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五、
しおりを挟む「一体何だったってんだ」
第一声を放ちながら、土方は目の前の二人を見やって溜息をついた。
己の部屋へしょっぴき正座をさせたはいいが、案の定、というか、それぞれ態度が完全に正反対である。
一方は、むっつりと怒気を漂わせたまま青ざめており。
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確かなことは、この二人のどちらも、全くしおらしくないということだ。
「てめえら・・反省してんのか、それで」
「してません」
「・・・」
沖田が平然と答えた。
斎藤は答えさえせず青いまま。
「説明しろ。一体何だったんだ」
土方は怒りを抑えつつ尋問を続ける。
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沖田が土方の茶に手を伸ばしながら聞き返した。
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「本人たちの口から聞きたい。一体何があった」
沖田は肩をすくめた。
「俺はこいつの心配してただけですよ。それなのにいきなり切れ・・」
「嘘をつくな!!」
突然蘇ったかのように今まで黙していた斎藤が憤怒を発した。
「俺は見るからに元気だろうが!それを、顔が青ざめてるだの寝てろだの訳の分からないことを繰り返して、ただでさえ昨日のことで 煩わされ・・」
「昨日のこと?」
顔が青ざめてるのは本当のことじゃねえか、と首を傾げつつ土方は遮った。
「昨日のことって、何だ?」
「・・それは・・」
斎藤は、はっとした顔で一瞬土方を見ると、さっと目を逸らしてしまった。
「何だよ?気になるじゃねえか」
(この二人は昨日から喧嘩していたのか?そういえばこいつら出かけた帰りに一緒に帰ってこなかったな。)
土方はまさか、昨日斎藤が沖田に怒っていた理由のひとつに自分が関わっているとは知らない。
斎藤は困ったように再び沈黙している。
「土方さん、」
沖田の呑気な声が、暫しの静寂を破った。
「俺、厠行きてえんですが」
「・・・・」
土方の呆れ顔が、続いた。
「おまえはこんな時くらい我慢できないのか」
「できませんよ、大のほうは。ああ、貴方なら締めが利くぶん我慢できるかもね」
は?
と土方の顔が歪み、次の瞬間おぼろに言われた意味を解したのか、その顔はみるみるうちに紅潮した。
「馬鹿野郎っ早く行って来い!」
「どーもー」
廊下を猛烈に駆けてゆく音を聞きながら土方は、目の前に留まる斎藤を盗み見る。
・・・蒼かった。
(いや、)
蒼い、というよりもはや紫がかっている。
「ど、どうした斎藤・・・」
斎藤を包む怒気が前より数段強くなっているような気がする。
だが、顔のほうは病人まがいであるから、
「おまえ、やっぱり少し休んだほうがいい」
そう薦めると、斎藤のほうはその紫の顔をもたげ、ぽつり呟いた。
「副長まで・・・」
何故かその声は悲しげで土方は妙に申し訳なくなって、結局何が諍いだったのかよく分からないままに斎藤を部屋へ返してしまった。
ところで沖田があのまま戻ってこなかったのは言うまでもない。
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