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25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影
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シェリーは涙を浮かべながら、玄関でルークを見送っている。ルークが友達と軍の見学をするため、一週間外泊をするのだ。
「ルーちゃん。なにかあれば、そこの師団長さんではなくルジオーネさんを頼るのよ」
シェリーはそう言って、ルークの手を握っている。そこの師団長。この王都メイルーンの警邏を担っている第6師団長のクストが不機嫌な顔でルークを迎えに来ていた。
そして、シェリーは不機嫌なクストに視線を向けて言う。
「師団長さん。ルーちゃんに怪我をするようなことは、させないでくださいね」
「あ゛?何を言っているんだ?騎士団や軍に入って怪我をしないってありえないだろう?」
確かに正論だ。最悪、命を落とすこともあるのだ。
「まだ、学生です」
「ふん!学生でも非常時にはかり出されるんだ。30年前みたいにな。というか、嬢ちゃん。俺がいないのを見計らったようにユーフィアに会いに来たよな」
どうやら、クストが機嫌が悪いのはシェリーがユーフィアがいるナヴァル家に行ったことが原因のようだ。
「ええ、フィーディス商会の頼み事をするために訪ねましたよ」
「嬢ちゃん。俺のユーフィアに会うなって何度も言っているよな」
「今回はギラン共和国大手の商会からの頼み事ですからね」
シェリーは仕方がないと言わんばかりに言っているが、それはシェリーが勝手にユーフィアに作らそうとしただけで、別にフィーディス商会から頼まれたことではない。
「ああ、おかげでユーフィアはその結界とやらの魔道具を作るのに引きこもっているんだが?」
クストの機嫌の悪さに拍車をかけているのは、シェリーが訪ねた事と、その事によりユーフィアに構ってもらえなくなったからのようだ。
「それは早く対処できるようでよかったです」
「よかねぇーよ!」
「姉さん!」
ルークはシェリーと今日から世話になる第6師団長との雰囲気が段々と悪くなって来ているのを見て焦りだした。いくら何でもこの国で英雄と呼ばれている青狼族の族長に喧嘩を売ってはいけないと。
「なぁに?ルーちゃん?」
クストに淡々と話しているシェリーはルークに呼ばれニコリと笑う。そんな姉にルークは慌てて言った。
「姉さん。行ってくるよ。一週間後には戻ってくるからね」
そう言ってルークはクストの元へ行き、早く出発するように促した。
______________
第1層に向かう道中にて
ルークはクストが操る馬の騎獣の背に乗って王都の中枢に向かっていた。馬と言っても額から角が3本突き出しており、上下4本の牙がむき出している。見た目で肉食の騎獣だとわかってしまう。
「第6師団長。姉がすみません」
クストの後ろで騎獣に揺られながら、ルークが謝る。シェリーはルークには優しいが、それ以外に対してはぞんざいな扱いをする。それは国王であっても変わらない。
「いつもの事だ」
クストは先程の機嫌の悪い雰囲気はなくなっており、普段の軍の師団長の雰囲気を纏ったクストに戻っていた。
番であるユーフィアが関わらなければ、いたって真面目な師団長なのだ。
「あの、今回のことなのですが」
ルークは言いにくそうに言葉を紡ぎ出した。はっきり言って、ニールがシェリーを動かすためにしては、事が大きくなっているようにルークは感じているのだ。
「嘘をついてまで、しなければならない事なのでしょうか?」
嘘。ルークは姉であるシェリーに嘘をつくことに内心罪悪感を覚えていた。いつも、ルークのために動いてくれる姉に嘘をつくなんて。
「嘘?嘘じゃないぞ。ちゃんと軍の施設の案内と体験プランをニールが計画して、上層部に許可をもらっているからな」
かなりの大事になっていた。
「そのモルディールという所に行くのは姉でなければならないのでしょうか?」
実を言うとルークはこの話をニールから聞いた時に同じ質問をしていたのだ。自分の姉が行く必要があるのかと。その質問にニールは何を言っているんだという呆れた顔をしながら答えた。
『実質Sランクの力を持つシェリーとカイルに解決できないようなら、超越者クラスを引っ張り出してこないといけないじゃないか』と、そんなことをすれば被害が甚大になるともニールが言った。
被害。それは敵も味方も区別なく灰燼と化すだろうと。
そして、クストはというと、ルークの質問にため息を吐いて答えた。
「はぁ。10歳の子供が普通、他国の奴隷商人を壊滅させるか?天まで届く炎で燃やし尽くすか?やろうにもできないだろう?」
クストはその天まで届く炎をその目で見たのだ。そして、駆けつけたマルス帝国の軍人を一人で倒し尽くした姿を。
