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四十八、
しおりを挟む沖田の差し出す徳利へ、猪口を寄せた。
いつのまにか雨が降りだしている。
冷涼な風が差し込み。
斎藤は、注がれた酒をそっと口に含ませながら、
閑静に溶けこむ一定の雨音を耳に、目を瞑った。
しとやかな水の音に、
口内を潤す美酒の薫りが、ふわりと、一層際立つ。
此の故に、梅雨は好きだ。
ふと視線を感じ、斎藤は目を開けた。
(・・え)
己へまっすぐに向けられていた、沖田の穏やかな視線を目の当たりに。斎藤の動きは止まった。
斎藤が瞠目したのを見止めたのか、
「本当に旨そうに呑むよな、おまえは」
そう微笑い沖田は、再び徳利を向けてくる。
斎藤は。いましがた受けた視線を思い返さぬよう努めて、猪口を差し出した。
(そういう眼は、好いた相手にだけ向けるものだろう・・)
否。思い返さぬよう、努めようにも。
なみなみと注がれ終えた酒から、つと沖田へ視線を寄越せば尚も、その眼が。斎藤を見返し。
斎藤は最早、絡め捕られたように、
逸らせなくなった。
(沖田、あんた・・)
息まで、獲られ。
「・・ん?」
斉藤が目を合わせたままであることを、何か話があるとでも思った様子で沖田のほうは促してきた、
つまり、無自覚ということだと。斎藤は、今度こそ心奥から吃驚し。
逸らした。
「・・・」
二人の間には、暫しの沈黙が落ちた。
やがて間をもてずに、斎藤は再び猪口を口に寄せ、
こくりと。喉を熱が流れて。
もう、
これ以上、この男に掻き乱されるのは御免だと。
切に思っても、斎藤はどのようにこの場を切り抜けるべきかさえ、惑い。
「・・・」
諦め、視線を逸らしたままに酒を数度、口に含んでは。
沖田の動きを待った。
唯、何か。何でもいい。いつものように、戯言でもかまわないから、言ってほしい。
沖田からの視線を痛いほど感じて。
このまま沈黙を続けないでくれ。胸内に呟いた斎藤の願いは。
「ちょいと厠」
思いもせぬ形で、叶った。
(は・・)
急に立ち上がった沖田を、斎藤が唖然と見上げるなか。
沖田がさっさと部屋を出て行った。
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