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24章-1 魔の大陸-魔女への依頼
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しおりを挟む「大公代理はオーウィルディア様ですから、ご報告をしておかなければならないと思いました」
「報告って!決定事項なの?」
大男が机をバンバンと叩き、苛立ちを顕にし、ラースの証であるピンク色の魔眼が揺らめいている。ビリビリと空気までも揺れていた。
「オーウィルディア様。魔眼の封印が解けてますよ」
そう言ってシェリーは冷めてしまった紅茶を一口飲む。この針が突き刺したような空気の中、シェリーは平然としている。
「シェリーちゃんが訳のわからないことを言うからでしょ!それにこの国に関わることをあれほど避けていたのに今更なに?」
確かにシェリーはラース公国に関わることを避けていた。それは主にナオフミやビアンカが居たため関わることを避けていたのだ。
「そうですね。私の言葉ではなく、オーウィルディア様が納得できる言葉があればいいと言うことですか?」
「わたしが納得できるできないの話じゃないでしょ!常識というものがあると言っているの!」
魔人ミゲルロディアを大公に戻そうとしている非常識さ。直系ではないラースの小娘が国の事柄について決定事項のように言ってくる非常識さ。
冒険者気質のオーウィルディアが無理をして大公代理に収まっていることで、かなりのストレスが溜まってきていたところに、シェリーが突拍子もない事を言ってきたのだ。それは魔眼の封印が解けるほどに怒りを顕にするだろう。
「ナディア様はどう考えられますか?」
「は?」
息がまともに吸えないほどの圧迫感のなか、シェリーは宙に向かって声を掛けた。オーウィルディアはシェリーの口から女神ナディアの名が出たことで、一瞬頭が真っ白になる。いったい何を言っているのかと。
『いいと思うわ』
シェリーの呼びかけに、鈴のような美しい声が答えた。いや、シェリーの隣で赤い髪の美しい女性が足を組んでくつろいだ姿で座っていた。
『私とラースが愛した国を私たちの子供が豊かにしていってくれるのがいいわ。それが闇を纏っていても構わないわ』
女神ナディアは慈愛の笑みを浮かべながらそう言った。『この国を愛している』そう言ってはいるが、己の血族ならどの様な存在であっても国を豊かにしていくものなら、構わないと言い切っているのだ。
相変わらず神という存在は地上に住む人の事など考えてなどいない。身勝手なものだ。
しかし、どの様な意図があろうが、己の傲慢で言った言葉だろうが、この国の民が女神と崇める存在の口から出た言葉は絶対だ。
オーウィルディアは床に伏し、頭を床に付かんばかりに下げ、女神ナディアの神言をその身に刻む。
女神ナディアの隣では無表情で冷めた紅茶を喉に流し込んでいるシェリー。
異様な空間だ。
『シェリーちゃん。いつになったらラースに会いに来てくれるの?ラースが待ってるのよ』
女神ナディアは以前シェリーにラース最大のダンジョン『トルドール遺跡』に来るように言っていた。
「今は無理です」
しかし、シェリーは女神であるナディアの言葉に異を唱える。
「一冬の間は絶対にシーランから出ません」
『あら?ルークちゃんも連れてきてくれて良いのよ。ルークちゃんって私たちの子どもの中で一番でしょ?ふふふ』
「ルーちゃんの未来はルーちゃんだけのモノです。私が世界の人柱になる。それでいいのではないのですか?」
『あらあら、それは悲しいわ。私たちの子どもは皆幸せになって欲しいもの。まぁ、ラースに会いに来るのは年が明けてからで良いわ。絶対にくるのよ』
そう言葉を残して女神ナディアは消えていった。部屋に残されたのは、女神に額を床につけんばかりの···いや、額が赤くなっているオーウィルディアと女神の横で平然とソファに座っていたシェリーだ。二人の女神に対する対応の違いが顕になった姿だった。
オーウィルディアは額から流れ落ちる汗を拭いながら立ち上がる。いきなり神殿でもないこの場に、崇め奉る神である女神ナディアが顕れたのだ。それはひれ伏すしか選択肢はないだろう。
しかし、女神ナディアに対して、そう行動を行わなかったシェリーをオーウィルディアは睨みつける。
「シェリーちゃん!ナディア様にきちんと敬意を払いなさい!あの態度と言い方はないわ!」
憤るオーウィルディアにシェリーは何を言っているのかと言わんばかりに呆れたような視線を向ける。
「オーウィルディア様。いつもこのような感じですがお咎めを戴いたことはありません。それで、ナディア様から許可を戴いたので、大公閣下の件は進めて行ってもいいですね」
そう言ってシェリーは立ち上がる。
「いつも?いつもって何!」
オーウィルディアの大音量の声が響き渡る部屋の扉をシェリーは後ろ手で閉める。シェリーにとってミゲルロディアをこちらの大陸に連れて来ることは内心決定事項だったので、大公代理であるオーウィルディアの同意が必要だったのだ。
反対されるであろう事は分かりきっていた。だから、このラース公国での絶対者である女神ナディアに意思表示をしてもらったのだ。
今のラースの現状をあまりよく思っていない女神は、シェリーの意見に同意するであろうとシェリーは確信を持っていた。
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