都市で1人の少年が、
「ウヒャアッ!」
と驚きの声をあげたのだが、それはまた別のお話。
話は戻って、小夜子達勇者の突っ込みを見て、ウィルフレッドはちょっぴり後ろへ下がったが、すぐに水音に向き直った。
「う、うーむ。其方の兄弟子殿は本当に凄い少年なのだな」
「ええ、もう本当にとんでもない奴なんですよ彼は、気の弱そうな顔で平気で無茶やるし、常識を理解してるくせにことごとくそれをあらゆる方面からぶっ壊すようなことばっかやる奴ですけど……」
その瞬間、水音の脳裏に優しく微笑む春風が浮かび上がった。水音はその後、顔を下に向けて
「すっごく、良い奴なんです。本当に……」
と、小さく震えながら言った。
「……そうか」
ウィルフレッドがそう言うと、水音はさらに話を続けた。
「だから、どうしてあの時春風が、あんな事を言ったのかがわからないんです」
「あんな事……とは?」
そう尋ねるウィルフレッドに、水音は静かに答える。
「『他の世界にまで迷惑をかけた連中なんか知った事じゃない』」
「そ、その台詞は!」
「はい、召喚されたあの日、春風が怒って言った台詞です」
その瞬間、ウィルフレッド達王族だけでなく小夜子達も、「あの日」の事を思い出した。
「この台詞を聞いて、僕はどうしてと悲しくなったんですが、冷静になって考えみると、おかしな事に気づいたんです」
「おかしな事……とは?」
「最初、僕はこの言葉を自分達に向けた言葉だと思ったのですが、それだと『俺達異世界人を巻き込む様な連中なんて』ってなる筈なんです。ですが彼は、あの時『他の世界にまで迷惑をかけた』言いました。それに気づいた時、僕の中で『どういう事だ?』という疑念が生まれたのです」
『……』
「それに、その台詞を言った時の春風の顔なんですが……あれは怒っていると同時に、今にも泣き出しそうな感じの、悲しみが入り混じった表情でした」
「悲しみ……だと?」
「はい。疑念が生まれた瞬間、思い出したのです。あれは……大切なものを傷つけられた時の顔でした」
「な、ちょっと待ってください!」
その瞬間、ガタンと音を立てて、それまで無言で話を聞いていた第一王女のクラリッサが立ち上がった。
「それではまるで、私達が他の世界に迷惑をかけたみたいな言い方ではありませんか!? いくら勇者様の1人とはいえ、言って良い事と悪い事があります!」
「クラリッサ……」
声を荒げてそう叫ぶクラリッサと、それを見てオロオロするウィルフレッド。
そんなウィルフレッドを前にしても、クラリッサは水音に問い詰める。
「大体、あの男の顔を見て、どうしてそうだと言い切れるのですか!? まるで見た事があるみたいな言い方ですよね!?」
肩で息をしながら問い詰めるクラリッサに対し、水音は冷静な表情で答える。
「先程、『思い出した』と言ったでしょう? そうです、僕は一度だけ、『あの顔』を見た事があるんです。2年前の、『あの日』に」
「な、何を……」
最後まで言おうとしたクラリッサだが、そこへ、
「落ち着くんだクラリッサ」
と、ウィルフレッドが「待った」をかけた。
その後、ウィルフレッドは水音に向き直ると、
「水音よ、2年前、其方と兄弟子殿に、一体何があったというのだ? どうか、教えてほしい」
と、真剣な表情で教えてくれと頼んだ。
それを見て、水音はコクリと頷くと、
「わかりました。こちらも全てお話しします」
と言って、ゆっくりと『あの日』の出来事を語り始めた。
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