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アーフリー

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張本人の息子を退出させ改めて執事と話をする。
「ごめんなさいね息子さんの件。ワリーナとの関係には気づいてたの? 」
「いえ寝耳に水でして今日息子に紹介された次第です」
汗をびっしり掻いた執事がハンカチを取り出す。
「本当に申し訳ありませんご主人様。手を煩わせその上情けをかけて頂いて」
畏まり深く頭を下げる。このままではまた土下座でもしそうな勢い。
倍返しされても困るので落ち着くように諭す。

「それで彼女についてはどう思いますか? 」
「彼女? はて…… 」
「ですからワリーナ。彼女をどう思いますか? 」
もう忘れたとでも言うの? 嘘でしょう?
「はあまだ幼いなと」
正直に答える執事。ならばこれでどう?
「会ったことは? 」
「それはもちろん何度も…… 」
「認識はしていた訳ですね? 」
「はいもちろん。変なことを聞きますねご主人様」
執事が訝しむ。

「それで彼女はどうです。あなたの目から見て可愛い? 素敵な女性? 」
「ええまあこのぐらいの子は可愛いものです」
「では息子さんの代わりに付き合いたいとは思いませんか? 」
「はい? 私には妻も子もいますよ」
うまい逃げ方だ。ただそれでは答えになっていない。
「ご主人様はさっきから何をおっしゃってるのですか? 」
「息子の恋人に惹かれることなどあるのか興味がありまして。後学の為に一つ」
「見損なわないでください! 誰が悲しくて息子の恋人に手を出すんです? 」
興奮する執事を宥める。
「いえ興味本位でそんな本気になられても。どうですもっと軽く考えては? 」
「ははは…… ご主人様も人が悪い。確かに私も男です。
あのような綺麗な娘を見れば夢見ることはあります。
しかしそれを抑えるのが人間であり男なのです」
執事にもその気がある。ならば私がセピユロスさんに惹かれても何の不思議もない。
ボノだってそうだ。ヴィーナと同世代のメイドに手を出している。

「ではワリーナが迫ってきたらどうします? 」
もうちょっと突っ込んだ話をする。
「何を馬鹿なことを…… いえ失礼しました」
「どうぞ。お答えください」
執事を困らせるのは昔も今も変わらない。
そのたびに老け込んで行く執事を見ていると辛い。
しかし今はそんないたずらレベルではない。
「もうご主人様はおふざけになって」
「答えられませんか。では処分をもっと厳しくするしかない。
これはあなたの息子の失態。それを取り戻すにはあなた自身が真剣に答えるべき。
違いますか? 」
もはや脅迫? ううん強要かな。
悪いとは思いますがこれも穏便に済ますために最低限しなければならないこと。
「それほどまで私どもに慈悲をかけてくださるとは有難き幸せ! 
もし彼女が迫ってきたら受け止めます。それが男と言う者です」
少々無理があったかな。
だがこれで少しは罪悪感から逃れることが出来る。

「そうですね。私もぜひそうしたい」
言わせといて賛成する形で自分の意見を述べる。
汚いがこれも一つのやり方。
「ではこの話はおしまい。今まで通り執事として盛り立ててくれますね」
「ははあ! 」

「ご主人様! ご主人様! 」
どこからともなく声がする。
「アーフリー様がいらっしゃいました」
もう到着したらしい。随分早いお越しで。
急いで歓迎の支度をしなくてはいけません。

「お姉様! 」
出迎えようとしたが間に合わずこちらに向かって来た。
出迎えはいらないとはお姉様のいつもの口癖。
お姉様の家はごく一般的な家でメイドもおらず自分ですべてをやっている。
お姉様も昔は私と同じようにお嬢様で何もできなかった。
ただ婚姻してから積極的に何でも取り組むように。
自由を愛するお姉様。
私も見習わなくては。

ボノが姿を見せる。
「久しぶりだね」
何事もなかったように笑顔で接するボノ。
私にはどうしても耐えられない。笑顔が引きつってしまう。
どうにか仲のいい夫婦を演じる。
しかし仲のいい夫婦を演じるには今の私には辛すぎる。
お姉様に見透かされなければいいのですが。

                続く
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