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人との関わり

14 闇夜を抜けて 1

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 考古学カーンが持っていた物は歴史的価値のある古文書なんかでは無い。ただここにいたエルフが書いた生活の知恵か何かだ。  

「こんな所に一体何を求めて…?情けないったら……!」

 カーンが持っていた古文書の中には、森の番人、森の住人、森の王と言われるエルフの矜持などどこにも無かった…情けなくも必死に人間の世界にしがみつこうとしている同胞の姿しか浮かんでこなくて、騎士団長フレトールがかけた魔封じを思い出さなければ風を使ってあの本達をズタズタに引き裂いてやりたかった…!それ位、人間に媚を売るエルフの姿はキールにとってどうしても醜悪に映ってしまう。

 キールは部屋着にはいつも動きやすい木綿の素材を選ぶ。高価な衣類も用意されているが絹の感触はキールにとっては落ち着かない。その服の上から薄いフードの付いたマントを深く被った。

 
 この時間なら見張りは交代のはず……


 日中ずっと張り付いているフレトールも夜間の騎士と交代する。気配を読むことに長けているキールは大体どの位置に見張りが居るのかも分かるのだ。

 姿見に移るキールの姿。スッポリと被ったフードでエルフの特徴である耳は見えない。

「………」

 フードの隙間からは人間とは違う緑銀色の髪が覗き不機嫌そうな同色の瞳は鏡の中のただ一点を見つめていた。

「……こんな物…付けて………」

 最初は気が付かなかった百合を形取った様な紋がキールの額に刻まれていた。これは元々キールの身にあった物ではない。少なくとも人間の所に来てから気がついた物だった。なんの意味があるのかさっぱりキールには分からないが、この形自体が既にキールには気に入らない。

 キールはグッとフードを引き下ろす…自分達を示す模様を人間が知る由もないだろうに、それでも嫌な物は嫌なのだ。

「早く、出ようこんな所…」


 そう、森に帰るんだ。いくらここから太古の森が遠かろうとエルフの自分には関係のない事だ。どれだけ時間が掛かろうとも長寿の自分には問題ではない。


 そっと部屋の窓を開ける。キールに充てがわれた部屋は3階にあるが、高さ自体キールには問題ない事だった。城の壁を伝う蔦があれば、成長を速め強度を増してそれを伝って降りれば良いし、蔦がないのならば飛び降りれば良い事なのだから。


 見張りがあるかもな……?


 ここは人間の城…国の要となるところなのだろう。騎士団長フレトールの魔法の力を見ても人間の魔力も馬鹿にはできない物だ。迅速に行動したいところではあるが大々的に風魔法を使えば察知されるかもしれない。キールは仕方なしに蔦を使うことにして、どっぷりと暮れた闇夜の城下に繰り出したのである。

 キールにとっては城の城壁も同じだった。見張りの目さえ掻い潜ればどこへでも入れるし出てもいける。

「……うるさいな…」

 城の外に出てもしばらくは人間の気配は多く雑多な物は消えて行かない。仕方なしに人気のない所人気のない所を選んでキールは闇夜に紛れて進んでいく。この大きな町だか都だかを越えなければ自然の多い森なんかには行けないのだからつくづく面倒だ。
 食べ物と酒と、なんやかの異臭漂う暗い路地に入ればほとんど人の気配が無くなって、ふっとキールは息をついた。祖母が亡くなってからずっと一人だったのだ。話す相手も無く、尋ねていく所もない。気がつけばもう何年も話していなかったような気さえする。


 やっと、元の暮らしに戻れるんだ。人間の所で良かったのって食べ物くらい…


 短い滞在の思い出を振り返れば圧倒的に嫌なことの方が多い。こんな所に留まろうとする仲間や祖母が信じられない…暗がりが続く道は舗装状態も悪く、折れ曲がり入り組んだ道は整備もされていない。城の庭園とは雲泥の差で、キールは思わず眉を寄せる。

「これだけ人が増えると統一する事が難しいのか?それとも話し合うべき者達の怠慢……」

 環境が悪ければきっと城の中にいる人々よりも食事も悪いに違いない。そうなればもう一つも良いと思う所がなくなってしまう人間の領域…何となく人の呻き声さえ聞こえて来そうな雰囲気さえある。

「けど、俺には関係ない…」


 森へ帰るんだから…


「何が関係ないって?」

 パシっと掴まれた腕と同時に声がかかった。

「!?」

 ビクッとキールの身体が跳ねた。

「おうおう!驚かしちまったか?こんな夜中によぅ?一人でこんな路地にきちゃいけねぇぜ?お嬢ちゃん?」

 キールの腕を掴んでいたのは大柄の柄の悪そうな男だ。掴まれた腕を引こうにもびくともしなかった。



















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