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22章 獣人たちの騒がしい大祭

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 少し待つと、扉をノックする音に続き、一人の人物が入ってきた。以前にも見たことがある灰色の髪に新緑を思わせる緑の目を持った人族と思われる男性だ。見た目では獣相は見られない。

「シド総帥閣下。お呼びに応じてネール・プロジオーネ副団長ただいま参りました」

 そう言って敬礼をしている人物にシド総帥は手招きをしてこちらに来るように促す。

「ネール、緊急案件だ。フェクトスに面会できるように手続きをしてくれないか?」

 シド総帥の言葉に何か考えているのか返事をしないネール。そんなネールに補足するようにシド総帥が言葉を続ける。

「言っておくが俺じゃないぞ。あいつのところに行くのにわざわざ連絡入れないのはお前だって知っているだろ?そこのラースの嬢ちゃんだ」

 シド総帥に示された人物と横目で見ながらネールが言う。

「今ですか?」

「今だ」

「無理ではないのですか?明日から本祭ですよね。この前お見かけしたときヤル気満々でしたよ」

 何がヤル気満々なのかわからないが、フェクトス総統は祭りを楽しむ予定なのだろう。

「なんだ今年も出るのか」

 オルクスからそんな言葉が出てきた。その言い方だと毎年祭りを楽しんでいるように聞こえてしまう。

 別に緊急的に伝えなければならないことではないので、ここに長居する必要はないとシェリーは判断した。

「お忙しいようなら、後日でお願いします。そこまで急ぐことではありませんから」

 そう言ってシェリーが立ち上がろとすると、シド総帥が慌てて声をかける。

「待て待て。その件は長年、後手後手になっていた事なんだ。なんとかしようにも4年前だったか。嬢ちゃんがマルスの奴らをぶっ潰してから余計に水面下で動くようになって、被害が止められない状態になっているんだ。解決策があるなら早急に対処したいんだ」

 今すぐにでも対処したい雰囲気で言ってきたシド総帥にシェリーは首を横に振り

「直ぐに解決することではありません。真綿で首を絞めるように徐々に解決することですので」

「おい、言葉の表現が間違っているぞ」

「え?ああ、すみません。『気がつけば底なし沼に沈んでいた』の方がいいですね」

 シェリーは言い直したがそれに対してもシド総帥は否定する。

「それもおかしい!まぁ、解決するのに時間がかかるのは理解できるが、出来るだけこちらとしても早く解決したいんだ」

 シド総帥としても長年の悩みのタネだったのだろう。どうしても後手後手になってしまい、消えていく民に、眠りながら死んでいく民。それも民からは被害という認識はなく眠り病というやまいを患ってしまったとの認識だ。だから、国の上層部には被害の全容が把握できない。

「どう言う要件か聞いていないのですが、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

 シド総帥の雰囲気から、早急にフェクトス総統と連絡をとるべきではないかと判断したネールはシェリーに向かって尋ねた。しかし、シェリーは内容について答えない。

「急ぐ内容ではありませんので、落ち着いてからでいいですよ。フェクトス総統閣下もお忙しいそうですし」

「駄目だ。ネール、眠り病の事でラースの嬢ちゃんが面会を望んでいると今すぐ伝えて来い!祭りなんて来年もあると言え!」

 シド総帥はネールを追い出すように手を振りながら言った。それに促されるようにネールは部屋を出ていった。

「シド総帥。明日からお祭りなのですよね。皆さん楽しんでください。今回の件は本当に後日でいいのです。」

 ネールの背中を見送ったシェリーが言う。しかし、シド総帥は頭を掻きむしり、『あー』っと叫びだした。

「あのな、祭りっていっても馬鹿騒ぎしたいだけだ。フェクトスが参加しなくても何も問題ない!ただの憂さ晴らし!鬱憤晴らし!ただ暴れたいだけのフェクトスが居なくても祭りは問題ない!」

 いったい何の祭りなのだろう。グレイも気になったのだろう。

「爺様、祭りって何の祭りですか?」

「武闘大会だ」

 ・・・総統閣下が参加するものなのだろうか。どちらかと言えば主催者側のはずだ。

「ククク。あれだ。この国の風習ってヤツだ」

 戸惑った顔をしているグレイを横目で見ながら、オルクスが笑いながら言った。

「国の代表は強い奴から選ばれる。英雄が作った国らしいだろ?」

 英雄が作った国。決してその英雄は国の中枢には携わらなかった。決して英雄王とはならなかった。

 龍人アマツは国を陰から支え、表舞台には立とうとはしなかった。その天津に憧れ、強さを求め、国を治める者にも国民はそれを求めた。だから、強さを示す場が必要だったのだ。国を纏めるために。国民の支持を仰ぐ為に。

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