勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【128.5話】 リリアと魔法のホウキ ※少し前の話し※

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リリアとコトロは屋台の一画でお茶中。
「そんなに自分の馬車が欲しいんですか?無理しなくてもいいと思いますよ」コトロがリリアをたしなめる。
リリアは馬車を所有したいのだ。定期的に購買欲が高まる。今までコトロと中古車屋を見て回って来たところである。
因みにリリアは結構お金持ち。新車の馬車と馬二頭くらいは購入できる。
「ウチのギルドは駐車場も厩もないですから維持費が大変ですよ」コトロが言う。何度か同じ説明を定期的にさせられている気がするが、リリアは定期的に欲しくなるようだ。
「馬を遊ばせておくだけでも世話代と餌代がすごいんですよ。最低二頭、しかもある程度力のある馬となると料金もあがるし、最低で引かせたらあっと言う間に馬もダメになります。四頭で引かすか、予備として世話させておくか… 最低三頭は所有しないといけません」説明するコトロ。これも何回目か。
「説明を聞きにいってびっくりしたよ。本当に一ヶ月であんなに維持費かかるの?駐車場以上、あたしの生活費の何倍じゃない!マツ・ザッカー地方の牛肉と高級葡萄酒でも飲ませてんの?あれを三頭分でしょ?」
今朝、コトロの知り合いに紹介してもらって中古車屋と馬屋の話を聞きにいったリリア。説明を聞いてびっくり。
「あれじゃ、買っても維持費で貯金無くなるねぇ」リリアは残念そう。
「ですから、無理に所有しなくても、必要に応じて借りるのが一番です。リリアの場合は商人ギルドに知り合い多いし、勇者として国から借りられるのですから、無理する必要ないですよ」コトロは冷静に諭す。
「ねぇ、あたし買うからギルドで使って何とかしてよ」リリアが言い出す。
「ですから、支出が釣り合いません。ギルドメンバーが最低十人はいて、月の三分の二は仕事で使ってトントン、それ以上の活用で黒字… ウチは一度それでつぶれかけています。私が引き継いで全部整理して一人で再出発して、今のバーでようやく借金が減ってきてます。勇者を廃業してギルメンとして販売確保するならまだしも、出張しながら所有は絶対に無理です」冷静なコトロ。
「リリアちゃんは勇者だからね。国もあたしの引退を許さないだろうしね… 営業には自信あるけど… やっぱりちょっと無理かなぁ…」リリアは大人しくキャロットケーキを食べている。
「ちょっとどころか、完全に無理です。営業も簡単ではないですよ。リリアはただの護衛ですから皆ニコニコしていますが、競合になったら態度変わりますよ。それにリリアは営業向きではありません。打算的なところがなく悪事を働く様には見えないので信用はあるでしょうが、どこかヘマしがちな危うさと、結局最後のところで頭を下げられず喧嘩して仕事を失うのが関の山です。まぁ、勇者辞めるならすぐ王国は変わりを見つけてくると思いますが…」コトロはビターチョコたっぷりのドーナツを食べている。
「… ちょっと!それがギルメンに対する評価?ひど過ぎない?」リリアが怒る。
「ひどくないです。甘言極まり借金を背負わす方が酷い仕打ちですよ… それとも自分で営業できると思っていますか?」すげぇコトロ冷静。
「…… っぐぅ…」
リリアが思い返しても自分で営業出来るとは思えない。ぐぅの根がようやく出た程度。


「私これから仕事あるんで行きますね」
コトロが席を立つ。
「こんな時間から?絶対違うでしょ。デートでしょ!言ってもお客さんとデートでしょ!」リリアがニヤニヤしている。
「… のん気ですねぇ、リリアがこの前お酒ぶっかけてマスタード塗りたくって路上にほっぽり投げたお客さんに謝りにいくんですよ」やれやれ感爆発のコトロ。
「…… あぁ… ビーチクインターフォンゲームを迫って来た人ね… だって、リリアの乳首位置を触り当てたらピンポーンと叫べとか、バカにしすぎでしょ」
「… とにかく、怒っている以上、謝りにいきますから…」
コトロは席を立って行った。
女王様にオモチャにされた一件からセクシー度合いが増したリリア。バーで変な要求をされがち。

リリアも「そろそろ」と席を立つ。
「…… あれ… そっか、ここ魔法学校の寮が近くだったな…」
リリアの視線の先にはカフェ。カフェの前には駐ホウキが並んでいる。魔法使い達が立ち寄って駐ホウキしてお茶中だ。様々なホウキ達がお行儀よく… とは言い切れないが、まぁ、迷惑にならない程度にご主人を待っている。勤勉なやつは掃き掃除しながら待っている。
えらい!主の顔が見てみたい! でも、たいてい本人は手抜きがちがこのタイプには多い!
「ホウキか…ちょっと、調べてみるか…」
リリアはある思い付きをして立ち上がった。


