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秘密の夜
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ここのところずっと曇り空が続いていたが、明日はきっと雨になる。
テラスの柵からマチルダは天を仰いだ。
素敵なガーデンセットは、きっと月を鑑賞するには最高だ。
しかし、生憎と今は厚い雲に覆われてしまって、月の光が届かない。
だが、ランプのぼんやりしたオレンジの光が、また違った不思議な魔法の世界を作り出していた。
ロマンチックにそんなことを思いながら、マチルダは今しがたのダンスをうっとりと反芻した。
やはり、ロイは魅力的だ。
まるで自分が絵本の主人公になった気さえする。
ふと気配を感じて振り返ると、絵本の王子様が両手それぞれにカクテルグラスを持って近づいてきた。
「悪い、遅くなった。うるさい男に捕まってしまって」
「摘み出されなかったの? 」
関係ない者がパーティーに潜り込んで。
「まあな。説教は垂れられたが。まったく、口うるさい野郎で参った」
「無事で良かったわ」
このパーティーの関係者は、余程、器の大きい人物らしい。
ロイは真っ赤な液体が入った方を差し出した。
甘酸っぱい匂いがふわりと鼻に入ってくる。
イメルダに飲まされた、胸焼けするくらいに甘ったるい酒とは雲泥の差だ。
マチルダは香りを楽しむと、一息でそれを煽った。
喉を甘くてほんのり熱い液体が通っていく。
ふわっとした心地良さ。
「それで、このパーティーの目的と言うのはだな」
透き通る水色のカクテルを含みながら、思わせぶりにロイは後方へと視線を流す。マチルダによく見えるように、体の位置をずらした。
ロイの幅のある体で隠されていた、彼の背後が露わになる。
「まあ! 」
マチルダは言葉を失った。
危うく落としかけた空のグラスを、ロイは素早く掠め取り、テーブルに置いた。
「な、なんて破廉恥な! ここはテラスよ! 」
わなわなと肩を振るわせ真っ赤になるマチルダ。
菫色のドレスを纏ったあの令嬢が、等間隔に幾つも配置されたうちのテーブルの一つに乗り、ドレスの裾を捲っていたのだ。
靴まで脱いで、爪先が天を向く。
彼女は傍観者に気づいているのか、いないのか。唇を戦慄かせ、喘いだ。
「な、何を考えているの! 」
年配の男がスカートの中に尻まで潜り込んで、何やらモゾモゾしている。
彼女の恍惚な表情から、何をしているかは一目瞭然。
「やれやれ。屋敷にはちゃんと部屋が用意されているのにな。毎回、待ちきれない獣がいるんだ」
再びロイは体をずらして、マチルダの視界を閉ざした。
「あ、あれがパーティーの目的? 」
つい今しがたまでのロマンチックが消し飛んでしまった。
マチルダが王子様云々と夢の中を彷徨っている隣で、破廉恥な行為が平然と始まっていたなんて。
「さしずめ伯爵は恋のキューピッドだな」
「あんなの、セックスの斡旋じゃない」
「おい。酔っ払っているのか? 」
媚薬もなしに、初心な乙女の口から生々しい言葉が飛び出すとは。
ピンときたロイはすぐさまテーブルに置いた空のグラスの残り香を嗅ぐと、たちまち顔をしかめ、唸った。
「しまったな。こっちは強い酒だったか」
今までロイが相手にしていた女性といえば、手練ればかりでなかなかに酒豪だったため、アルコール度数のことなど失念してしまっていた。
マチルダは、体中を巡る血液が確実に摂氏一度上昇したことを身をもって感じていた。
テラスの柵からマチルダは天を仰いだ。
素敵なガーデンセットは、きっと月を鑑賞するには最高だ。
しかし、生憎と今は厚い雲に覆われてしまって、月の光が届かない。
だが、ランプのぼんやりしたオレンジの光が、また違った不思議な魔法の世界を作り出していた。
ロマンチックにそんなことを思いながら、マチルダは今しがたのダンスをうっとりと反芻した。
やはり、ロイは魅力的だ。
まるで自分が絵本の主人公になった気さえする。
ふと気配を感じて振り返ると、絵本の王子様が両手それぞれにカクテルグラスを持って近づいてきた。
「悪い、遅くなった。うるさい男に捕まってしまって」
「摘み出されなかったの? 」
関係ない者がパーティーに潜り込んで。
「まあな。説教は垂れられたが。まったく、口うるさい野郎で参った」
「無事で良かったわ」
このパーティーの関係者は、余程、器の大きい人物らしい。
ロイは真っ赤な液体が入った方を差し出した。
甘酸っぱい匂いがふわりと鼻に入ってくる。
イメルダに飲まされた、胸焼けするくらいに甘ったるい酒とは雲泥の差だ。
マチルダは香りを楽しむと、一息でそれを煽った。
喉を甘くてほんのり熱い液体が通っていく。
ふわっとした心地良さ。
「それで、このパーティーの目的と言うのはだな」
透き通る水色のカクテルを含みながら、思わせぶりにロイは後方へと視線を流す。マチルダによく見えるように、体の位置をずらした。
ロイの幅のある体で隠されていた、彼の背後が露わになる。
「まあ! 」
マチルダは言葉を失った。
危うく落としかけた空のグラスを、ロイは素早く掠め取り、テーブルに置いた。
「な、なんて破廉恥な! ここはテラスよ! 」
わなわなと肩を振るわせ真っ赤になるマチルダ。
菫色のドレスを纏ったあの令嬢が、等間隔に幾つも配置されたうちのテーブルの一つに乗り、ドレスの裾を捲っていたのだ。
靴まで脱いで、爪先が天を向く。
彼女は傍観者に気づいているのか、いないのか。唇を戦慄かせ、喘いだ。
「な、何を考えているの! 」
年配の男がスカートの中に尻まで潜り込んで、何やらモゾモゾしている。
彼女の恍惚な表情から、何をしているかは一目瞭然。
「やれやれ。屋敷にはちゃんと部屋が用意されているのにな。毎回、待ちきれない獣がいるんだ」
再びロイは体をずらして、マチルダの視界を閉ざした。
「あ、あれがパーティーの目的? 」
つい今しがたまでのロマンチックが消し飛んでしまった。
マチルダが王子様云々と夢の中を彷徨っている隣で、破廉恥な行為が平然と始まっていたなんて。
「さしずめ伯爵は恋のキューピッドだな」
「あんなの、セックスの斡旋じゃない」
「おい。酔っ払っているのか? 」
媚薬もなしに、初心な乙女の口から生々しい言葉が飛び出すとは。
ピンときたロイはすぐさまテーブルに置いた空のグラスの残り香を嗅ぐと、たちまち顔をしかめ、唸った。
「しまったな。こっちは強い酒だったか」
今までロイが相手にしていた女性といえば、手練ればかりでなかなかに酒豪だったため、アルコール度数のことなど失念してしまっていた。
マチルダは、体中を巡る血液が確実に摂氏一度上昇したことを身をもって感じていた。
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