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第199話 嘘に事実を少々混ぜると、真実味が増す

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「わはは! ざまあみろ! そのままどこにも就職できず、持ち金も全部なくなって、のたれ死にしやがれ!」
 星崎の下品な高笑いがスマホから響く。
 実に単純な男だ。こんな猿芝居にたやすく引っかかるとは。佐野はあきれる。
 これならレイナとその一族に丸め込まれてしまうのも当然であろう。
「そんな……お願いですから書類を送ってください」
 だんだん佐野も面白くなってきて、にやにやしながら悲痛な声を出す。完全にユキの『根性曲がりモード』だ。
 そして内心、こう考える。星崎が電話をしてきたのは、ユキが古山建設に対して何らかのアクションを起こしたからだと。それが何なのか、星崎から聞きだせば、この謎多き再就職の経緯の一端を知ることができるかもしれない――と。
「そもそも、橋本建設さんのような大手ゼネコンに、私なんかが中途採用で入社できるはずがないでしょう」
 自分の名前が印刷された橋本建設の名刺を手に取りながら、弱々しい声で言う。
 ちなみに肩書きは主任である。平社員からのスタートではないのも驚きだ。
「当たり前だ。お前みたいな無能のクズ、どこも採用しねえよ」
「仰せの通りです。では、なぜ私が田上さんのところへ行くと先ほど仰ったのですか」
 下僕モードで聞き取り調査を開始する。
「それはだな、ついさっき田上から電話が来て、てめえが今どうしてるか聞いてきたんだ。大方、無職のてめえをアルバイトでこき使おうって魂胆だろう」
 これは退職の事務処理が終了しているかどうかの状況確認だ。佐野はスマホを耳に当てながら小さくうなずく。
「ええっ? そうなんですか。ぜひ、そこでバイトしたいです。本当にお金に困ってて、車も手放そうかと考えていたところなんです」
 嘘に事実を少々混ぜると、真実味が増す。
「ほほう、それは大変な状況でございますねえ」
  馬鹿め。引っかかった。いい気にさせて、とにかく色々と喋らせよう。その中で、何かヒントが出てくるかもしれないからだ。
「はい。そうなんです。ですから、御社を退社したことが証明できる書類をぜひとも早くお願いします」
 悲痛な声音で哀願する。しかしこれもまた事実である。
 だからさっさと書類と未払い給料、よこしやがれ――! 
 佐野は腹の中でそう毒づく。
 

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