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人との関わり
18 フレトールの怒り 2
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浅はかだった……自分の判断が浅慮だったと思わざるを得ない。
騎士団長フレトールは深く憤慨し後悔の杭を心にギリギリと打ち込んでいた。
王城の見張り台からは城の全てが見渡せる。キールを匿っている離宮方面には常以上の警戒を配り、城内、城外を問わずに見張りの騎士も増やしていたと言うのに…
いずれ、キールが城を離れるかもしれない日が来ると分かってもいただろうに、キールをあんな下賤の者達にの手に落としてしまう様な事態になるとは、無事にキールが帰城した今も尚フレトールは腹が立って仕方がない。
意識のないキールを連れ帰った時、考古学者カーンは顔面蒼白でしばらく言葉を失っていた。医師の診察でも致命傷ではないと分かってからもカーンのフレトールを攻める様な視線はそれだけでフレトールを射殺ろしてしまいそうなほどであった。
「レビンジャー騎士団長……何があったのか、後でしっかりと説明して下さいね?」
温厚な学者であるカーンが屈強の騎士にも負けじとの迫力でズイッと詰め寄っている様は異様だったろう。周りにいる騎士達も何も言えず、黙々と作業に打ち込んでいる。
「…………」
「貴方が…付いていながら!!」
カーンの言いたい事はフレトールも十二分に理解していた。
ここが、キールの部屋ではなくて、キールが目の前で眠っていなかったならカーンはフレトールに一発拳を本気でお見舞いしていた位の気迫だった。フレトールはこれを後でもらうことになったのだが、今カーンがフレトールに手が出せないのは、ベッドに横になっているキールがしっかりとフレトールの隊服を掴んで今なお離さないからだ。
「隊長、殿下からお呼びが……」
今回のキールの件で説明を求めているのだろう。それはよく分かっているのだが、何分キールが離さない。
「分かった、すぐに行くと殿下にお伝えしてくれ。」
部下にそうは言ってみても実際にはフレトールは身動き一つ取れないでいる。
「キール殿……私は少し席を外さなければなりません。」
フレトールはそっとキールの手を握る。キールはしっかりとシワが伸ばされ、整えられているフレトールの隊服にシワができるほど、強く握りしめていたらしい。
「……かないで……」
手が離れた事が分かったのだろうか、キールは微かな声でフレトールを呼び止める。
「すぐ、戻って参ります。」
キールの声を聞いたフレトールの表情や声がフッと柔らかくなる。そっと、微かに触れるくらいにそっとフレトールはキールの頭を一撫でしてキールの部屋を後にした。
城に捕らえられたならず者は三名だ。城の地下牢に入れられている。彼らはきっと一生生きては城から出られないだろう。国家的な秘密を知ってしまった者達であり、キールを傷つけた者達だ。国王が許してもフレトールは許すつもりは微塵もなかった。
「この度の事で父上が気を揉んでいてな。歴史的価値のあるエルフを傷物にしたのではないかと五月蝿いのだ。」
相変わらず面倒臭そうにフレトールの前に座る王太子タルコット。
「はっ」
「私はお前にあの小猿の世話を頼んだはずだが?」
「その通りです、殿下。」
「お前がこんな不手際を働くとは珍しいなフレル。」
平身低頭し続けるフレトールに王太子タルコットは呆れるばかり。
「何があって小猿が巻き込まれたのだ?」
あの晩、キールが城から抜け出す前にフレトールの元へと見張りからの伝令が飛んできていた。直ぐに城壁付近にいる騎士達、市中にいる騎士達にキールの後を追わせ、フレトール自身もキールの後を追ったのだ。地の利に不慣れなキールの事、迷うことも考えていたのだが、思いがけずに人気のいない方へとスイスイと進んでいく。勿論追跡していた騎士達は存在消去の魔法を使ってだ。ある程度の距離に接近しなければこちらの気配すらもキールは読めはしなかっただろう。それなのに、キールは迷いなくいかがわしげな路地へ路地へと、まるで人間を避けるように進んでいった。地元のスラムでの者達でさえも足を踏み込むのを躊躇うような路地へとキールは迷いもなく入って行く。まるで、ここに昔から住んでいた者のように自然に路地に吸い込まれていくものだから、追っている騎士の方が一瞬躊躇したくらいだった。そして、その路地に入った途端にキールの気配が全く消えた……
慌てふためいた騎士達は急いで周辺の建物を虱潰しに探し出すも痕跡さえも見当たらず、騎士団長フレトールが合流した後もしばらく居場所を特定することさえ叶わなかった。
そこへある騎士より、古倉庫が先程暴風によって半壊状態の損傷を受けたと報告が上がった。勿論、本日の風は静かで建物を半壊にするほどの暴風ではない。風を扱うキールだと確信したフレトールは騎士団と共に倉庫に突入したのだった。
