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人との関わり
19 フレトールの怒り 3
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「ふん、ゴミに舐められたものだな?騎士団長?」
「申し開きもいたしません。」
「当たり前だ…!お前は折角の宝をみすみすゴミ共にくれてやる所であったのだからな?」
「はっ」
「フレル、分かっているだろうな?目撃者は元よりいなかったぞ?」
「心得ております。」
あの場にいたのは太古の森へと共に出向いた近衞騎士団の騎士のみ。他の者は居なかった。
フレトールはもう一度深く頭を下げると王太子タルコットの前から辞した。その足でフレトールは地下牢へと向かう。王太子タルコットから言われなくてもフレトールはあの三人を許すことなどできなかっただろう………
「………いない…………」
懐かしい夢を見ていたように思う。太古の森の奥の奥…エルフ達の集落の皆んながいた頃の夢。さっきまで皆んながいたと思ったのに、やはり現実は甘くは無いようだ。ここはどう考えても森深い木造りの家の中では無い。洗いざらしの木綿の寝具ではなくて、どめもこれも必要以上に手触りがいい上級品ばかりが揃った人間の城にある寝台だ。
「戻って……?」
一瞬自分が森にいるのか、城にいるのか、はたまた冷たい倉庫の中にいるのかまだボゥッとしているキールの頭の中では記憶があやふやだった。
「お目覚めですか?」
キールの反応に逸早く気が付いたのは考古学者のカーンだ。見慣れ始めた黒髪、黒眼、眼鏡をかけた顔が見える。
「………」
「お身体で痛むところはありませんか?医師によれば大きな問題はないそうなのですが、何分背中を酷く打ち付けていたようでして……しばらくは痛むそうですよ?」
怪我をしているキールよりもなぜかカーンの方が泣きそうな顔をしていた。
「痛くは、無い……」
そう、痛くは無い。うつ伏せて眠っていたキールの背には何か塗ってあるらしい。動くと痛みそうだが、今はポカポカと熱を持っている感じだ。
「それは良かった…!あ、陛下と殿下にお目覚めを知らせてきますね!」
安堵の表情をしたカーンはすぐに部屋の外にいる者に何かを言付けに行ったようだ。
森へは…帰れなかった………
帰れなかったけど、何故だろう。先程までまるで自分のテリトリーに居るのと同じくらいの安心感があった。キールの祖母が亡くなってから仲間もおらず、ついぞそんな感覚になる事も無かったのに……
あれは、誰だ……?
仲間を見つけたと思って夢の中で必死に手を伸ばしたような気がする。もうエルフは居ないと分かっていても、それでもあの時は伸ばさずにはおられなかった。
見知った気配に嗅いだことのある香り…確かにあれはエルフのものだった……
考え事をしながらもウトウトと眠ってしまったキールが目を覚ましたのは、部屋の中に見知った気配があったから。目覚めてからは初めて目にするフレトールだ。キールが目を開けたことに気がつかないフレトールは何やらカーンの様に紙を見つめては厳しい表情をしている。目の下には隈まであって最初の印象とかけ離れたくらいに疲れている様にも見えた。
うっすらとだが、キールは覚えている。あの倉庫に来たフレトールの事を。
「…殺さなかったんだな…人間……」
あの倉庫でキールはあのならず者どもを殺すなとフレトールに叫んだのだ。
「………キール殿!」
まだ小さいキールの声にフレトールはバッと反応してすぐ様寝台の方へと向かってくる。
「痛みは?辛いところはありませんか?申し訳ありません。私がついていながら……」
ここの人間は同じ質問しかできないのだろうか?
ここに来る人間は決まってキールの心配ばかりしている。倉庫のならず者の様にいとも容易くエルフに攻撃出来る筈なのに、何故泣きそうな顔でキールに謝ってくるのか……?
