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五十三、
しおりを挟むあいかわらず何を考えているのか分からぬ。
先程までの避けるような態度の次には、これかと。斎藤は溜息を隠さず、沖田へ向けた顔を天井へと向け直す。
「いいだろ」
追いすがるように、といっても声音は不敵だが、斎藤へと更なる呼びかけが向かってくる。
(いいかげんにしてくれ)
振り回すのも大概にしろ。斎藤はそう思えば腹内に怒りさえおぼえ、再び沖田へ顔を向けた。
睨んだつもりだが、この闇では見えていないだろう。
「あんた一人でやっていればいい。俺は寝る」
笑い声が起きた。
「俺一人で独り言してろって?」
「うるさくなければ俺は一向に構わん」
フン、と再び斎藤は天井へ顔を向け戻した。
「・・・」
急に静かな反応が返り。
斎藤は、少し待った。
だが尚も続く沈黙に、今度は気になってきて、沖田のほうを再び向きそうになり、咄嗟に抑える。
さすがに態度がきつ過ぎただろうかと。そんなふうに気遣い始める己にげんなりしつつも、
あまりに壮健なままの沖田を見ていると、ついどうしても沖田の背負ったこの先の運命を失念しがちになっていて、
当の本人が忘れているかの態度なのだから、仕方がないのだろうが、
こんなやりとりさえ、あと数年もしないうちに不可能になるのだと。つと考え直せば。
今しがたの、己のとった態度をさすがに反省する気分にさえなってしまい。
(沖田・・・)
「・・・・」
観念、した。
「少しだけなら」
ぽつり、斎藤は呟いて。
沖田のほうへと。もう一度、顔を向けた。
「つきあってやる」
斎藤の情の深さは、いつだってこうして最後には沖田の望みを聞き入れてくれる優しさに顕れる。
沖田は、浮かぶ喜色に口角を上げた。
「有難う」
ならばと。
「今までおまえから浮いた話を一度も聞いたことが無い」
沖田が前打った台詞に、斎藤がぴくりと肩を揺らすのが、薄闇に見えた。
「大体おまえ、どんなのが好みなんだ?」
聞きながら、斎藤の女の好みといったら、本人と同じく淑やかで物静かな類なのだろうと想像してみるも。
「そんなもの聞いてどうする」
いきなり斎藤から拒絶が飛んできた。
これでは話が続かない。
こういう話題自体がやはり嫌いなのかと、沖田は苦笑いつつ、
「つきあうと言わなかったか」
押してみれば。
「するなら他の話にしてくれ。興味がない」
ぴしゃりと跳ね返され。
「おまえの興味は刀と骨董だけか」
もはや哄笑しながら沖田は、すげない斎藤を闇の内に見返す。
「・・・そうでもない」
だがぽつりと返されたその呟きが。いやに沖田の鼓膜を刺激し、沖田はおもわず斎藤を凝視した。
「そうでもない、とは?」
促していた。
「あんたには興味がある」
聞き間違えかと。
沖田が息を呑んださまを、
そしてまるで、してやったりと斉藤が闇のなかでほくそ笑んだように見え。
次には沖田は、斎藤の表情がもっとよく見える位置にまで、
肘歩きで身を這わせていた。
「・・沖、」
突然近寄ってきた沖田に、今度は斎藤のほうが息を呑んだのか、一瞬の緊張が奔る気配を、
沖田はもうこの手を伸ばせば届く距離の斎藤から感じとった。
その様子では、まさか近寄ってくるとは想像もしていなかったようだが。
(ままよ)
先に惑わすような言葉を吐いたのは斎藤のほうだ。
沖田は、
「この話の流れで」
斎藤へと。実際、手を伸ばし。
「随分と、面白いこと言ってくれるね」
硬直している斎藤の、片頬をそっと戯れに包み。
「それ、どういう意味」
ふれた指先が獲たおもわぬ熱に内心驚く侭。問うた。
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