騎士団長フレトールは深く憤慨し後悔の杭を心にギリギリと打ち込んでいた。
王城の見張り台からは城の全てが見渡せる。キールを匿っている離宮方面には常以上の警戒を配り、城内、城外を問わずに見張りの騎士も増やしていたと言うのに…
いずれ、キールが城を離れるかもしれない日が来ると分かってもいただろうに、キールをあんな下賤の者達にの手に落としてしまう様な事態になるとは、無事にキールが帰城した今も尚フレトールは腹が立って仕方がない。
意識のないキールを連れ帰った時、考古学者カーンは顔面蒼白でしばらく言葉を失っていた。医師の診察でも致命傷ではないと分かってからもカーンのフレトールを攻める様な視線はそれだけでフレトールを射殺ろしてしまいそうなほどであった。
「レビンジャー騎士団長……何があったのか、後でしっかりと説明して下さいね?」
温厚な学者であるカーンが屈強の騎士にも負けじとの迫力でズイッと詰め寄っている様は異様だったろう。周りにいる騎士達も何も言えず、黙々と作業に打ち込んでいる。
「…………」
「貴方が…付いていながら!!」
カーンの言いたい事はフレトールも十二分に理解していた。
ここが、キールの部屋ではなくて、キールが目の前で眠っていなかったならカーンはフレトールに一発拳を本気でお見舞いしていた位の気迫だった。フレトールはこれを後でもらうことになったのだが、今カーンがフレトールに手が出せないのは、ベッドに横になっているキールがしっかりとフレトールの隊服を掴んで今なお離さないからだ。
「隊長、殿下からお呼びが……」
今回のキールの件で説明を求めているのだろう。それはよく分かっているのだが、何分キールが離さない。
「分かった、すぐに行くと殿下にお伝えしてくれ。」
部下にそうは言ってみても実際にはフレトールは身動き一つ取れないでいる。
「キール殿……私は少し席を外さなければなりません。」
フレトールはそっとキールの手を握る。キールはしっかりとシワが伸ばされ、整えられているフレトールの隊服にシワができるほど、強く握りしめていたらしい。
「……かないで……」
手が離れた事が分かったのだろうか、キールは微かな声でフレトールを呼び止める。
「すぐ、戻って参ります。」
キールの声を聞いたフレトールの表情や声がフッと柔らかくなる。そっと、微かに触れるくらいにそっとフレトールはキールの頭を一撫でしてキールの部屋を後にした。
城に捕らえられたならず者は三名だ。城の地下牢に入れられている。彼らはきっと一生生きては城から出られないだろう。国家的な秘密を知ってしまった者達であり、キールを傷つけた者達だ。国王が許してもフレトールは許すつもりは微塵もなかった。
「この度の事で父上が気を揉んでいてな。歴史的価値のあるエルフを傷物にしたのではないかと五月蝿いのだ。」
相変わらず面倒臭そうにフレトールの前に座る王太子タルコット。
「はっ」
「私はお前にあの小猿の世話を頼んだはずだが?」
「その通りです、殿下。」
「お前がこんな不手際を働くとは珍しいなフレル。」
平身低頭し続けるフレトールに王太子タルコットは呆れるばかり。
「何があって小猿が巻き込まれたのだ?」
あの晩、キールが城から抜け出す前にフレトールの元へと見張りからの伝令が飛んできていた。直ぐに城壁付近にいる騎士達、市中にいる騎士達にキールの後を追わせ、フレトール自身もキールの後を追ったのだ。地の利に不慣れなキールの事、迷うことも考えていたのだが、思いがけずに人気のいない方へとスイスイと進んでいく。勿論追跡していた騎士達は存在消去の魔法を使ってだ。ある程度の距離に接近しなければこちらの気配すらもキールは読めはしなかっただろう。それなのに、キールは迷いなくいかがわしげな路地へ路地へと、まるで人間を避けるように進んでいった。地元のスラムでの者達でさえも足を踏み込むのを躊躇うような路地へとキールは迷いもなく入って行く。まるで、ここに昔から住んでいた者のように自然に路地に吸い込まれていくものだから、追っている騎士の方が一瞬躊躇したくらいだった。そして、その路地に入った途端にキールの気配が全く消えた……
慌てふためいた騎士達は急いで周辺の建物を虱潰しに探し出すも痕跡さえも見当たらず、騎士団長フレトールが合流した後もしばらく居場所を特定することさえ叶わなかった。
そこへある騎士より、古倉庫が先程暴風によって半壊状態の損傷を受けたと報告が上がった。勿論、本日の風は静かで建物を半壊にするほどの暴風ではない。風を扱うキールだと確信したフレトールは騎士団と共に倉庫に突入したのだった。
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