「お前の姉はお前が思っている以上に強いぞ」
シェリーの前ではいつも文句しか出てこないクストもシェリーの逸脱した強さを認めていた。
「ルーちゃん。なにかあれば、そこの師団長さんではなくルジオーネさんを頼るのよ」
シェリーはそう言って、ルークの手を握っている。そこの師団長。この王都メイルーンの警邏を担っている第6師団長のクストが不機嫌な顔でルークを迎えに来ていた。
そして、シェリーは不機嫌なクストに視線を向けて言う。
「師団長さん。ルーちゃんに怪我をするようなことは、させないでくださいね」
「あ゛?何を言っているんだ?騎士団や軍に入って怪我をしないってありえないだろう?」
確かに正論だ。最悪、命を落とすこともあるのだ。
「まだ、学生です」
「ふん!学生でも非常時にはかり出されるんだ。30年前みたいにな。というか、嬢ちゃん。俺がいないのを見計らったようにユーフィアに会いに来たよな」
どうやら、クストが機嫌が悪いのはシェリーがユーフィアがいるナヴァル家に行ったことが原因のようだ。
「ええ、フィーディス商会の頼み事をするために訪ねましたよ」
「嬢ちゃん。俺のユーフィアに会うなって何度も言っているよな」
「今回はギラン共和国大手の商会からの頼み事ですからね」
シェリーは仕方がないと言わんばかりに言っているが、それはシェリーが勝手にユーフィアに作らそうとしただけで、別にフィーディス商会から頼まれたことではない。
「ああ、おかげでユーフィアはその結界とやらの魔道具を作るのに引きこもっているんだが?」
クストの機嫌の悪さに拍車をかけているのは、シェリーが訪ねた事と、その事によりユーフィアに構ってもらえなくなったからのようだ。
「それは早く対処できるようでよかったです」
「よかねぇーよ!」
「姉さん!」
ルークはシェリーと今日から世話になる第6師団長との雰囲気が段々と悪くなって来ているのを見て焦りだした。いくら何でもこの国で英雄と呼ばれている青狼族の族長に喧嘩を売ってはいけないと。
「なぁに?ルーちゃん?」
クストに淡々と話しているシェリーはルークに呼ばれニコリと笑う。そんな姉にルークは慌てて言った。
「姉さん。行ってくるよ。一週間後には戻ってくるからね」
そう言ってルークはクストの元へ行き、早く出発するように促した。
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第1層に向かう道中にて
ルークはクストが操る馬の騎獣の背に乗って王都の中枢に向かっていた。馬と言っても額から角が3本突き出しており、上下4本の牙がむき出している。見た目で肉食の騎獣だとわかってしまう。
「第6師団長。姉がすみません」
クストの後ろで騎獣に揺られながら、ルークが謝る。シェリーはルークには優しいが、それ以外に対してはぞんざいな扱いをする。それは国王であっても変わらない。
「いつもの事だ」
クストは先程の機嫌の悪い雰囲気はなくなっており、普段の軍の師団長の雰囲気を纏ったクストに戻っていた。
番であるユーフィアが関わらなければ、いたって真面目な師団長なのだ。
「あの、今回のことなのですが」
ルークは言いにくそうに言葉を紡ぎ出した。はっきり言って、ニールがシェリーを動かすためにしては、事が大きくなっているようにルークは感じているのだ。
「嘘をついてまで、しなければならない事なのでしょうか?」
嘘。ルークは姉であるシェリーに嘘をつくことに内心罪悪感を覚えていた。いつも、ルークのために動いてくれる姉に嘘をつくなんて。
「嘘?嘘じゃないぞ。ちゃんと軍の施設の案内と体験プランをニールが計画して、上層部に許可をもらっているからな」
かなりの大事になっていた。
「そのモルディールという所に行くのは姉でなければならないのでしょうか?」
実を言うとルークはこの話をニールから聞いた時に同じ質問をしていたのだ。自分の姉が行く必要があるのかと。その質問にニールは何を言っているんだという呆れた顔をしながら答えた。
『実質Sランクの力を持つシェリーとカイルに解決できないようなら、超越者クラスを引っ張り出してこないといけないじゃないか』と、そんなことをすれば被害が甚大になるともニールが言った。
被害。それは敵も味方も区別なく灰燼と化すだろうと。
そして、クストはというと、ルークの質問にため息を吐いて答えた。
「はぁ。10歳の子供が普通、他国の奴隷商人を壊滅させるか?天まで届く炎で燃やし尽くすか?やろうにもできないだろう?」
クストはその天まで届く炎をその目で見たのだ。そして、駆けつけたマルス帝国の軍人を一人で倒し尽くした姿を。
「お前の姉はお前が思っている以上に強いぞ」
シェリーの前ではいつも文句しか出てこないクストもシェリーの逸脱した強さを認めていた。
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