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ラント外伝 求めているもの

7 森のラッキービーナ

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 ラッキービーナと名乗った少女はほぼ目の前と言ってもおかしくない所に立っていた。

「あり得ない……」
 
 先程までは確かにのだから。

 真っ白なロングドレスに、腰を超える程長い薄紫の髪。透き通る様な肌は人間とは思えない………深い紫の瞳は揺らぐことなく真っ直ぐにこちらを見ている。

「あな……たは…?」

 畏怖の様なものを感じざるを得ない少女にもう一度問う。

「私はラッキービーナ。お前の心を解いてあげる。」

「解く?」

「お前、このままではいつまでも迷う者になる。あちらへ、安心して行けるように。」

「どこに?私はどこに行くと言うのだ?」

 スッとラッキービーナの腕が上がる。広場を抜けた奥の森へとだ。

 また、森か!まだ進まなければならないと言うのか!

「人は生まれながらに歩き続けている。それと同じだ。後、少し歩けば全て軽くなる。」

「私の何を知っていると言うのだ!?」

「お前が、誰かを欲していると言うことだ。」

 欲しい?誰を欲しい?そうだ!欲しかった……!!気付くのか遅すぎる程だが愛する者が欲しかった!!愛し続けられる者が!!

「愛は分からない…恋も知らない…人間は直ぐにそれを求める……」

「あなたにも分からないのか?」

「ラッキービーナは人間ではない。人の心の動きまで理解できない。」

「ここは……?やはりあなたは人間ではないのか?」

「お前は状況が分からないの?ここは、人間の世と次の世を繋ぐ場所。」

「次の世……だって………!?」

 愕然とした……次の世…では元いた場所は?

「前の世には戻れない。」

「そんな!!!まだ、やり残した事も……!」

「それが愛する事なのだろう?」

 そうだ……心は気づいた時からずっと叫んでいたじゃないか…

「そうだ…!愛する者が欲しかった……!ずっと命を掛けても惜しくない程に愛していける者が!!」

「私がなろう…それで良いか?」

「……は?あなたは人間ではないのでしょう?」

「そう。だけど私達は人の気持ちにどうしても惹きつけられてしまう。」

「私の気持ちに……?」

 愛したい、愛する存在が欲しい……!心から一緒に隣にいるべき伴侶を求めていた。

「愛する資格のない様な者が、あなたを愛したいなんて…言ってもいいのかどうか……」

「それならば私も一緒。ラッキービーナには愛は分からない。」

 穏やかな紫の瞳は偽りの無い澄みきった色をしていた。
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