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ラント外伝 求めているもの

6 不思議な森で

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 歩けども歩けども道は途切れず、随分と奥まで進んできた。途中獣にも遭遇せずその物音さえも聞こえなかった。かなり深い森であるのに、相当な管理態勢を敷いているのかここの領主の素晴らしい手腕が窺える。そろそろ管理小屋なりが現れても良さそうなものなのだが、このままでは獣に襲われるよりも疲労で動けなくなりそうだ。

 それでも暫く進むと森を抜けたのか……?鬱蒼としている森に似つかわしくない程に小道は整い歩き易かった。だからか体力もそれ程奪われはしなかった様だ。森を抜けると、少し広々とした所に出た。しかし、それでもまだ目の前に広がっているのは森……鬱蒼とした木々はないが大きな広場くらいはありそうな草原が広がっている奥にはさらに森がある。森の切れ目、ここは丁度そんな場所だった。

 水音がする。下草に隠れて泉があった。

「助かった……」

 歩き疲れて喉は潤したが、体の渇きが満たされた分顕著に浮き上がって来てしまった心の渇きまでは、この水では癒してはくれなさそうだ。

"何に乾くの?"

「…!?」

 声がしたか?ここに来るまで一人として人と会わなかった。この広場にもその奥にも人がいる様な気配はないのだが?

「…乾くと…聞いたのか……?」

"そう。何に乾く?"

 確かに!人の言葉だ!!バッと立ち上がって周りを見回す…やはり、いない………!しかし、確かに聞いた!

「誰だ!!どこにいる?」

"お前の求める者が見えない…誰を求める?"
『声』が答えた!

「どこにいるのだ!姿を見せてくれ!」

"私は、ラッキービーナ。お前が求めるものの姿になろう。誰を求める?"

 ラッキービーナ………??なんだ、それは?
人の名前か?居るのならば出て来て欲しい。必死で歩いて来たのだから体はくたくたで休む場所も欲しかった。
 
 それに、求める?……誰を…求める?会いたい者のことか?それならばもう居ないだろう……自分はこんなにも深い森の中へ捨て去られたのだから。最初から居なかったのだ、会いたい者も、大切な者も、愛することすら知らない自分には……だがまたもや、心が渇望する…

 愛してみたかった……と……

 メルルーシェと共に居るだけでかつての腹心は見た事もない様な幸せそうな顔をしていたのだ。メルルーシェもそうだった。愛を知っていれば自分もああなれていたのだろうか?

「……そうだ。愛したいんだ……
  心から、愛せる人が欲しい……
  心から、人を愛し続けていきたい……」

「それが、お前の望み?」

 ハッキリと聞こえた。先程までの朧げな声では無くて目の前からハッキリと……
 目を上げると、濃い紫の瞳の少女がそこに立っていた。
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