最愛の敵

エウダイモニア

66話 親のエゴ

「お前は幸せか？」
　公爵はその問いに答えることができない。だが答えなくてよかった。答えはすでに出ているから。
「親は子を愛するものだっと言った。だが我はそうとは思わん。自分自身を完全に理解できていないのに誰のことを理解出来る？所詮子は他人だ。愛すか愛さないかはそれぞれで決めればいい。産んだ責任と育てる責任は別、育てる責任と愛する責任もまた別ものだ。生半可な愛情ほど残酷なものはないぞ。愛すならトコトン愛せ、育てると決めたにならちゃんと育てろ。産んでやってる、育っててやってるなど驕るな。子供は産んで欲しい、育てて欲しいなど頼んでないぞ。エゴを押し付けるな。暴力など言語両断だ」
　皇帝に睨まれその場に崩れる様に座り込む公爵。
　静寂の中、
「これにて会議を終了する」っといい。会議は終了っとなった。

　中継が切られ貴族達が去っていくとそこにはパイロンと皇帝と公爵家の人間だけになった。
「公爵」
　皇帝に呼ばれ体がビックっとなる公爵。
「残念だよ。そなたにやり直す機会を与えられず」
　公爵は何のことだか分からず皇帝に顔見る。
「先ほど垂れ込みがあった。随分と好き勝手やっていたようだな」
　皇帝は紙を撒き散らす。ラズリはその内の一枚を取る。そこには不正な金の流れや人身売買などの記録が事細かに明記されていた。
「捕えよ」
「こ、皇帝陛下！これは何かの間違いです！私は！」
「言い訳は牢獄の中で聞いてやる」
「こ、皇帝ーー！！！」
　公爵は連れてがれる。
「さすが仕事が速い」
　パイロンは皇帝の後ろを見る。
　ライがヒョッコっと出てくる。
「いや、皇帝の助けがなかったら危なかったよ」
　今回の会議はあくまでも公爵家の罪を暴くための罠でしかなかった。公爵家にはライの手のもの『影』が何年も前から潜伏していた。しかし、公爵の書斎周りには常に兵が複数人おり、狡猾な公爵は中々尻尾を出さずにいた。そこで
「公爵が留守な間に無理に攻め込む。魔力阻害装置は中にいる奴らに電源を切って貰えばいいし、公爵がこっちにいるってことは兵も何人かはこっちにくるしね」
「こちら騎士が公爵邸を制圧しているだろう」
「そして、奴の汚点を探しトートも保護をするってのが今回の作戦」
「皆様」
　『影』が現れる。
「トートは？」
「無事です」
　全員に安堵が流れる。
「しかし、精神的ショックがあると判断しセリア様の所に運びました」
「行ってこい」
　皇帝の言葉にパイロン、ライが振り向く。
「ここからは我の仕事だ」
「分かった」
「あ、あのわたくしも一緒に行ってもいいでしょうか？」
「ラズリ。ﾎﾞｿ」
　レオが話しかける。
「大丈夫だろう」
　ラズリが婦人の方を向く。
「行きましょう」

『痛い』
『弱いな。 フィジカルは』
フィジカルというだけでいじめられていた。 仕返しする勇気がなく涙を堪えるために下を向いたまま唇をかむ。
『ほらどうしたよ』蹴りが飛んでくる。
パシッ
『よせ』
『うわぁああ』
いじめっ子が逃げていく。
　その先はいつも記憶があやふやだった。
『お前は強いな』と優しく頭を撫でてくれた。 今だにその言葉が理解できない。 そしてあの優しい手をした人は・・・

「トートは？」
「寝ているわ。軽い栄養失調があるけど命に別状はないわ」
「よかったですね」
「あとは本人が・・・トート君？」
「トート！トート！」
「フィール落ち着いて！病人だよ」
　フィールアイシャが宥める。
「・・・皆さん？」
　自分が話しているのか分からないがどうやら喋っていたようで皆さんが安堵の表情を浮かべる。
「・・・ああ“」
「トート君喋らなくていいわ。今はゆっくり休んで」
「そうです。今は回復に徹して下さい」
「トート、客だ」
　扉の方にいる人、
「ネフテ”ィス“さん？」
「はい。セトがすいませんでした」
　深く頭を下げる。
「あな”たが・・・」
「トート、俺が代わりに言います」
　レオさんの耳に何とか話せる声量で伝える。
「あなたが謝るのは違うっと言っております。あなたは何も知らなかったのですから」
　ネフティスの顔が曇る。
「知っておりました。あなたがあそこに閉じ込まれていることですが・・・申し訳ありません」
　再びレオがトートの言葉を伝える。
「もし自分を助けていたら、あなたが何をされるか分からなかった。お腹の子を守るためも最善の選択でした。あなたを責める気はありません」
　ネフティスが涙を流しその場にしゃがみ込む。
「ありがとう・・・ありがとうございます」