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ラント外伝 求めているもの

5 どこに行けというのか

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 目が覚めたとき、周りには誰もいなかった。先程までいた腹ただしい家族の姿も、乗って来た馬さえも見当たらない。ただ鬱蒼とする森の中に居るだけだった。

「ここは……?」

 最後にいたのが田舎の湖畔…そこで見た光景に、ただただ嫌気がさし、今まで押し殺していた渇望のみが心に渦巻いていて不快だ。
周りに人の気配もないし人家も無さそうだ。あの場で倒れた後に誰かにここまで連れて来られたのだろうか?供を付けずに出て来たから私が誰かわからなかったかも知れないが、それでも倒れた人間をどこかへ捨て去るなどするものか?

「あぁ、そうか……そこまで憎まれていたのか?」

 本日身につけているものには家紋が入っている物がいくつもある。私が誰であるか知って、ここに打ち捨てていった可能性の方が高そうだという事に思い当たり、渦巻く渇望の中に絶望も加わった。

「フフ、フフフ……」

 ここまで来ればもう笑うしかない。フラフラと森の小道を奥へと歩きながら乾いた笑いがこみ上げて来る。こんな所に打ち捨てられれば後は獣にでも襲われておしまいだ。そこまで酷い仕打ちだったのか?メルルーシェよ………お前を愛せなかった事はここまで罪に問われるほどの悪事だとでもいうのか?誰か教えてくれ!一体、私はどれ程の悪人だと言うのか!!

 どれだけ嘆こうにも、ここには慰める者も、責める者も誰もいない……足の赴くままに続く道を行くしかない…道が造ってあるのだがら、誰かがここを利用していると言う事だ。途中で行き倒れたとしても、誰かの目には留まるだろう…最早何も考えずに、造られている道をそのままに辿る。

 それは、言われるままに生きて来た自分の人生の様でもあった。与えられれば受け、言われれば行って来た。逆らう事もなくまたその必要もなく、自分のするべきことだけを見て歩いて来たのに…なのに、人生の最後になるかも知れない今、後悔しか思い浮かばないなんて自分の人生とはとんでも無くつまらなくて味気ない無味無臭な物にしか見えない。

 言われて生きて来た自分の最後はまた、誰かが造った道をただ進むのか…………ただ内に渦巻く渇望と絶望に身を焼かれながら進む男はどこに行き着けばいいのだろう………?
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