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12章 不穏な影

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 翌朝、早くに部屋をノックする音で目が覚めた。一瞬寝過ごしたかと思ったが、まだ、夜が明けたばかりの時間のようだ。起きようとするが、体が動かない。

「ちっ。離してください。」

「私が出ますから、ご主人様は寝ていて良いですよ。」

 と言うスーウェンの声が聞こえるが、見えない。なぜなら、目の前にはカイルが寝ているからだ。なら、後ろにいるのは誰だ。

「ご主人様。ノートル殿が眠りの魔術を掛て欲しいと言われていますので、少しお側を離れます。」

 またしても声だけ聞こえるスーウェンがノートルに呼ばれ部屋を出ていったようだ。
 どうやら、アイラを寝かせたまま移動する案を実行するようだ。小耳に挟んだ感じでも宿の食事が美味しくないだとか、あのイケメン達はどこに行ったのだとか、早くここに連れて来なさいと、うるさかったらしい。多分、1日目でノートルが切れたのだろう。

「シェリー、まだ早いから一眠りするといい。」

 シェリーのベットに近付いてきたオルクスに言われる。スーウェンの訪問者に対応した早さと朝に弱いオルクスが起きている事から、この時間に二人は起きていたようだが、どうしたのだろうか。
 しかし、そんな事はシェリーには関係がないので、もう少し眠る事にする。今日は国境まで飛ばなければならない。そして、今度は魔物討伐を・・・。


 2日目は順調に進んで行った。アイラが居るはずの馬車の中には黒い毛皮が巻かれて置かれている。何の毛皮か知らないが、一国の王に献上する物だ、ソレなりの物なんだろう。

 西の辺境都市に夕刻に到着することが出来たが土砂降りの雨に降られていた。先程まで快晴だったが、辺境都市に近付いたときから突然降り出した。
 雨の中それも夜に魔物討伐なんて危険なため出来ないので、ブライとノートルに言ってもう一日辺境都市にいることを伝えると。

「ええ。構いませんよ。ククルカン様のおかげで旅の行程に余裕がありますから。」

 昨日とうって変わってニコニコのノートルが言う。アイラというストレスから解消されたことが、彼の心に余裕をもたせることが出来たのだろう。
 アイラに付きっきりだったイリアも彼女から開放され、とても笑顔である。

 そして、シェリーはブライの前に立ち

「一人部屋を要求します。」

 と前置き無しで端的に言う。しかし

「却下だ。」

 とすぐさま返答される。

「どうしてでしょうか?」

「問題児を一人にしておくわけにはいかない。問題児の連れが厄介すぎるから一所に居てもらったほうがいいからだ。」

 その言い方だとまるで

「シェリー、部屋の鍵を貰ったから行こうか。」

 とカイルに手を掴まれ、ブライから引き離される。

「監視されている?」

 シェリーは今まで閉じていたマップを展開させる。宿に泊まっている客。宿の周りの人。全て軍兵だ。気づいていた、だからか。

『危機管理は大切よ。』

 佐々木がシェリーに呟く。

「私は知っていた?」

『ええ。』

「なぜ、私はわたしに教えてくれなかった。」

『だって、これから必要でしょう?私が出ていかなくても、わたしだけで対処することが』

 シェリーはそのことにとても腹が立った。どうしてわたしが!シェリーはカイルに手を引っ張られながら目を瞑る。

「ん?やっぱり、わたしはまだまだ子供ね。」

 佐々木が強制的に表に連れ出されてしまった。
 今まで、何かとシェリーが困っていると佐々木が手助けをしていた弊害がここに来て出てしまった。教えてあげなかったことで拗ねてしまったようだ。

「ササキさん?」

 やはりカイルにはシェリーと佐々木の違いがわかるようだ。

「ふふふ。」

 宿に指定された部屋は角部屋ではなく、両隣には既に客が入っているようである。こんな辺境都市で、それも国交がないモルテ国との辺境都市ですでに客が入っているなんて、やり過ぎではないだろうか。

 佐々木は部屋に入るなり、カーテンを閉め結界を張る。

「シェリー?どうかしたか?」

 グレイが今まで見たことがないシェリーの行動に驚いている。

「食事はいらないとドアの外の人に言って下さい。」

 と出入り口に立っていたオルクスに佐々木は言う。その言葉の通りオルクスは扉を少し開け、外にいる人物と話ているようだ。

 今回もソレなりのクラスの宿らしく、小さいながらもキッチン、リビング、寝室に水回りがついており、長期間滞在できる仕様になっていた。一通りチェックが終わった佐々木は振り返り、目の前には立ちすくんでいるシェリーのツガイ達に声をかける。

「取り敢えず、食事にしましょうか。」

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