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第2章 冒険の始まり
第18話 質問は続き、そして……
しおりを挟むまさかの事実に思わず倒れそうになった春風だが、どうにか踏ん張ることが出来た。
(うん。欲しい情報が結構手に入った)
そう確信した春風は、次の質問に移った。
「ウィルフレッド陛下、この名前の横に記されている『職能』というものについて教えて欲しいのですが」
これについてはこの世界に降り立つ前に知っていた事なのだが、春風にはどうしても聞かなきゃいけない理由があった。
「あ、ああ。それは、その人が持つ『才能』のようなものでな、15歳を迎えた時に神より授かるもので、それを持つ者は皆『職能保持者』と呼ばれるようになるのだ」
「なるほど。因みにこれって種類とかあるのですか?」
「うむ、『職能』には戦闘に特化した『戦闘職能』と、生産に特化した『生産職能』の2種類だけだ」
「そうですか」
ウィルフレッドはキッパリそう言い切ると、春風は大人しく引き下がった。
(うーん。この様子じゃあ『固有職能』に関する答えは得られそうにないな)
春風がこの質問をした理由は、ウィルフレッド本人の口から、「職能」に関する話を聞く為だった。
結果は今ウィルフレッドが言ったように、「戦闘」と「生産」の他には無いという感じだった。
(まぁ、そりゃあ『悪魔の力』なんて呼ばれてるものなんて、口に出したく無いよな)
そう考えて、春風はすぐに首を振って気持ちを切り替えた。
(それじゃ、そろそろ終了としますかね)
そしてウィルフレッドを真っ直ぐ見つめると、最後の質問に入った。
「ウィルフレッド陛下」
「な、何かな?」
「もし仮に、俺達が『邪神』と『悪魔』を倒す事が出来た時、あなた方は俺達に何をしてくれるのですか?」
それは、春風にとって、一番大事な質問だった。
それまでの質問以上に真剣な眼差しの春風に対し、ウィルフレッドは一瞬怯んだ表情を見せたが、すぐに真面目な表情になると、
「勿論、見事に倒す事が出来たならば、其方達を『英雄』として讃え、それ相応の褒美と名誉を授ける事を約束しよう」
と、春風だけでなく小夜子とクラスメイト達にもそう言った。
その言葉を聞いて、クラスメイト達は喜び、さらにやる気を出す様になった。
小夜子は必死に彼らを宥めようとするが、落ち着く気配は全くなかった。
ウィルフレッド達王族や周囲の人達も、その様子を見て、
「ああ、これで世界は本当に救われる」
と、全員が安心した。
しかし、春風は違った。
(ああ、こりゃダメだな)
最後の質問の答えを聞いた春風の心に芽生えたのは、「失望」だった。
(コイツらは、俺達を元の世界に帰す気なんかないんだ)
そう感じた時、春風の心の中は、激しい「怒り」に満ちていた。
(こんな……こんな連中の所為で『地球』が、俺達の故郷が……コイツらの所為で!)
そして春風の体は、その激しい「怒り」で震えていた。その様子を見て、ウィルフレッドは、
(おお。きっとこの少年も、彼らと同じ様に喜んでいるのだなぁ)
と、大きな勘違いをして、笑顔でうんうんと頷いた。
その後、震えがおさまった春風は、
「……質問は以上です。ありがとうございました」
と、顔を下に向けたまま、落ち着いた口調で言った。
「おお、そうか。では、こちらの事情はわかっていただけたかな?」
ウィルフレッドは勘違いをしたまま、上機嫌で春風に尋ねた。
「ええ、よくわかりましたよ」
春風は下を向いた状態でそう答えると、ゆっくりと顔を上げて、
「きったねー仕事は異世界人の俺らに丸投げして、テメーらはベッドでヌクヌクするって事がなぁ!」
と、ウィルフレッドに暴言を吐いた。
それから4秒の沈黙後。
『グオッハァ!』
吐血した。
ウィルフレッドをはじめ、マーガレット、クラリッサ、イブリーヌ、魔術師達、鎧姿の男女、その他、そして、小夜子とクラスメイト達が、左頬に殴られたかの様な謎の衝撃を受けて、一斉に吐血した。
正確に言えば本当に血を吐いたわけではないが。
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