14 / 27
第四話 麻雀サークル
二
しおりを挟む
オーラスで、アンナはトップ目だった。
対面の武田がリーチをかけてきた。満貫直撃かハネツモでない限り、まくられることはない。アンナはメンツを崩し、現物を切った。
武田のツモ番、一筒に似たスキンヘッドがキラリと光った。
「ツモーっ!」
武田がツモったのは、一筒だ。手牌を開ける。二筒との並びシャンポンで、役もドラもない。リーチ一発ツモ、以上――と思いきや裏ドラが一筒。跳満のアガリで、武田が逆転トップとなった。
「いやあ、こういうこともあるんですねえ」
武田が、満面の笑みで点棒とチップをかき集めている。苦笑しながら、アンナは精算ボタンを押した。
精算が済んだところで、ちょうどヨシオが到着した。事前に話していたので、アンナは、鶴見に交代してもらい席を立った。
「よう、早かったな。大学の麻雀サークルだって?」
「ええ。アンナさんにぜひ会いたいって。勧誘スペースの撤収が済んだら来るそうです」
「ま、『スパロー』が賑やかになるのは歓迎だ。相手してやろうじゃないか」
高田が淹れてくれたコーヒーを飲みながらタバコを喫っていると、三人組がやってきた。彼らがヨシオの言っていた大学生たちだろう。
アンナが自己紹介をすると、三人は緊張した面持ちで、それぞれ自己紹介をした。部長の石塚が三年生で『雀々娘』という麻雀ゲームの七段、同じく三年の鈴木が六段、二年生の土屋が五段だそうだ。七段がどれほどのものかはわからないが、アンナは手を抜くつもりはなかった。
フリーではなく、セットで半荘三回ということにした。学割が利くので、フリーよりも場代が安くなる。
ルールは『雀々娘』に合わせ、三十符四翻と六十符三翻は満貫に切り上げない。『白ポッチ』が一枚入っているが、通常の白として扱う。六万点コールドもなし。レートはテンゴのゴットー、門前祝儀の百円にした。ノーレートでも構わなかったが、学生たちに少しでも緊張感を持って欲しかった。
対局が開始された。打つ前から感じていたことだったが、三人ともリア麻には慣れていない。牌捌きもそうだし、欲しい牌が出ると、顔や仕草に出てしまう。『コシ』というやつだ。仲間内のセットなので、見せ牌も含め、特に指摘はしなかった。
東一局、アンナは倍満をツモアガった。四〇〇〇・八〇〇〇と申告すると、土屋が一〇〇〇点棒を四本出してきた。
「東パツで子が倍ツモした場合、親は八〇〇〇点ちょうど、子は五〇〇〇点棒か一万点棒で払った方がいいな。そうすると、誰も一〇〇〇点棒がなくならない。一〇〇〇点棒がないと、リーチを打つ時誰かに替えてもらわないといけなくなるからな」
アンナが言うと、三人はなるほど、と頷いた。土屋は一〇〇〇点棒を引っ込め、五〇〇〇点棒を出してきた。
その土屋が、次局リーチを打ってきた。四巡後にツモ、倍満に一本届かずの跳満だが、土屋は指を折りながら数えていた。
東三局、土屋が切った三萬に、北家の鈴木からロンの声がかかった。
「北・赤で、二〇〇〇」
「鈴木、カン三萬に取れるからテンパネするよ。二六〇〇点だ」
指摘したのは、石塚だ。
三人の中では、石塚が一番打てる。だがやはり、リア麻の経験が足りない。牌効率に忠実で理牌もきれいだから、待ちも読みやすかった。
結局、対局はアンナの三連勝で終了した。セット料金は、アンナが全額出した。
「いやあ、勉強になりましたよ。強いですね、アンナさん」
額の汗を拭い、石塚が言った。
「お疲れ様。三人とも、思ったより打ててたよ。まあもっとリアルで打って、牌に慣れ親しんだ方がいいかな」
「そうですね、経験不足を痛感しました。ここにも、また来たいと思います。水嶋君、入部したくなったらいつでも来てね」
「あ、はい。今日はありがとうございました。お疲れ様です」
挨拶を交わし、三人が帰っていった。やたら石塚が自分の胸ばかり見ていたが、まあ仕方がない。ぜひまた『スパロー』に来て欲しいものだ。
「ヨシオ、アタシんち来いよ。ピザ買って帰ろうぜ」
「あ、はい」
低レートだが、三千円くらいは浮いている。高田に挨拶し、店を出た。
ピザを買い、帰りは中央公園を突っ切った。ヨシオは自転車を押し、アンナの後ろを歩いている。
自宅に着くと、アンナは部屋に入る前に、向かいの家に目をやった。八重桜が咲き始めている。ソメイヨシノは散ってしまったが、八重桜はこれからだ。
部屋のドアを開けた。部屋のゴミは、季節に関係なく満開だ。
今日もまたひとつ、ピザの箱が増えてしまう。
アンナはため息をつき、苦笑した。
