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ラント外伝 求めているもの

4 分からないものはどうしようもない

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 両親始め一族の者は私を責めた。なぜ妻を大切にしなかったのか?なぜもっと早くに気がつかなかったのか?周りの使用人には気が付いていた者も多くいたそうではないか、と。メルルーシェは子供まで宿していたそうだ。勿論、私との間の子供ではない…

 どうしてこの様な裏切りができる?本当の愛を知らない欠陥品と私を罵ったお前達は、主人を裏切り、誓った最初の愛さえ貫けなかったではないか!お前達の愛は?忠誠心は?この裏切りがそれこそ本当の、真の愛とでも言うのか!!

 一方的に責められるだけの私のこの疑問に答える者はもうここには居ない。人を使って探しに探す事もできたが、妻を取られた領主が嫉妬に狂ったと恥を晒し続けるだけだから止せ、と周囲に止められてしまった。

 愛とはなんだ?愛するとはなんだ!?妻に必要な物は、欲しいという物は与えていたではないか?子供が欲しいと言えば気乗りしなくても閨を共にもした、私の努力はなんなのだ?愛が分からなくても夫の務めは果たして来た。それなのに責められるべきは私なのか!?愛が分からなかったただ私だけが悪いのか?

 それからは無くなった資産の補填のために領地を駆けずり回る日々が続き、やっと落ち着いた時にふらっと出かけた田舎町。ここには自分を責める者も、軽蔑の眼差しで見つめる者もいない。しばしの休息と安寧を求めても悪くはないだろう……

 静かな湖畔を歩いてゆけば、煩わしい全てが落ち着き鎮まって行く。

 どこかで赤子の声がする?あぁ、近隣の家族でも来ているのだろう。それは気にも留めない一場面だが、その時はふと目を上げた。

 そこには見た事がある女が居る。その両手には大事そうに抱きしめられたまだ小さな赤ん坊。そしてその隣には、その女を気遣い優しく背中に手を回し、ゆっくりと歩調を合わせて歩く男。二人の顔は微笑みあって、時折赤ん坊の顔を覗き込みながらまた目を合わせ微笑みを交わす。それはかつての妻と、唯一の腹心の今の姿………一気に頭に血が上り、そして頭を殴られた様な衝撃を受けた。
 
 その二人の姿こそ、自分が描いていた夫婦像では無かったか?両親と同じ様に仲睦まじく過ごすのだと思っていた…家族像………なぜ、正式な夫である自分が得られず、他の者がそこに居るのだ!怒りで目の前が真赤に染まったかと思われた、そこで私の記憶は終わっている……
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