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第2章 冒険の始まり
第19話 春風、豹変する
しおりを挟む(い、今のはなんだ!? 何が起こったんだ!?)
突然の出来事に、ウィルフレッドは混乱した。
否、ウィルフレッドだけではない。謁見の間にいる者達全員が、何が起きたのか全く理解出来ないでいた。
なんとなくだが、わかっているのは、目の前にいる美少女を思わせる顔立ちの少年にいきなり質問されて、それが終わったと思ったら、これまたいきなり態度がガラリと変わって、暴言らしきものを吐かれた上に左頬に殴られたかの様な衝撃を受けた事だけだった。現在、その少年を除いた者達は皆、左頬をさすっていた。
「あ、すみません。言い方間違えました」
その少年、春風の謝罪に、ハッと我に返った人達。優しく微笑むその少年の態度に、全員、
(ああ、そうか。さっきのは気の所為だったんだ)
と考えて、ホッと胸を撫で下ろした。
だが、次の瞬間、
「きったねー仕事を異世界人の俺らに押しつけて、テメーらのんびりとおやつをムシャムシャ食ってるって事なんだよなぁ!?」
春風の暴言が、再び炸裂した。
そして、4秒の沈黙後、謁見の間にいる者達全員が、
『ゴフゥ! ガファア!』
吐血した。実際には血は吐いていないが、吐血した。しかも、2回も。さらに、左右の頬に謎の衝撃を受けるというおまけ付きだ。春風を除いた謁見の間にいる者達は、全員、左右の頬をさすり、春風は見ながらプルプルと震えた。
そんな状態の彼らを他所に、春風本人は、
(なんかさっきから煩いなぁ)
と、心の中で呟いた。
その時、
「オイ、どういうつもりだ!」
「ん?」
春風が声がした方に振り向くと、そこには涙目で左右の頬をさすりながら、イケメンらしからぬ怖い顔で睨みつける翔輝がいた。
「どうしたんだい前原君、お腹でも壊したのかなぁ?」
春風は惚けた態度でそう尋ねると、翔輝はますます怖い顔になって、
「白々しい事を言うな! さっきから何のつもりだ!? 僕達だけじゃなく、ウィルフレッド陛下達まで苦しめるなんて!」
と、怒りのままに春風を問い詰めた。
春風は幾つもの「?」を浮かべたが、すぐに真面目な表情になって、
「何を言ってるのかよくわからないなぁ。俺はただ、目の前にいる気に食わない連中に文句を言ってるだけなんだけど」
と答えた。
それが、翔輝の怒りをさらに上げた。
「文句だって!? 彼らはただ、この世界を救う為に神様の命令に従って僕達を召喚しただけだ! それの何が気に食わないっていうんだ!?」
と、怒りのままに喚く翔輝。それに続くように、クラスメイトの何人かが春風を睨みつけた。
春風は「ハァ」と溜め息を吐くと、優しく微笑んで口を開いた。
「『神様の命令』ねぇ。ま、確かに、今は世界滅亡の危機だ。世界を見守る『神様』としては、そんなの黙って見過ごすわけないだろうし、その『神様』の命令とあれば、信じて従ってしまうのも当たり前でしょうねぇ」
穏やかな表情でそんな事を言う春風に、謁見の間にいる者達全員が、まるで天国にいるような気分になった。
しかし、次の春風の言葉によって、彼らは皆、容赦なく地獄へ叩き落とされた。
「だが俺が信じてる『神様』は故郷である『地球』の『神様』達だけだぁ!」
そして、3度目になる4秒の沈黙後。
『ブオアッファアアアアアアアッ!』
彼らは、またしても吐血した。実際には血は吐いてないが、吐血した。さらに、今度は腹に強烈な一撃を喰らったかのような衝撃を受けて、全員、腹を押さえて苦しみだした。
そんな状態の彼らを見て、春風はうんざりした表情で言う。
「あのぉ、さっきから凄く煩いんですけど」
その言葉を聞いて、苦しんでいる者達は皆心の中で叫んだ。
(お前の所為だろうがぁあああああああっ!)
そんな事を知らない春風は、「やれやれ」と小さく呟くと、今も苦しんでいるウィルフレッドに向き直った。
「さて、ウィルフレッド陛下。俺は今、あなたにお願いしたい事があります」
「お、お願いしたい事……だと?」
腹を押さえて苦しみながら聞くウィルフレッドを前に、春風は自分がいる場所を指さすと、
「ここ、出て行く許可をください」
と、笑顔でそう言うのだった。
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