198 / 334
第198話 大根役者、再び登場
しおりを挟む
佐野がユキの現場事務所へ電話しようとスマホを手にした瞬間、着信音が鳴った。
「古山建設――」
発信元の文字を見て、佐野は喜ぶどころか、顔をしかめる。
総務部長も経理部長も退職していない今、自分へ電話をかけてくる者といえば、星崎か社長しかいない。そして、ろくな内容ではないだろう。
「書類や給料のことじゃない。絶対にこの件だ」
床に並ぶユキからの荷物を見て察する。
「さて、どうする」
着信音がけたたましく鳴り続ける中、急いで作戦を練る。
「しらばっくれよう」
一番最初に浮かんだ策がそれだった。ユキからの荷物がまだ届いていない前提で対応するのだ。無職のまま、何も知らないという状態だ。
実際、自分が本当に橋本建設に入社するのか決めかねているのだ。好都合である。
「では、その流れで行こう」
心落ち着けて、通話ボタンを押す。
「はい。佐野です」
「バカ野郎ッ! 出るの遅せーぞ!」
予想した通り、星崎だ。その安っぽい怒鳴りっぷりで、ますますチンピラモードに磨きがかかっているのが手に取るように分かる。
「おい、てめえ、調子こいてんじゃねーぞ」
星崎が威嚇するように言う。
「何がです?」
佐野は早速、しらばっくれる。
「隠すな。あの田上のバカの所に行くんだろ? 絶対に阻止してやるからな」
聞かずとも勝手に喋るので誠に楽だ。佐野は腹の中でほくそ笑む。
「え! それ、初耳なんですけど」
いつぞやの大根役者、復活である。
「何だ、お前。知らんのか」
案の定、拍子抜けした声。しめしめ。
「はい。それよか御社からの書類がまだ来なくて、職安にも行けない状態なんです。残りの給料もまだ振り込まれてないし……」
わざと気落ちした口調で返す。仕事始めの日に星崎と電話で大喧嘩した末に退職を宣言した時とは真逆の態度である。もちろんこれも作戦のうち。
なんだか自分もユキに似てきたな――佐野は思わず苦笑する。
「古山建設――」
発信元の文字を見て、佐野は喜ぶどころか、顔をしかめる。
総務部長も経理部長も退職していない今、自分へ電話をかけてくる者といえば、星崎か社長しかいない。そして、ろくな内容ではないだろう。
「書類や給料のことじゃない。絶対にこの件だ」
床に並ぶユキからの荷物を見て察する。
「さて、どうする」
着信音がけたたましく鳴り続ける中、急いで作戦を練る。
「しらばっくれよう」
一番最初に浮かんだ策がそれだった。ユキからの荷物がまだ届いていない前提で対応するのだ。無職のまま、何も知らないという状態だ。
実際、自分が本当に橋本建設に入社するのか決めかねているのだ。好都合である。
「では、その流れで行こう」
心落ち着けて、通話ボタンを押す。
「はい。佐野です」
「バカ野郎ッ! 出るの遅せーぞ!」
予想した通り、星崎だ。その安っぽい怒鳴りっぷりで、ますますチンピラモードに磨きがかかっているのが手に取るように分かる。
「おい、てめえ、調子こいてんじゃねーぞ」
星崎が威嚇するように言う。
「何がです?」
佐野は早速、しらばっくれる。
「隠すな。あの田上のバカの所に行くんだろ? 絶対に阻止してやるからな」
聞かずとも勝手に喋るので誠に楽だ。佐野は腹の中でほくそ笑む。
「え! それ、初耳なんですけど」
いつぞやの大根役者、復活である。
「何だ、お前。知らんのか」
案の定、拍子抜けした声。しめしめ。
「はい。それよか御社からの書類がまだ来なくて、職安にも行けない状態なんです。残りの給料もまだ振り込まれてないし……」
わざと気落ちした口調で返す。仕事始めの日に星崎と電話で大喧嘩した末に退職を宣言した時とは真逆の態度である。もちろんこれも作戦のうち。
なんだか自分もユキに似てきたな――佐野は思わず苦笑する。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
81
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる