勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【129話】 リリア達と行方不明者

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「助けに戻る、皆はここで回復して村に戻って」リリアが言う。
「無茶だ。見捨てないのと、死にに行くのと違うぞ」反対の声があがる。
「… 入れ違いにならようにここに数名残したら後は村に戻って、シェリフ達を呼んできて」リリアが声を震わす。
「一人で戻ったら村の助けが到着するまで生きてないぞ」
「リリア、通信はしたし、ミーティングでここに集合する事は皆知ってるから、少し待ちましょう。遅れて戻ってきているかも。まずあなたも回復しないと、少し待って様子を見ましょう」
「… そっか…そうね、少し回復ね…」
リリアは自分も怪我をしていることに気が付いた。少し腰を落ち着ける。
「後輩君、リリアから目を離さないで。変に正義感だけは強いんだから」
「うっす」
ペコがブラックに注意する。


リリア達はオフェリア達の捜索に出た。
しばらく待機していたが集落に戻って来ない行方不明者達。日が落ちる前には探さないと魔物だらけの荒野では明日の朝まで生きられないだろう。
「あたし、行く!とにかく助けたい!」リリアがペンダントを握りしめて言うのである。
冒険者のほとんどはヴァルキリーを信仰している。仲間を置き去りに出来ないのは一緒だが無謀過ぎる。
「へっぽこ勇者、変に決心しちゃっている、あれは行かせらんないよ」ペコがブラックに言う。
「俺、先輩の気持ちわかるっす」ブラックが答える。
「……… アホなの?死にに行くのと助けに行くのと違うのよ」アホがここにも… ペコは呆れる。

「俺たちも助けたいのは一緒だ。日没前までが勝負」
周りの手練れが焦るリリアを引き留め作戦を立ててくれた。
通信が途絶えた位置、現在通信範囲外な事を考えて、街道に出ていない想定で居場所を推測する。
「恐らく、道と反対のこっちの沢の方へ逃れていっている。言っても全員経験者だ。落ち着けば集落の位置も検討つけるだろう。この方面に向かって探す。これ以上は犠牲を出さないよう、慎重に進むんだ」ガルトが冷静に指示を出してくれた。
負傷者と居残りが集落に留まり、一班は村に連絡に戻る。動ける者達を二班に分けて捜索に出た。
「あたしも行く!オフェリアも皆も探し出さないと!アリスも行方不明だよ、ペコだって心配でしょ!」
「私も行くよ。アリスの心配はしてない、アリスは大丈夫。リリア、あなたが一番心配よ」
リリアの様子を見るに、変な決心をしているのが伝わってくる。こういう奴が一番危ない。
この物理女はここに存在しているが精神的に行方不明中だ。ペコが思うにリリアは伝説級のアホ勇者だが、人畜無害のエア勇者の今、歴史の中に葬り去られ「そんなやついたっけ?」と言われるには惜しい気がする。
とにかく日没までに集落に戻る事を目途に捜索開始。


リリア班とガルト班で北東の森を捜索。ガルト班は沢の崖の上を、リリア達が沢と川に沿って進む。
魔物は多くないように見えるが、退路の確認をしながら慎重に警戒しながら進む。
リリアの班にはオフェリアとココアの代わりにベアマン二人、ロドベアとクロックマーが同行する。

「オフェリア達四名と合流できたぞ。かなり怪我して憔悴しているが、命は大丈夫そうだ。これからガルト班は集落まで一緒に戻る」
森を進むとオフェリア達から通信が入って来た。オフェリア、ココアと行方不明二名は合流していたようだ。連絡が取り合われ、ようやく沢沿いに出てきて合流。
ガルト班が連れて帰る。
「了解よ、リリアはウィスキー5を北に移動中。ガルトは一度戻って」リリアが通信する。
「ガルト了解。もう日が暮れてくる。後少ししたらリリアも戻れ。ローズのことだ無事に戻ってくるだろう」
「……… そうね… 了解…」リリアが答える。


「もうタイムアップだ、引き返さないと日が落ちる」ロドベアが言う。
「… でも、ローズ達が… アリスも一緒だよ…」リリアがペコを振り返る。
「…… ローズなら何とかする… アリスだって…」ペコが絞り出すように言う。
「……… でも… わかった…」リリアが言いかけた時だった。
「先輩、あそこ、ほら」ブラックが小声で指をさす。
見ると沢を少し上がったところに人がいる。8名程度だろうか?かがんで何かをしている。
“スタンバイ”
リリアが合図すると全員、傍の岩陰に身を潜めた。
「あれ、漁りじゃない?」
「あぁ、恐らくな…」
「漁ってるのは誰の死体?まさか…」
「確かめるしかないだろ、ぶっ殺してやる」
「待って、漁ってるだけなら人権があったはず、漁り狂かどうか… 殺す前に確かめないと」リリアは勇者として変に真面目。いや、これがまともな方か?
「はぁ?あまえ正気か?どっちでも一緒だ、死者への冒涜だ、殺せ」
「… とにかく、ブラック、ロドベア、クロックマーは注意して接近。攻撃されたら即座に反撃よ。あたしとペコはバックアップ。ペコ… 気力持つ?」リリアがペコに聞く。
「あんた誰の心配してんのよ!ほっといてよ。それより反撃って何するの?はっきりさせなさいよ」ペコは少し声を荒げる。疲労は隠せない。
ペコの言葉で皆リリアを見つめる。
「攻撃されたら… 反撃よ… だから… みな…」
「ちょっと、聞こえる様にはっきり話しなさいよ」
ペコがリリアに注意する。
「先制攻撃を持って戦場荒らし狂、特別指定魔物と認定… 武器・魔法の仕様許可と… 殺処分を許可する… 全員スタンバイ」
「了解、スタンバイ」
渋々言うリリアに復唱すると全員位置に散っていった。

影の落ちた沢周辺はせせらぎの音。
人影が黙々とかがんで作業する姿が不気味に見えた。
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