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第55話 いよいよ本音で話し出す

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「強烈な皮肉の連射、お見事でした」
 佐野はユキの前に置かれたスマホへ手を伸ばす。
「だろ? 今までのあいつの悪事を全てほめたたえてやったからな。最後の『ばかやろー』には笑ったよ」
 ユキはせいせいした顔で、通話中に使ったメモ用紙をゴミ箱へ破って捨てる。
「けど、二十四日から三十一日までの短い間によくぞここまで醜態をさらせるもんだ。俺も現場でいろんなクズを見てきたが、今まで対応したなかで一番のろくでなしだ」
「あれが毎日続くんです。その下で働く僕達は地獄ですよ――よし、星崎の着信拒否設定、完了」
 佐野は眉間に縦じわを寄せつつ、スマホを机の隅へ置く。
「これでレイナはタクシーで星崎の部屋に行かなきゃならないな。途中で上生寿司やら、いっぱい買って。大散財だな」
 ユキが肩をそびやかす。
「いいえ」
 佐野の面持ちがさらに曇る。
「絶対に今頃、うちの工事部の誰かへ命令しているはずです」
「ああ……そうだよな。あいつが今の電話ごときで引き下がるとは思えないもんな」
 険しい目つきでユキは天井を見上げた。
「こんなことがずっと続いてるんです。けど、ある意味、みんな慣れてしまってるというか。これってローテーションなので」
「その順番に理由とかはないのか。仕事のミスとか、あの男の逆鱗にふれたとか」
「ありません。完全に星崎の気分次第です。もし逆鱗にふれようものなら、ある日突然とんでもない理由でクビになります。鈴木のように」
「ふん……言っちゃ悪いが、会社の体制そのものがクソだな」
 吐き捨てるようにユキは言う。
「他社の方がそう言ってくれると胸がすっとします。自分達は絶対に言えませんから。誰がどこで聞いてるかわからないので危ないんです。もし話した相手が星崎に寝返って密告したら、たまったものではないので」
「確かにな。よし、ならば存分に言わせてもらうぞ。今の電話で気づいたと思うが、俺は性格が相当ひんまがっているからな」
「失礼ですけれど、そのようで」
 だからこそ、よりいっそう好きになってしまいました。もちろん、口に出しては言えないけれど。
「でも俺、そこを自覚してるから必死で取りつくろってるんだ。けど、必ずあとでボロが出る」
「正直、僕もうっかりだまされました。田上課長って、おしゃれで紳士的で器の大きい成熟した男性だと思っていたんです。でも部屋の話をしているうちにだんだんと――」 
「うん。ガスコンロの話のあたりから雲行きがおかしくなってきたよな」
「ええ。そして風呂場のカビの件で一気に田上課長のイメージが崩れました。まさかあんな話に食いつくとは思っていなくて。びっくりしました」
「そうなんだよ。俺、いつもそのせいで相手に逃げられちゃうんだ……恋人としてつきあう前に」
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