「ヴぇ!! 維持費がかかるのぉ!」
リアルゴールドのお店に来て、魔法のホウキについて尋ねたリリアは目が点!
「だいたい売値をつけられる物じゃないからなぁ… 魔法使いの家系は代々受け継ぐか、自分で作るかだが、家族が呪い(まじない)して自らの魔力を消費して作るから安いけど、ホウキ自体もよく手になじんだ物が良いとされている。長く使い込んだやつが良いから時間もかかっている。それら全部を個人にカスタムするんだから、馬より高いよ」店員に説明された。なるほど… 言う通りな気がする…
「稀だけど、血が途絶えたとか、出来の良い新品を作ったからとかで中古が売りにだされるよ。値段はまちまちかなぁ?価値観なんだよ。古いから安いっていうとそうではなくて、素直とか、速力とか省マジックとか… 誰が作ったとか、どこの家系で使っていたとか… 新品より高い時もあるからなぁ…」店員は難しい顔をする。
「… なるほどねぇ… なんでホウキ? 触れ合って馴染ませるなら洋服でも、剣でも弓でも… 時間かけて馴染ませないとどうなるの?」リリア質問する。
「まずは伝統だろうね。服とか乗る場所ないだろ。服を股間に挟んで浮遊してたら不気味だろ。剣とかお尻切れるし、弓も弦とか切れるよな。馴染んでないと他人にほいほいくっついていっちゃう事があるよ。かってに行方不明もあるし。あんまり価値が高い物は無くなったら大変だからね。毎日手にして安くて丈夫。悪用されないホウキってところかな?剣が飛んで行って通行人に刺さりました!とか保障問題だものね。まぁ、最初の人がホウキだったからか… 伝統だろうねぇ。四六時中、絨毯に寝そべっている人や椅子に座っている人なら空飛ぶ絨毯とか作れるよ」店員が言う。
「そっか、他人を乗せてどっかいっちゃうのも困るね…」
因みに勇者リリアは夜、けっこう他人を乗せがちだ。ホウキより不純だ、勇者リリア。
「ウチも専属付術士がいるけど、リリア用にカスタムするのは高額になるよ。ホウキだけなら2Gですぐ売るよ。わっはっはっは!」店員は笑う。
「でも、一度作っちゃえば維持費はなさそうだけど…」リリアは笑っていない。
「魔法使いなら維持費はいらないよ。自分の魔力で飛ぶか、ホウキの魔力を消費したら自分で充当できる。精霊使いなら精霊の力を借りられる。物理系の人はポーションかスクロールで補うけど、この街からルーダリア城まで… それに物理系だと墜落事件も多いよ」
「えぇ!ここから城までそんなにポーション使うの!! なら馬かなぁ…」
空中からお金をばらまいているとしか思えない金額だ。リリアには無理だ…
魔力がある人達はどこまで恵まれているのだ…
「リリア、勇者だろ?作るのは作ってしまえば休み休み飛ぶくらいできるだろ?どの程度の魔法使えるんだ?言ってもここから城外くらいは飛べるだろうからさ!わっはっはっは!」
勇者なのだからある程度の魔法は出来ると信じている店員。リリアにとってこれほど純真で残酷な質問はない…
「えへ… あの… 勇者だからね… 結構凄いのよ! でも、方向性に違いがあるというか、性格の不一致っていうの?… まぁ、魔力が無い人だとどれくらいお金かかるかな?っとね…」誤魔化すリリア、面白もなんともねえんだよ!!
「無能力ならおすすめしないかなぁ。結局ホウキも成長するからね。主人のピンチに自ら飛んできたりするだろ?成長するとある程度自立するんだ。育ちが良ければいいが、そうじゃないと、主人の魔力が低いとなめられちゃってね、言う事聞かないは、家でしちゃうは…」
「…… お邪魔しました」
リリアはお店を後にする。どうせ物理系女には馬車が関の山ですよ…


リリアがバーに帰りかけると、ちょうどお茶を終えた魔法使い達が店から出て来たところだった。
数人でワイワイとおしゃべりしながらヒラリとホウキに腰かけると優雅に舞い上がる。
リリアはおしゃべりが遠のく空をしばらく見上げていた。
「…… リリアは本当に勇者の血を引き継ぐ家系の子よ。公認勇者なんだから…」
呟いて自分に言い聞かせる。敗北感と戦うリリア。
「リリアちゃん、ごめんごめん!」
リリアが振り返るとさっきの店員が追いかけてきている。
「今聞いたけど、リリアは勇者だけど魔法使えないんだってな。今聞かされたよ。知らなくてつい… ほら、勇者って魔法使えないとなれないと思っていたから、気を悪くしたらごめん。まぁ、また何かあったらごひいきによろしくな」
店員がニコニコと挨拶している。
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