呪いの一族と一般人

呪ぱんの作者

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第四章 過去が呪いになる話

第6話 行方不明

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「お邪魔するわ。総一郎そういちろう

 咲良子さくらこは室内に入り、美梅みうめの隣に座った。呆気に取られていた美梅は、状況を理解して眉を吊り上げる。

「ちょっと、咲良子! いきなり部屋に入って来るなんて、礼儀がなっていないわよ! それに、何で此処にいるのよ!?」

 怒る美梅に、咲良子は面倒臭そうな表情を浮かべる。

「いきなり怒鳴る美梅も礼儀がなっていない。私は、総一郎の婚約者候補。婚約者の家に遊びに来て何が悪いの? 総一郎。早く話の続きをして」

 咲良子の真っ直ぐな目に、総一郎がたじろぐ。

「何? 私に聞かせられない事なの? 続き、話せるわよね? 総一郎」

 咲良子は淡々とした口調と圧力を感じさせる微笑みで、総一郎を追い詰める。総一郎は気まずそうに目を伏せた後、渋々と口を開いた。

「……私が呪罰牢じゅばつろうを訪れた際、鬼降魔きごうま幸恵ゆきえに関する手掛かりは何も残されていませんでした。呪罰牢内にある記録用のカメラも全て破壊され、中で何が起きたのか分からない状態です」

 総一郎は険しい顔で言葉を続ける。

「鬼降魔幸恵は禁呪を使用する人間です。妹家族や離婚した元旦那を狙い、更に罪を重ねる可能性が高い。私は、じょうに対象の人物達の護衛と鬼降魔幸恵の行方を探すように命じました」
 
 総一郎に視線を向けられて、丈は頷く。丈も険しい表情を浮かべていた。
 
「鬼降魔幸恵の力と加護を元に、俺の加護に行方を探らせたが、全く手掛かりが掴めていない。鬼降魔幸恵の元旦那、子供、妹家族を加護に見張らせているが、今のところは変わった様子は無い」

 調査能力が高いと言われる丈の加護のねずみを派遣しても、何もわかっていない状態だと言う。

「幸恵って人。呪罰牢から逃げたり、丈の加護を妨害出来る程の術者なの?」
 面識の無い咲良子は訝しげな顔をした。

「いいえ。鬼降魔幸恵は禁呪を使える程度には力がありますが、自分より優れた術者四人を殺害し、力や加護の痕跡を完全に消す芸当が出来るとは思えません」

 総一郎の言葉に同調する様に、丈と美梅も頷く。

「外部に協力者がいて、幸恵を逃したとか?」
 咲良子の言葉に、日和ひよりと美梅は驚きで目を見開く。その可能性を考えていたのか、丈と総一郎は驚かなかった。

「外部の者が侵入したか、しなかったか。それすらも不明です。可能性はゼロでは無いでしょう」
「力や加護を追うのでは無く、『呪罰行き』の人間そのものを、丈さんの加護に探していただくのは無理なのでしょうか?」
 美梅の問いに、丈は苦い顔をする。

「可能だが、間に合わないかもしれない。捜索範囲を絞れているのなら良いが、街中にいる大勢の人間の中から個人を探し出すには、相当な時間が必要だ。無闇な捜索に時間を費やせば、その分、鬼降魔幸恵の逃亡時間を作り出してしまう」

「『呪罰行き』の人間を、結人間ゆいひとま家に引き渡す約束は五日後。どうするの? 総一郎」

「必ず見つけます」
「言葉だけなら誰でも言える。手掛かりも無い状況なんでしょう? 解決する為の考えがあるのかを聞いているの」
 
(咲良子さんが総一郎さんに容赦無さすぎて怖い。てか、話が全くわかんない。何で、結人間家に幸恵さんが引き渡されるの?)
 険悪な雰囲気と一人だけ話が理解出来ない状況に、日和は居心地の悪さを感じた。

