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2-2 少年立志編:ロリ鬼教官の来襲
78 幼女の登場に驚くクラディス
しおりを挟む「それにしても下位ダンジョンかぁ~……もっと強くなったら行ってもいいかもなぁ。だけど、しばらくは一人でクエスト禁止って言われたし……ああああ……」
話を聞いた後、僕は1000ウォルも入っていない袋を天井に掲げて、訓練場でぼぉーっとしていた。
下位ダンジョンに行くためには、ある程度のレベル基準や階級が必要らしい。今の僕では何も満たしていない。
内緒で行くようなことをしたら……またあのさっきみたいに怒られるんだろうなぁ。
「パーティーを組めって言われても冒険者の知り合いって……あの狼人に頭を下げて入れてもら――いたくはないし。魔法の勉強で実際に使ってみたいんだけど、この目だし。かといって紫を出す訳にもいかないし。そうなると……ケトス……。ケトスに相談してみるか」
少しの秘密を共有したケトスなら、動きやすいし、色々試しても大丈夫そう。
血盟は【ティータ】って言ってたよな? スタッフさんに場所を聞いて出向いてみるか。善は急げ、とかなんとかっていうし。
よし行くぞ、と座っていた体を上げて、訓練場の扉を開けようとすると――
バァァンッ!!
重たい扉が勢いよく開かれた。
「えっ!? あ、え!?」
かなり重たい扉が端から端まで走り、ぶつかった鈍い音。初めて聞くような音が訓練場内に響く。
咄嗟に身構えたけど、物音を立てた張本人はズシズシと歩いてきて僕の目の前で止まった。
「お主がクラディスか?」
入ってきたのは、ワインレッドの髪色で腰まで届くような二つ結いの髪を垂らしている少女。
少女の服はカッターシャツの様なもの上に、ぶかぶかな長袖の黒い上着。下はゆったりしたモンパンツの様なズボンの上に、上着で結び口が隠れているスカーフが腰に巻かれている。
スカーフは酒場の配膳スタッフの人が身に着けている物……か? 小さく「冒険者組合」って書かれてる、っていうことはスタッフの人?
いきなり個性の塊のような子が出てきたことで、僕は硬直しながらも冷静に少女の姿を見ていった。
「む、反応が無いの。なんじゃ? 違うのか」
そんな僕を見た少女は眉間にしわを寄せ、クルっと方向転換して帰ろうとする。
呼び止めようとしたけど、その後ろから来た大きな人影によって止められた。
「はい、もう一回かいてーん」
「むぅ! 何をするナグモ!」
「ティナちゃんが帰ろうとしてたからですよ。あそこにいるのがクラディス様です」
「ぬ!? しかし何も言わなかったぞ!」
「扉を壊す勢いで開くからですよ」
後ろから出てきたのは、ギルドの衣装を身にしているナグモさん。いつの間にか帰ってきていたらしい。
少女の髪型はナグモさんのと似てる。
(あ、妹とか……? そんな感じかな?)
でも、似てないよな……。
◇◇◇
「訓練場にいるっていう予想は当たってたみたいですね。よかった、クラディス様に話があったんですよ」
「話……ですか?」
「――おお……ぴょんぴょんするぞこの髪……」
「今日はクラディス様にご紹介したい人がいまして」
「――白ではないのか? 不思議な色しとる。銀? いや、白か……? ん?」
「紹介したい人? って……」
ナグモさんと僕は、横にいる僕のくせっ毛で遊んでいる人に目を向けた。
すごく興味津々に僕の髪の毛をイジイジして、ほぉほぉと感嘆を漏らしている。
すると、僕とナグモさんの視線に気づいたのか手を止めて、む、と声を出した。
「はい、ティナちゃんこっち来てね」
「いやじゃ。子ども扱いをするでないぞ!」
「わがまま言わない」
「ワタシは、今、髪の毛で遊んでおるのだ!」
抵抗している様子の少女は、ナグモさんの無言の圧に押されて地団駄をしながらもナグモさんの横に行った。
(あ、割と素直)
ナグモさんの扱い方が明らかに子どもに対して、というか、ヤンチャな妹への対応みたいだな。
「――で、話を戻しますね」
「は、はい!?」
「今日から特別講師として、不定期に教えに来てくれるティナちゃんです、ティナちゃん自己紹介を」
「よろしくな!!」
「ティナちゃん、よろしくなじゃなくて、自己紹介自己紹介」
ふふん、と胸を張ったティナさんの横でナグモさんが学校の先生にみたいに指摘をする。
「はぁ? ええっと。なんじゃ、これからお主の先生になるティナだ! ティナ先生と呼んでくれてもいいぞ! あとは……」
「さっき練習したやつですよ」
「……なんじゃったっけ」
「自分の種族とかのお話、あとは適当に、お好きなように」
「そんなだったか? むむ……」
(自己紹介の練習したの……?)
