ユニーク賢者の異世界大冒険

ハヤテ

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第5章 対決、断罪官

第74話 戦う理由

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 「終わりだ」

 ウォーレンの長剣がリアナに振り下ろされた、まさにその時、

 「求めるは“土”、『アース』!」

 「何!?」

 離れた位置にいる春風がそう叫んだ瞬間、ウォーレンの背後の地面から土の塊が突出し、ウォーレンの膝の裏に直撃した。

 アース……土属性の攻撃魔術。地面から土の塊を突出させて相手を攻撃する。出現位置を調節すれば、敵の新たな「扉」を開くことが出来る。消費魔力:5。詠唱:「求めるは“土”、『アース』」。

 「くぉ!」

 突然の一撃にバランスを崩すも、なんとか踏ん張ることが出来たウォーレン。リアナはその隙をついてすぐに立ち上がり、その場から離れた。

 「ぐ、つ、土の魔術だと? お、おのれ……」

 そう言って、ウォーレンはすぐに攻撃態勢を整えたが、既にその側まで春風が近づいていた。

 (し、しまった!)

 驚くウォーレンの腹に、春風は彼岸花を持ってない、銀のガントレットをはめた左手を当てた。

 そして、

 「求めるは“火”、『ファイア』!」

 と、春風がそう唱えると、春風の左手から灼熱の炎が放たれて、ウォーレンの体を包み込んだ。

 ファイア……火属性の攻撃魔術。炎を出現させて敵を焼き尽くす。火力と出現位置を調節すれば、男又は雄型の敵に大ダメージを与える事が出来る。消費魔力:5。詠唱:「求めるは“火”、『ファイア』」。

 「グオアアアアア!」

 「だ、大隊長ぉお!」

 炎に包まれたウォーレンを見て、隊員達を手当てしていたルークは悲鳴をあげた。

 「ふ、副隊長、我々に構わず、大隊長を!」

 と、隊員の1人がルークに行くように言うと、

 「! すまない!」

 ハッとなったルークは、すぐにウォーレンの側に駆け寄った。その最中、春風もリアナと合流した。

 「大隊長、大丈夫ですか!?」

 ルークは今にも倒れそうなウォーレンを支えながら尋ねると、意識がはっきりしたウォーレンは、

 「大丈夫だ」

 と答え、上半身の鎧を脱ぎ捨てた。銀の装飾が施された漆黒の鎧は、春風の炎を受けて形が崩れていた。腕の鎧を残して上半身裸になったウォーレンの、40代とは思えない程の筋肉のついたその体には、無数の生傷がついていた。

 そんなウォーレンは、春風をギロリと睨みながら尋ねた。

 「貴様、一体何者だ」

 「……ただのハンターだけど」

 「冗談はやめろ。ただのハンターが、風、土、火の3つの属性魔術を扱える訳がないだろ」

 「え? 優れた魔術師なら、それくらい出来るんじゃ無いの?」

 すると、春風の答えにルークがカッとなって口を開いた。

 「ふざけるな! 魔術師が扱えるのはの魔術だけだ!」

 その言葉を聞いて、春風は「え、そうなの?」と言わんばかりにチラリとリアナを見た。

 リアナはその視線に、

 「あ、うん。この世界の人間が持ってる魔力属性はたった1つだけで、『魔術師』の職能保持者ジョブホルダーは、そのたった1つの魔力属性にちなんだ魔術を扱えるようになれるんだよ。頑張れば違う属性の魔術も使えるようになれるけど、それでも精々1種類だけなんだ」

 と、小さい声で答えた。その答えに、春風は冷や汗を垂らしながら、「へ、へぇ」と盛大に頬を引き攣らせた。

 その様子に、ウォーレンは「ハァ」と溜め息を吐くと、

 「まあいい。貴様が、どれだけの魔術を操ろうとも、そこの少女と同じ抹殺の対象である事に変わりはない。そこにいる異端者とその仲間、そして裏切り者のアリシアと共に、ここで葬ってやろう」

 そう言って、手にした長剣を構え直した。それに続くように、ルークも腰の鞘から剣を抜いた。

 「『葬ってやろう』、か」

 春風は溜め息混じりにそう呟くと、

 「悪いけど、こっちも負けられない『理由』ってのがあるんだよね」
 
 と、真っ直ぐな目でウォーレン達を見て言った。

 「理由だと?」

 「ああ。1つは勿論、アリシアさん達を守る為さ。アンタらがさっきから言ってる『異端者』ってのは、なんとなく見当がついてるけど、彼女達には、生きて償ってほしい『罪』があるんでな。だ、か、ら、ここで死なせる訳にはいかねぇんだよ」

 「な、なにおう!」

 「……」

 「で、2つ目の理由だけど……」

 春風はチラリとガントレットを見た。

 (ジゼルさん。あなたの過去を聞いて許せないと感じた俺に、あなたは『自分の事は気にするな』と言いました。奴らを許せない気持ちは今でもありますが、あなたが望まないと言うのなら、俺は、あなたの為には戦わない。ならば……)

 春風は視線をガントレットからウォーレン達に戻すと、彼らに彼岸花の切先を向けた。

 「俺達の進む道に、未来に、お前らは邪魔だ! だから、ぶっ潰す!」

 春風のその言葉に、ウォーレン達の表情が怒りに満ち始めた。

 (ならば俺は、の為に、コイツらと戦う!)
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