「解決に繋がるのか、鬼降魔幸恵と関係があるのかは断言出来ませんが……。病室から碧真あおし君が姿を消したと、彼が入院している病院から報告がありました」

「え!?」
 総一郎の言葉に、日和は驚きの声を上げる。丈も初めて聞いたらしく、目を見開いていた。

へび憑きが、鬼降魔幸恵に連れ攫われたという事ですか?」
 美梅の言葉に、総一郎は目を伏せる。

「その可能性が高いと私は思っています」

「ど、どうして……」
 日和は狼狽うろたえる。悪い状況に、丈は顔をしかめた。

「碧真は、鬼降魔幸恵の『呪罰行き』に絡んでいる。恨みを向けられる可能性は高い。もしくは、碧真を人質にして本家に何かを要求する可能性もあるな」

 碧真が酷い目に遭わされる事を想像して、日和の顔から血の気が引く。だいぶ回復はしているようだが、碧真は怪我人だ。ろくな抵抗も出来ないだろう。

「丈。碧真君の行方を探る事は出来ますか?」
 総一郎の言葉に、丈は頷いて目を閉じる。

 丈の周囲に緑色の光が舞う。丈の影から、緑色の光を纏った二十匹の白いねずみが姿を現した。四つの隊列に分かれたねずみが一斉に外へ向かって駆け出し、あっという間に姿を消した。

「日和さん」
 声を掛けられ、日和は総一郎へ視線を向ける。

「私達も鬼降魔幸恵の『呪罰行き』に関わっている為、恨まれている可能性があります。中でも日和さんは、彼女の術を失敗させた大きな要因です。対抗する力も無い為、私達の中で一番狙われる可能性が高い」

「そんな……」
 確かに、幸恵の立場から考えれば、日和に対して一番恨みを抱くだろう。鬼降魔幸恵を圧倒していた碧真でさえ連れ攫われたのだから、日和では全く歯が立たない。

 顔を曇らせた日和を元気付けようと、美梅が口を開く。

「大丈夫よ。日和さん。私達が守るから! そうですよね? 総一郎様」
 美梅が笑顔で話を振るが、総一郎は肯定しなかった。

「総一郎。あなた、まさか……」
 咲良子が顔を顰め、地を這うような低い声を出す。咲良子の静かな怒気に日和が驚いていると、緑色の光が収まり、丈が目を開けた。全員が注目する中、丈は首を横に振った。

「駄目だ。碧真の力も加護も探る事が出来ない。碧真がいた病院も加護が近づこうとしない」
「近づこうとしない? どういう事ですか?」
 美梅の問いに、丈は再び首を横に振る。

「分からない。命令するが、病院の前で立ち止まって動かない。入りたくない様子だ。どうする? 総一郎」

 総一郎は思案した後、丈の目を真っ直ぐに見つめた。

「碧真君が何か手掛かりを残していないか、直接病院に調査に行こうと思います。丈」
 丈が頷いて立ち上がろうとする。日和も咲良子も美梅も、病院の調査に行くのは丈だろうと思っていた。しかし、総一郎は予想外の言葉を放つ。

「あなたは、ここで待機してください。その間、美梅さんの護衛を頼みます」
「……何?」
 丈は訝しげに顔を歪める。

「病院の調査は、日和さんに行ってもらいます」
「えっ!?」

「総一郎!」
 咲良子が咎めるような声を上げて立ち上がった。咲良子の鋭い視線に、総一郎は冷たい視線を返す。

「咲良子さんも、丈と美梅さんと共に屋敷で待機してください。これは当主命令です」
 当主命令には逆らえないのか、咲良子は綺麗な顔を悔しげに歪めて口を噤んだ。

「ま、待ってください! 私一人で調査するんですか!?」
 日和は動揺した。調査の仕方もわからないのに、人命がかかっている責任重大な役目をこなせる自信は無い。

「一人ではありません。私も同行します」
「へ?」

 総一郎は立ち上がり、日和の前に立つ。

「さあ、行きましょう。日和さん」

 日和は何も言えないまま、張り詰めた表情を浮かべる鬼降魔家の当主を見上げた。

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