丸聞こえなんですが。
何だこのグダグダ感。ティナ先生……大丈夫なのか? 完全にナグモさんのペースに持っていかれてるけど。
それに方言みたいなのがゴチャゴチャになってるぞ。
「まぁ、良いか。ティナと言ったが、フルネームはティナ・リー・コントラと言ってだな……あとは……小人で……ナグモとはだいぶ前に知り合いになった仲じゃ……な! 終わり!」
「はい、だいたいそんな感じです。分かってくれましたか?」
小人
鉱人とは違い、大人になっても体の成長がそのままな種族で、子ども時代のままに固定されるっていう種族だ。多少老けたりとかはもちろんするのだけど、“成長が止まった種族”と言われている。
喋ってなかったらすごく可愛らしい少女、だけど口を開けば……。
「ん、なんじゃ。無言でこっちを見つめて」
「いえ、あの……なんでも。よろしくお願いします。ティナ先生」
「うむ! じゃあ、親睦を深めるために模擬戦をするぞ!」
そういうと、僕の横をスキップをしながら通り過ぎて、武器を漁りに行った。横を通り過ぎたから余計に僕と同じ身長っていうのが分かる。
それに、体が動くたびにひらひらと揺れる二つ結いの髪を見ると……どうにも、僕より幼いように見える。
「……っていきなり模擬戦ですか」
「だってワタシはお主の実力を知らないからな! 一回やってみないとな」
理由はともかく、出会ってすぐ模擬戦とは中々ハード。さすがナグモさんの知り合いって感じがす――いや、ド失礼なこと考えた。
「ナグモさん的にはいいんですか、その、模擬戦って」
「やってみてもいいんじゃないですか? ティナちゃんの実力は私が保証してますし。……ただ、私より力の加減が下手なので、傷の一つや二つは負うかもしれませんね」
「う……」
「しっかりと防御して避けたらいいだけですよ。毎日私とやっていたじゃないですか。下手に受けたら防御ごと吹き飛ばされるかもしれないので、そこだけ気を付けたら大丈夫ですよ」
「何一つ大丈夫な要素なくないですか?」
「まぁ、そこは私との訓練をサボった罰ということで」
目を細めてなんともいえない悪そうな表情。
その言葉と表情で、僕はナグモさんに謝るってことをすっかり忘れていたのを思い出した。
ぞぞぞ、と背筋がひんやり冷たくなる。
「す、すみません、あの日は――」
「はーやーくーやるぞ!! ナグモは審判をやれ!」
謝ろうとするとティナ先生の声で遮られた。
ナグモさんは僕の肩に手を乗せて「良い寝顔でしたものね、気にしてませんよ」と言って、ティナ先生の所まで歩いて行った。
「やってくださいでしょ、ティナちゃん」
「はぁ!? やれ!」
「そんな口の悪い子の言うことは聞きません」
「や……ってくれ!」
「ハハハ、嫌です」
「殺すぞ!!」
そんな会話をしているナグモさんを見つめて、僕はどっと汗をかいた。
ナグモさんのあんな表情初めて見た。本当に、怒ってないんだよ……な? それに、寝顔って言ったか……? あの日、鍵閉めて無かった……っけ。
「おいっ! はやくこい! 実力を見せろ!!」
「は、はい!!」
ナグモさんに逆らったら、間違いなくやられる。
それにその人が連れてきたティナっていう新しい先生も、まだわからないけど、おっかないかもしれない。
まぁ、優しい……ってことはなさそう。
僕は武器を持って、二人の先生がいる場所まで行った。
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