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第200話 よくもまあ、ぬけぬけと

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「やなこった。誰がお前なんかのために事務作業なんぞするものか。ずっとそのまま苦しみ続けて破滅しろ」
 星崎が勝ち誇ったように言う。その口調から、自己万能感に酔いしれている姿が目に見えるようだ。
 そして、この男の頭の中には労働基準監督署という機関が存在しないらしい。まことにおめでたい奴である。           
「そんな……! では、田上さんへはどのようにお答えしたんですか」
「一月の仕事始めの日からずっと無断欠勤していて、連絡が取れないって言った。だから失業保険関係の書類も渡せてないってな」
 よくもまあ、ぬけぬけと。
「そしたら田上さんは何と」
「連絡が取れ次第、電話をくれと。だからオレが先手を打って、今、てめえに電話してるんだ。いいか、田上から連絡が来ても絶対に出るな。どうもあいつはクズで無能なてめえを勘違いして買いかぶってるみたいでな」
 それが事実ならとても嬉しい。佐野の顔が、ぱあっと明るくなる。
「けど、オレはそれがすげえムカつくんだ。それに、てめえが田上の所でバイトしたら、うちの会社の取り分が減る。だからクズはクズらしくオレ様の下で干されて、破産してくたばりやがれ」
 なるほど。そういう理由で星崎は電話してきたのか。佐野は星崎の子供じみた悪態を無視して、話の内容を整理する。
 つまり今年に入ってから、橋本建設を含め、どこの会社も古山建設へ下請工事の発注をしていないと見える。
 あるいは多少の受注はあっても去年より件数が激減していて、たとえ金額的に少なくても、退職者に仕事を持って行かれると困るくらいに売り上げが下落しているのだ。
 そして他方、ユキは自分の状況を知っているから、バイトを口実にして星崎へ電話をかけ、退職の事務処理がなされているかどうか探りを入れたのだ。
 再就職についての謎はわからずじまいだが、これで現在の古山建設の状況は掴めた。また、ユキもこの会社のブラック企業ぶりを再認識したということだ。
 さて、そうと分かれば、もうこの男と話す必要はない。次はユキと話をしなければ。
「とにかく書類をお願いします。本当に困ってるんです」
 佐野はすがるように言う。すっかり演技が板についている。
「嫌だね。バーカ」
 星崎はそう吐き捨てるように言うと、一方的に通話を切った。 

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