対面の武田がリーチをかけてきた。満貫直撃かハネツモでない限り、まくられることはない。アンナはメンツを崩し、現物を切った。
武田のツモ番、一筒に似たスキンヘッドがキラリと光った。
「ツモーっ!」
武田がツモったのは、一筒だ。手牌を開ける。二筒との並びシャンポンで、役もドラもない。リーチ一発ツモ、以上――と思いきや裏ドラが一筒。跳満のアガリで、武田が逆転トップとなった。
「いやあ、こういうこともあるんですねえ」
武田が、満面の笑みで点棒とチップをかき集めている。苦笑しながら、アンナは精算ボタンを押した。
精算が済んだところで、ちょうどヨシオが到着した。事前に話していたので、アンナは、鶴見に交代してもらい席を立った。
「よう、早かったな。大学の麻雀サークルだって?」
「ええ。アンナさんにぜひ会いたいって。勧誘スペースの撤収が済んだら来るそうです」
「ま、『スパロー』が賑やかになるのは歓迎だ。相手してやろうじゃないか」
高田が淹れてくれたコーヒーを飲みながらタバコを喫っていると、三人組がやってきた。彼らがヨシオの言っていた大学生たちだろう。
アンナが自己紹介をすると、三人は緊張した面持ちで、それぞれ自己紹介をした。部長の石塚が三年生で『雀々娘』という麻雀ゲームの七段、同じく三年の鈴木が六段、二年生の土屋が五段だそうだ。七段がどれほどのものかはわからないが、アンナは手を抜くつもりはなかった。
フリーではなく、セットで半荘三回ということにした。学割が利くので、フリーよりも場代が安くなる。
ルールは『雀々娘』に合わせ、三十符四翻と六十符三翻は満貫に切り上げない。『白ポッチ』が一枚入っているが、通常の白として扱う。六万点コールドもなし。レートはテンゴのゴットー、門前祝儀の百円にした。ノーレートでも構わなかったが、学生たちに少しでも緊張感を持って欲しかった。
対局が開始された。打つ前から感じていたことだったが、三人ともリア麻には慣れていない。牌捌きもそうだし、欲しい牌が出ると、顔や仕草に出てしまう。『コシ』というやつだ。仲間内のセットなので、見せ牌も含め、特に指摘はしなかった。
東一局、アンナは倍満をツモアガった。四〇〇〇・八〇〇〇と申告すると、土屋が一〇〇〇点棒を四本出してきた。
「東パツで子が倍ツモした場合、親は八〇〇〇点ちょうど、子は五〇〇〇点棒か一万点棒で払った方がいいな。そうすると、誰も一〇〇〇点棒がなくならない。一〇〇〇点棒がないと、リーチを打つ時誰かに替えてもらわないといけなくなるからな」
アンナが言うと、三人はなるほど、と頷いた。土屋は一〇〇〇点棒を引っ込め、五〇〇〇点棒を出してきた。
その土屋が、次局リーチを打ってきた。四巡後にツモ、倍満に一本届かずの跳満だが、土屋は指を折りながら数えていた。
東三局、土屋が切った三萬に、北家の鈴木からロンの声がかかった。
「北・赤で、二〇〇〇」
「鈴木、カン三萬に取れるからテンパネするよ。二六〇〇点だ」
指摘したのは、石塚だ。
三人の中では、石塚が一番打てる。だがやはり、リア麻の経験が足りない。牌効率に忠実で理牌もきれいだから、待ちも読みやすかった。
結局、対局はアンナの三連勝で終了した。セット料金は、アンナが全額出した。
「いやあ、勉強になりましたよ。強いですね、アンナさん」
額の汗を拭い、石塚が言った。
「お疲れ様。三人とも、思ったより打ててたよ。まあもっとリアルで打って、牌に慣れ親しんだ方がいいかな」
「そうですね、経験不足を痛感しました。ここにも、また来たいと思います。水嶋君、入部したくなったらいつでも来てね」
「あ、はい。今日はありがとうございました。お疲れ様です」
挨拶を交わし、三人が帰っていった。やたら石塚が自分の胸ばかり見ていたが、まあ仕方がない。ぜひまた『スパロー』に来て欲しいものだ。
「ヨシオ、アタシんち来いよ。ピザ買って帰ろうぜ」
「あ、はい」
低レートだが、三千円くらいは浮いている。高田に挨拶し、店を出た。
ピザを買い、帰りは中央公園を突っ切った。ヨシオは自転車を押し、アンナの後ろを歩いている。
自宅に着くと、アンナは部屋に入る前に、向かいの家に目をやった。八重桜が咲き始めている。ソメイヨシノは散ってしまったが、八重桜はこれからだ。
部屋のドアを開けた。部屋のゴミは、季節に関係なく満開だ。
今日もまたひとつ、ピザの箱が増えてしまう。
アンナはため息をつき、苦笑した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる