上 下
133 / 774
12章 不穏な影

125

しおりを挟む
 佐々木は、亜空間収納の鞄から作りおきの食事を取り出し、小さいキッチンで温めなおす。
 佐々木の作りおきは幼いルークの為に作られた食事なので全てルークの好物ばかりが並んでいる。これも時間経過がない亜空間収納だからできることなのだが、成人した男性に出すには些か抵抗があるものだ。
 しかし、前回散々笑われた佐々木は開き直り、クマ形のハンバークや星形やハート形の人参が入ったスープを並べだす。

 この料理を見てどうやらシェリーだが、シェリーではないとグレイもスーウェンもオルクスも気がついたようである。

 食事をしながらもオルクスとカイルは扉の向こう側を気にしている。やはり、気づいていなかったのはシェリーだけだったようだ。

「今回はどうしたのですか?」

 食事が終わりお茶を出したところでスーウェンが聞いてきた。

「今回の事で、少し私が口出しをしたので、わたしがへそを曲げてしまったのです。」

「どういう事ですか、ご主人様。」

 スーウェンが佐々木に聞いてくるが、確かに理解不能な言葉ではあったであろう。

「貴方達は気づいていたのでしょ?この旅に第4師団の監視が付いていることに。そして、昨日宿泊した街に第9師団長さんまで配属されていた。でも、わたしは、シェリーは気づいていなかったのです。第4師団長さんの言葉で気がついたので、私が危機管理は大切よって言ったら、『気づいていたのなら、なぜ教えてくれなかった』って怒られてしまったのですよ。」

「貴女には分かってシェリーに分からない事なんて、あり得るのですか?もとは同じシェリーだと聞きましたが?」

 確かにそうだ。元が同じなら得られる情報は同じはずだ。

「経験の差でしょうか。考えれば第4師団長さんだけが責任者としていることがおかしいと思いますよね。そういうところがわたしには足りないのです。今までは何と私が出て補ってきましたが。」

「それは、貴女とシェリーは全く違うということですか?」

「そうではなく。わかりやすく言えば大人のシェリーと背伸びをした10歳の子供のシェリーですかね?」

「「「は?」」」

「わたしはあのオリバーにすがり付いて泣く事はしないですよ。するのは子供ぐらいです。」

 佐々木の『あの』は何を表しているかわからないが、年頃の娘が自分より美人の男に縋りつけるのかと、怪しい物を生み出し続ける奇人に縋りつけるのかと、どちらにも取れてしまう。

「でも、ササキさんとシェリーは一人なんでしょ。」

 カイルが佐々木に尋ねる。

「それが?」

 それがどうしたと。

「シェリーが困るとササキさんも困ることになると思うよ。ねぇ。ササキさんは何から逃げているの?世界から?俺たちから?異世界にある・・。」

 その先は言葉を紡げなかった。佐々木が一瞬でカイルに詰め寄り、刀をカイルの首元に当てていたのだ。

「何が言いたいのですか?私が居なくても世界は廻り続けるそれが事実です。私が居なくても役目を果たすシェリーがいればいい。神が欲しているのは・・・。神の・・・。」

 佐々木は言葉を止め、刀を収め何かを考え始めた。そして、何かを思い出すように言葉を発する。

「『神々は我々を観ている。退屈な日々の肴にしようと、狂宴を喜び、私の苦しむ姿を嘲笑っているのだ。』」

「それは?」

「ドルロール遺跡の100階層にある大魔女エリザベートが刻んだ文字です。コレが答えです。カイルさんに問われた答えであり、生贄の答えです。」

「生贄?」

 佐々木はそれには答えず。

「もう、この話は終わりです。私は休みます。」

 そう言って、佐々木は奥の部屋に入っていく。窓側にあった一人がけのソファに座り、ため息を吐く。シェリーが思い至らず分からなかった答えに佐々木は行き着いてしまった。

 光の巫女。神の降臨。生贄。エリザベート。それはマルス帝国の思惑では無くおそらく、サウザール公爵個人の思惑。

「最悪。馬鹿馬鹿しい。そんな事のために。」

 しかし、サウザール公爵が光の巫女まで行き着いたと言うことは、彼女の何かしらの手記か資料かを手に入れたと思われる。一体どこで?ラースで手に入れる事は出来ない。そもそも残しているとは考えにくい。となると

「グローリア国」

 これは一度グローリアに行かなければならなくなった。

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

異世界転生したら悪役令嬢じゃなくイケメン達に囲まれちゃいましたっ!!

杏仁豆腐
恋愛
17歳の女子高生が交通事故で即死。その後女神に天国か地獄か、それとも異世界に転生するかの選択肢を与えられたので、異世界を選択したら……イケメンだらけの世界に来ちゃいました。それも私って悪役令嬢!? いやそれはバッドエンドになるから勘弁してほしいわっ! 逆ハーレム生活をエンジョイしたいのっ!! ※不定期更新で申し訳ないです。順調に進めばアップしていく予定です。設定めちゃめちゃかもしれません……本当に御免なさい。とにかく考え付いたお話を書いていくつもりです。宜しくお願い致します。 ※タイトル変更しました。3/31

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。 「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。 しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。 これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。

夫が私に魅了魔法をかけていたらしい

綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。 そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。 気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――? そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。 「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」   私が夫を愛するこの気持ちは偽り? それとも……。 *全17話で完結予定。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

処理中です...