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四十九、
しおりを挟む(どういうことだ、この疼きは)
廊下を足早に行きながら、沖田は心内でおもわず唸った。
あの時。酒をちびりちびり呑みながら目を伏せていた斎藤を、美しいとまたも感じてしまった。
まいったと内心苦笑しながらも、ついつい見つめていたところ、斎藤にあたりまえだが視線に気づかれ、
ごまかすように酒を注いでやれば、斎藤は見つめ返してきた。
これは何か文句でもあるのだろうと。いろいろ身に覚えがあるのでここは大人しく受け止めるつもりで促してみれば、
次には斎藤は何を思ったか、ついと目を逸らしてしまった。
そのまま伏し目がちの、意図的に逸らされつづける眼差しは、
不覚にも沖田の眼に、静かな艶すら。帯びて映え。
やがて沖田は妙に落ち着かなくなってきて、席を立ってしまったのだった。
仄かに、己の芯が熱い。
斎藤に反応した、ということに他ならず。
(どうしたんだ、俺は)
厠どころではなく。裏庭の軒下をめざした。
このまま斎藤のところへ戻るわけにもいくまい。
京造りの家屋を抜ける一陣と梅雨の織りなす冷涼な風が、沖田の辿り着いた縁側に吹きつけ、
この妙な落ち着かなさを鎮めるには丁度良いと。
眼前に広がる小さな庭園を眺めるでもなく、ぼけっと立ち尽くす沖田に、
だが、まもなく背後から微かな気配があった。
斎藤だと。沖田は振り返らぬまま、最早ふっと微笑った。
静謐で崇高な気高さは、纏う気配にまで現れる。
「・・・あんた、厠へ行ったんじゃないのか」
斎藤のほうは沖田が縁側に立っていることに驚いたようだった。
「先に涼みたくなってね」
「・・・」
横に並んだ斎藤を見下ろせば、
わからぬ、と、一見無表情の涼やかな横顔が、僅かに訴えている。
それでもこちらには向かず、まっすぐ庭先の小さな三千世界をみつめる斎藤に、
「おまえは?どうしたの」
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白皙の横顔が、ぽつりと答えた。
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それでいて彼自身は、物静かに佇むさまに。
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