「存在消去だと…そんなのかけられてたらエルフの俺だってこの様……」
フレトールを庇うつもりもなかったキールだが、フレトールの表情が余りにもやつれて見えたし、顔色も悪かったからきっと夜も寝ずにいたのだろうと思えば、人間であろうと少なからず哀れに思えた。
「なんと、謝罪をしたら良いのか……」
「要らない。そんなの欲しくは無い。それに、人間に襲われたけど、人間に助けられたのも事実だし…」
懐かしい夢も見れた……これは絶対に教えてやらないけど…
「こんな面倒くさいのをいつまでもここに置いておいたって手がかかるだけだろ?知りたい情報は万能薬だっけ?もしエルフの身体が万能薬だったら自分のこんな怪我すぐに治すよ?」
「そうでしょうね……」
キールには自分の意思で城を出ていける行動力、判断力に体力まで備わっている。知識だって長く生きている分豊富なキールだ。エルフの噂が一つでも本当ならば自分を治して昨日のうちにもう一度ここから出て行く事だって可能だったはずだ。
「病気には確かに強いけど、怪我をしたり動物に襲われたらエルフだって死ぬんだよ…現に今………」
仲間は、もう居ないのに……
「申し開きもいたしません。」
「当たり前だ…!お前は折角の宝をみすみすゴミ共にくれてやる所であったのだからな?」
「はっ」
「フレル、分かっているだろうな?目撃者は元よりいなかったぞ?」
「心得ております。」
あの場にいたのは太古の森へと共に出向いた近衞騎士団の騎士のみ。他の者は居なかった。
フレトールはもう一度深く頭を下げると王太子タルコットの前から辞した。その足でフレトールは地下牢へと向かう。王太子タルコットから言われなくてもフレトールはあの三人を許すことなどできなかっただろう………
「………いない…………」
懐かしい夢を見ていたように思う。太古の森の奥の奥…エルフ達の集落の皆んながいた頃の夢。さっきまで皆んながいたと思ったのに、やはり現実は甘くは無いようだ。ここはどう考えても森深い木造りの家の中では無い。洗いざらしの木綿の寝具ではなくて、どめもこれも必要以上に手触りがいい上級品ばかりが揃った人間の城にある寝台だ。
「戻って……?」
一瞬自分が森にいるのか、城にいるのか、はたまた冷たい倉庫の中にいるのかまだボゥッとしているキールの頭の中では記憶があやふやだった。
「お目覚めですか?」
キールの反応に逸早く気が付いたのは考古学者のカーンだ。見慣れ始めた黒髪、黒眼、眼鏡をかけた顔が見える。
「………」
「お身体で痛むところはありませんか?医師によれば大きな問題はないそうなのですが、何分背中を酷く打ち付けていたようでして……しばらくは痛むそうですよ?」
怪我をしているキールよりもなぜかカーンの方が泣きそうな顔をしていた。
「痛くは、無い……」
そう、痛くは無い。うつ伏せて眠っていたキールの背には何か塗ってあるらしい。動くと痛みそうだが、今はポカポカと熱を持っている感じだ。
「それは良かった…!あ、陛下と殿下にお目覚めを知らせてきますね!」
安堵の表情をしたカーンはすぐに部屋の外にいる者に何かを言付けに行ったようだ。
森へは…帰れなかった………
帰れなかったけど、何故だろう。先程までまるで自分のテリトリーに居るのと同じくらいの安心感があった。キールの祖母が亡くなってから仲間もおらず、ついぞそんな感覚になる事も無かったのに……
あれは、誰だ……?
仲間を見つけたと思って夢の中で必死に手を伸ばしたような気がする。もうエルフは居ないと分かっていても、それでもあの時は伸ばさずにはおられなかった。
見知った気配に嗅いだことのある香り…確かにあれはエルフのものだった……
考え事をしながらもウトウトと眠ってしまったキールが目を覚ましたのは、部屋の中に見知った気配があったから。目覚めてからは初めて目にするフレトールだ。キールが目を開けたことに気がつかないフレトールは何やらカーンの様に紙を見つめては厳しい表情をしている。目の下には隈まであって最初の印象とかけ離れたくらいに疲れている様にも見えた。
うっすらとだが、キールは覚えている。あの倉庫に来たフレトールの事を。
「…殺さなかったんだな…人間……」
あの倉庫でキールはあのならず者どもを殺すなとフレトールに叫んだのだ。
「………キール殿!」
まだ小さいキールの声にフレトールはバッと反応してすぐ様寝台の方へと向かってくる。
「痛みは?辛いところはありませんか?申し訳ありません。私がついていながら……」
ここの人間は同じ質問しかできないのだろうか?
ここに来る人間は決まってキールの心配ばかりしている。倉庫のならず者の様にいとも容易くエルフに攻撃出来る筈なのに、何故泣きそうな顔でキールに謝ってくるのか……?
「存在消去だと…そんなのかけられてたらエルフの俺だってこの様……」
フレトールを庇うつもりもなかったキールだが、フレトールの表情が余りにもやつれて見えたし、顔色も悪かったからきっと夜も寝ずにいたのだろうと思えば、人間であろうと少なからず哀れに思えた。
「なんと、謝罪をしたら良いのか……」
「要らない。そんなの欲しくは無い。それに、人間に襲われたけど、人間に助けられたのも事実だし…」
懐かしい夢も見れた……これは絶対に教えてやらないけど…
「こんな面倒くさいのをいつまでもここに置いておいたって手がかかるだけだろ?知りたい情報は万能薬だっけ?もしエルフの身体が万能薬だったら自分のこんな怪我すぐに治すよ?」
「そうでしょうね……」
キールには自分の意思で城を出ていける行動力、判断力に体力まで備わっている。知識だって長く生きている分豊富なキールだ。エルフの噂が一つでも本当ならば自分を治して昨日のうちにもう一度ここから出て行く事だって可能だったはずだ。
「病気には確かに強いけど、怪我をしたり動物に襲われたらエルフだって死ぬんだよ…現に今………」
仲間は、もう居ないのに……
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