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第201話 恋のときめきも、一定のラインを越えたら具合が悪くなる

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「よし、オッケー」
 佐野は不敵に笑って通話画面を閉じる。
 さて、次はユキと電話だ。それが終われば今度は労働基準監督署へ給料未払いと書類の未発行、社員へのパワハラとセクハラの相談だ。
 星崎め。散々嫌がらせしたうえに、クズだの無能だのと連呼しやがって。あとで吠え面かくなよ。そして女性社員達、どうにか持ちこたえていてくれよ――!
 などと、意気込んではみたものの、いざユキに電話をかけるとなると、スマホを操作する指がぴたりと止まる。
 荷物の件で連絡するとはいえ、佐野にしてみれば片思いの人。だから激しく緊張し、心臓がドキドキする。脈も早い。さらに頭もボーッとして、思考がスムーズに回らない。
「恋のときめきも、一定のラインを越えたら具合が悪くなるのだな」
 室温十七度の薄ら寒い部屋で、額に吹き出た大量の汗を手でぬぐう。 
 思い起こせば現場事務所にいた頃は、回数は少なかったものの、業務連絡というのもあって、たいして動揺もせずにユキへ電話をかけていた。
 むしろ仕事にかこつけて、ユキと会話ができてラッキーという感覚だった。
 しかし今は状況が違う。もちろん片思いの人だからというのは当然として、そのほかにも、自分の今後の人生に関わる案件について話をしなくてはならないからだ。 
 宅急便の配送員が困惑するほどの悪趣味な梱包の中に入っていた、『再就職おめでとうクッキー』と『橋本建設社員セット』の真意をだ。
「それにしても」
 佐野は首をかしげる。
 ユキは自分に好意を持っているから、このようなことをしたのか。
 あるいは同情からの行為なのか。初めて二人が出会った時のように、忘年会の鍋物のあく取りをずっとさせられたあげく、店先で置いてきぼりにされた自分を見て、花壇へ連れて行ったのと同じ感覚でいるのか。
 はたまた、技術力を買ってくれたうえでのスカウトか――
「いや、スカウトは絶対にありえない。うぬぼれるな」
 即座にその考えを否定し、己を厳しく叱責する。

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