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五十二、
しおりを挟む短いようで長い時間が経った頃、斎藤が遠慮がちに障子を開けて、部屋の中に戻ってきた。沖田はそんな斎藤にさすがにすまなく想えば、
「おかえり」と一言発して、ちらりと斉藤を見た。
少し驚いたのか一瞬だけ見開いた目を合わせてきた斎藤が、そのまま再びついと逸らし。
「そろそろ寝ないか」
夜ももう遅い
と呟いて、押し入れへと向かってゆく。
「・・ああ、そうだな」
沖田は、丹田のあたりで未だ疼く気配には無視を続けたまま、己も立ち上がった。
斎藤が布団を取り出すのを、やや離れた背後で見守り。まもなく布団を抱えて振り返る斎藤と入れ違うように、沖田も押し入れの前へ向かい立った。
いつもの己の布団を取り出す。
押し入れから振り返れば、斎藤が畳へと敷いた布団を整えており。
(・・・)
普段ならば。気にもしない己の布団の位置を、
沖田は今夜ばかりは、そして布団を腕に。惑った。
(これは・・・・重症だな)
己の躊躇を、半ば片一方の己が俯瞰して嘲笑う。
「・・?」
斎藤が、布団ごと突っ立ったままの沖田を不思議そうに見上げてきて。
沖田は。覚悟を決めると、何気なさを装い、普段の間隔より気持ち離した位置へと下ろした。
行灯の消灯を任せると言いたげに、やがて斎藤が布団へ先に潜り込みながら沖田のほうを一瞥するのを視界の端に、沖田はまもなく整え終えた布団から立ち上がる。
行灯の傍まで行き、火を吹き消した。
布団へ戻りがてら斎藤の側を見下ろせば、斎藤が「おやすみ」と言ってこちらの方向を見上げてくるのが、闇に慣れゆく己の目に映り。
「・・おやすみ」
沖田は一言返し。背を向けた。
布団に入り、やはり背を向けたまま、目を瞑る。
しかし普段の寝つきがすこぶる良い己にとって、眠れぬ時にどうすれば良いかなど知りようもなく。沖田は、ますます内心で嗤ってしまいながら、
最早、諦め。
斎藤の側へと寝返り、
「斎藤」
声を掛けた。
何だ、と返すように、仰向けの斎藤の顔だけこちらを向く影が、闇内に揺れる。
沖田は片肘をつき頭を支えつつ。斎藤を見据えた。
「寝物語に、つきあえ」
「・・・」
無言の拒否が届いた。
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